国軍がクーデターを起こしてから1日で4年となったミャンマーでは、現在も国軍と武装勢力などの間で戦闘が続いており、人口の3分の1以上に相当する1990万人が人道支援を必要としている。こうした深刻な人道状況を伝えようと、同国最大都市ヤンゴンのカトリック大司教であるチャールズ・マウン・ボー枢機卿が来日し、日本プレスセンタービル(東京都千代田区)で3日、記者会見を開いた。
国連の昨年12月の発表(英語)によると、ミャンマーでは現在、人道支援を必要とする人は推定1990万人に上り、このうち630万人が子ども、710万人が女性とされる。また、国内の広範囲にわたる戦闘により、国内避難民は推定350万人に上り、少なくとも1520万人が深刻な食料不安に直面している。
ボー枢機卿は会見で、ミャンマーの現状を示すこうしたデータに触れつつ、国内避難民のうち、設営されたキャンプに避難できているのは全体の15パーセント程度に過ぎないと説明。残りの人々は、ジャングルのような場所に身を隠さざるを得ない状況だと話した。
ボー枢機卿によると、ミャンマーでは国軍と多数存在する武装勢力の間の対立に加え、民主化を求めて武装化した一般市民の勢力も加わって戦闘が続いている。現在、国土の5~6割は武装した何らかの勢力の支配下にある。これらの勢力は国軍打倒では一致しているものの、それ以外の思惑は各自で異なる。共通の目標がなくなったとき、どのような状況になるかは全く見通せないという。
中には、食料や換金目的の物品を目当てに、自分たちとは関係のない村を襲撃し、村ごと放火する武装勢力も存在し、国軍が同様の行為をすることもある。また、いずれの勢力にも加わっていない一般市民の間でも、護身用に銃を携帯する人が非常に増えており、個人間のトラブルで銃が使われるケースも出ている。
ミャンマーが独立した1948年に生まれたボー枢機卿はこれまで、2021年を含め、国軍によるクーデターを計3回経験しているが、「この70年以上の間で、こんな悲惨なミャンマーを見たことはいまだかつてありません」と話す。
ますます混乱が深刻化するミャンマーだが、ウクライナやパレスチナの戦争に隠れ、ニュースとして取り上げられる機会は減少している。ボー枢機卿は、「依然として窮状にあるミャンマーのコミュニティーに対して視線を投げかけ、支援の手を差し伸べてほしい」と訴えた。
ボー枢機卿は、特定の人物や団体を名指しして批判しない政治的スタンスを取っており、国軍を含め、あらゆる組織とコミュニケーションを取るためのルートを確保しているという。中央政府が平和構築に向けて選定したキリスト教系の指導者グループのメンバーでもあり、昨年のクリスマスには、ミン・アウン・フライン最高司令官ら軍関係者が100人近くも出席した集会でメッセージを伝えたこともある。

ボー枢機卿は、現在の悲惨な状況を招いた原因として教育の欠如を挙げた。「若い世代は、感情に突き動かされ、怒りと爆発した感情で銃を取ってしまいがちです」。現在、国軍は徴兵制を始め、武装勢力も兵士を募っており、どちらの側になったとしても若者と若者が殺し合っている状況だとし、「平和こそが解決の道」だと教えていくことの重要性を語った。
一方、悲劇的な状況の中にありながらも、ミャンマーの人々の中には、驚くほどの回復力があり、希望を失わない心があるという。現地の司祭や修道女らは、信者らに寄り添いながら精神的なサポートを行っており、勇気を失わずに、憎しみを捨て、赦(ゆる)しの心を持ち続けること、また連帯の心を忘れないよう日常的に伝えていると話した。
日本のカトリック信者に対しては、継続的な人道支援を要望。また、毎年ミャンマーのために祈ってくれているとして、東京大司教の菊地功枢機卿に感謝の意を示し、「私たちの心が正しい方向に常にあるように祈ってほしい」と求めた。
ボー枢機卿は今回、自身が国際共同会長を務める世界宗教者平和会議(WCRP)のフランシス・クーリア・カゲマ事務総長と共に来日した。クーリア氏は会見で、WCRPには国・地域・世界それぞれのレベルで組織を持つユニークな構造があるとし、さまざまなレベルで平和構築に貢献できると強調。「(ミャンマーの)問題は非常に複雑で大きいものですが、複雑過ぎ、大き過ぎて解決できない問題はないと信じています」と話した。
ボー枢機卿らは、4日には日本の国会議員らと面会し、5日にはミャンマーの平和構築に向けた諸宗教・国連諸機関・諸団体による円卓会議に出席する。