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論説 心のユビキタス

2005年9月26日11時02分
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現代社会は高度に情報化された社会である。例えば、ブロードバンド通信技術は成長に成長を重ね、その発展は携帯電話一つにしても一目瞭然である。機種は年々小型化、多機能化されていき、その機能の全てを使うことはまず無い。国民の八割近くが電話機を持ち、まるで体の一部のようにつけて歩く。人々は電車の中や街のいたるところで昔には考えられなかった大容量のコミュニケーションを楽しむ。現代人にとってメールチェックやネットサーフィンはもはや日常以外の何物でもない。このように、人と人のコミュニケーション手段は目覚しい発展を遂げ、まさしく、人類は「ユビキタス」という言葉に相応しい情報の洪水の中で暮すようになった。

近年の情報技術の発達には、我々が絶えず誰かとのコミュニケーションを望み、いつも新鮮な話題と新しい情報を探すという背景がある。友達や同僚または上司とのこまめなコミュニケーションは人間関係や仕事のためにも欠かすことはできない。当然ながら、コミュニケーション手段の発展は、人と人との距離を狭めると期待される。しかしながら、我々の社会は通信手段の発達の一方で、戦争、テロ、孤独、いじめ、不登校、自殺などの、いわばコミュニケーションの不具合によるものと考えられる深刻な問題を経験している。そんな極端な例を挙げなくとも、個人の会話の中でも、見えない壁によって互いが疎外され、携帯やパソコンなどなかった時代よりも自分の本心を正直に伝えられない一種のもどかしさを経験することがある。技術と道具が発展すればするほど、我々人間同士の不具合は、皮肉な形で浮き彫りになる。

見えない壁、人間の不具合とはなんだろうか。日本は「恥の文化」と言われ、「社交辞令」や「本音と建前」を使い分ける風習があるが、現代人の本心を語らず心を開かない現象を単純に日本特有の文化のせいにすることは無意味であり、むしろ美徳の文化は積極的に守るべきである。それ以上に根本的な問題は、我々人間同士の「律法的な関係」にあるのではないだろうか。律法的な関係とは罪には必ず罰を与える関係、つまり互いに罪を指摘し合う関係を意味する。日本人が特に律法的な関係にあるのは、罪の意識をより敏感に感じるからである。そのことは神社やお寺などの伝統文化にも如実に表れている。罪の意識や穢れから身を清めたいと願うからこそ神仏にすがるのである。実は、この罪悪感が問題なのではない。むしろ罪に対して敏感だから、法やルールを守ることにおいて優等生を目指し、社会の正義が実現された。

問題は、このような律法によっては、決して罪が解決できないところにある。律法は、体の外に出る罪には非常に敏感でありながら、心に潜んでいて表に出ない罪には鈍感であるから、人々は、決められたルールさえ守れば良いし、表向きが正しければ良い。決められた枠の中ではしゃぐことは許されても、それ以上個人のプライバシーに付け込むのは失礼となる。我々が律法の関係にだけ安住しているとき、心の中の放置された罪が飛び出るのを恐れるあまり、かえって無味乾燥で表面的でぎこちない人間関係になってしまうのである。結果的に、目に見えるのは±0の綺麗な関係を維持できるが、律法という見えない壁によって互いに心を隔ててしまう。

我々が隔たりなく自由なコミュニケーションを楽しむためには、我々に付きまとう律法の鎖を壊す必要がある。互いに相手に対して寛容と理解の心を持ち、相手を自分の物差しで判断しないときに、我々の見えない壁を崩すことができる。律法的な関係では決して本当の自由を味わうことはできない。我々を律法の中に閉じ込めてしまう罪の意識を自らの努力や行いで解決しようならば、条件が条件を呼び、罪の重荷は増えるばかりで、結局はその人を押しつぶしてしまうだろう。律法によっては、罪からの救いは得られない。人が本当に罪から開放されるのは、罪から赦されるときである。したがって、我々が「福音的な関係:罪を赦し合う関係」を持つときに初めて、心と心とが交わることができる。

では、福音的な関係の中で、心と心を分かち合うコミュニケーションを実現させるにはどうすればよいだろうか。お互いにパソコンを線でつないだからといってインターネットができるわけではない。全ての端末が中心のサーバーに接続されていなければならないように、我々の心も、一人ひとりが中心であるキリストにつながるときに初めて、律法的な関係を超え、人と人が分かち合うことができ、本当のコミュニケーションが実現される。情報工学の発達が私たちに情報のユビキタス時代を到来させたならば、我々クリスチャンは、心と心が通じ合う世界、「心のユビキタス」時代のビジョンを持って、多くの人々がキリストにつながり、どこでもいつでも人と人が心で通じ合う世界を目指すべきである。

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