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富についての考察

富についての考察(55)重さゼロの危険性 木下和好

2016年7月4日06時15分 コラムニスト : 木下和好
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私は港町に生まれ育ったが、停泊中の船がいとも簡単に動くのに驚いたことがある。停車中のトラックを押してもてこでも動かないのに、その何十倍もの重さの船を留めてあるロープを足で押さえつけると、大きな船が少しずつ自分に近づいて来るのだった。

それが洗脳の原理と似ていると気付いたのはずっと後になってからだ。船が簡単に動く唯一の理由は、水の浮力で重さがゼロになっていることである。重さがゼロの場合、錨(いかり)が海底をしっかりとらえていない限り、風や海流で何の抵抗力も無いまま押し流されてしまう。

われわれが直面する危険性は、何か大きなことを期待しているとき、それを実現させてくれそうな人物に出会うとその人に傾倒し、重力を失ってしまうことである。

誰かを尊敬し、追従すること自体は問題ではない。12弟子もイエスのひと言で、簡単について行った。でも判断基準を持たないまま特定の人物に傾倒すると、それは非常に危険である。錨を下ろしていない船と同じ状態になり、抵抗力を失ってしまうからである。

私は、地下鉄サリン事件を起こした「オウム真理教」の信者たちの中に、高学歴な人物が非常に多かったことを知り驚いた。医者や弁護士のような専門職の人も大勢いた。彼らはなぜ偽教祖にいとも簡単にだまされてしまったのだろうか。

洗脳の第1ステップは「期待」である。彼らは何かの真理を見いだすことを期待していた。でも真理の判断基準自体を持っていなかった彼らは、例えば薬物で覚醒状態にさせられてしまったことが教祖の力であるかのような錯覚を起こし、その教祖に傾倒してしまったのである。

「傾倒」という浮力は彼らの重さをゼロにし、やがて彼らは教祖の思いのまま思考し、行動するようになった。これが「洗脳」である。

われわれが大きく成長していくためには、夢と期待は大切である。でも期待が大きすぎると判断基準を見失い、「洗脳」に似た状態に陥る危険性がある。われわれ夫婦は、大きなことを期待しすぎたが故に浮力が働き、いとも簡単に物事を決断し、ビジネスに失敗したことが何度かある。

それらの経験から、最近は魅力的な話であっても、まず一度退いて全体像を確認し、それから決断することにしている。それでビジネスの失敗も減ってきた。

パウロはⅠコリント1:12で、特定な人物に傾倒しないように警告している。彼らが「私はパウロにつく。私はアポロに。私はケパに。私はキリストに」と言っていたからである。

キリストのみが信仰の礎石であって、それ以外の教祖が現れることは非常に危険である。どんなに立派なリーダーであっても、絶対的判断基準を持たずにその人物に傾倒すると、われわれは重力を失い、その人の思いのままに思考し行動するようになってしまう。もしもその人物が誤った思想や発想を持っていれば、それは「洗脳」となる。

ビジネスにおいても信仰においても「傾倒」は要注意だ。判断基準を持たなければ重さがゼロになってしまうからだ。われわれは錨を真理という海底から引き上げてはいけない。

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◇

木下和好

木下和好

(きのした・かずよし)

1946年、静岡県生まれ。文学博士。東京基督教大学、ゴードン・コーウェル、カリフォルニア大学院に学ぶ。英会話学校、英語圏留学センター経営。逐次・同時両方向通訳者、同時通訳セミナー講師。NHKラジオ・TV「Dr. Kinoshitaのおもしろ英語塾」教授。民放ラジオ番組「Dr. Kinoshitaの英語おもしろ豆辞典」担当。民放各局のTV番組にゲスト出演し、「Dr. Kinoshitaの究極英語習得法」を担当する。1991年1月「米国大統領朝食会」に招待される。雑誌等に英語関連記事を連載、著書20冊余り。

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※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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