キリスト教保守はトランプ氏に「合格点」 米中間選挙(2)

2018年10月24日20時54分 執筆者 : 青木保憲 印刷
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+キリスト教保守はトランプ氏に「合格点」 米中間選挙(2)
ドナルド・トランプ大統領と共に祈るためにホワイトハウスの大統領執務室を訪れた米国の福音派指導者ら=2017年12月11日(写真:ジョニー・ムーア氏)
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前回、米国の福音派牧師の51パーセントが「トランプ支持」と表明した記事を紹介した。ちなみに10月23日付のギャラップ調査報告によると、米国民全体でドナルド・トランプ大統領の働きを肯定的に評価したのは44パーセントである。9月半ばから微増しているとはいえ、明らかに福音派陣営の支持率は高い。

彼らが今回の中間選挙でも強力な支持集団と化すことは想像に難くない。しかし、彼ら福音派は初めから一枚岩で「トランプ支持」だったのだろうか。彼らは2016年の大統領選挙前から一貫して支持を継続してきたのだろうか。決してそうではない。

その証拠に、根強くトランプ氏を非難し続ける福音派団体も活気を帯びた活動を展開している。カバノー氏と福音派の記事で取り上げた「反トランプ」を掲げる福音派指導者の一人リチャード・ザイジック氏は、選挙戦でトランプ氏が台頭しつつある頃から一貫して、彼の政策はもとより、彼の人間性(宗教性)を取り上げ、反対を表明してきた。現在、彼は各州や大学を回り、若者たちにトランプ氏の問題を訴え続けている。また、ワシントン・ポスト紙のコラムニスト、マイケル・ガーソン氏の「トランプ優勢が米国に意味するもの」(英語)を取り上げ、警告を発している。そもそもワシントン・ポスト紙が左寄りなので、トランプ支持派と議論がかみ合うはずもないが、福音派内でのザイジック氏の立場は一貫しているといえよう。

一方、福音派というよりもペンテコステ諸派の牧師と言った方がいいかもしれないが、10月21日付のカリスマ・マガジン誌で「あなたはトランプを支持しないの? 以前は私もそうだった。でもね・・・」(英語)という記事が掲載された。筆者はマイケル・ブラウン博士。彼はニューヨーク大学でPh.D.を取得し、フラー神学校をはじめ、ゴードン・コンウェル大学などで教鞭を執る実践神学の学者兼牧師である。福音系の大学で教鞭を執る傍ら、自身の働きとしてファイヤー・スクールという若者向けのキリスト教主義学校を創設し、その責任者となっている。

この記事の中でブラウン氏は、はっきりとこう述べている。

私はかつて、極端な反トランプ派だった。彼の過去が嫌いだった。物言いが信用できなかった。彼の人間性にどうしても私は疑いを持ってしまっていたのだ。

これは、選挙戦が行われていた時期の率直な彼の感想だろう。そして、トランプ氏当選後から現在までを振り返ってこう述べている。

すべて正直に告白するなら、彼(トランプ氏)が共和党の第一候補となったときに私がどんなに彼を嫌っていたのか、そのことをまったく今は忘れてしまっているのだ。

そして、後半部でこう書き残している。

もしトランプ氏がよきモデルになってくれるなら、素晴らしいと思うか?
―そりゃもちろん。
彼がより多くの人々を結束させてくれたらいいと願うか?
―その通りだね。
じゃあ、喜んで彼に投票したいと思うかい?
―絶対そう思うよ。
もしもう一度、トランプ対ヒラリーとなるなら、私は迷うことなくトランプに投票するだろう。

カリスマ・マガジン誌とは、1975年に創設されたペンテコステ諸派系の情報月刊誌である。現在では30万部に迫る勢いを持ったペンテコステ・カリスマ系の情報誌となっている。ペンテコステ諸派のみならず、福音派内でも多くの読者を獲得していると聞く。

「異言を語ることだけがペンテコステの証し」としてきた1900年代初頭からのオールドスタイルのみならず、60年代に、同じ異言が他教派でも見受けられるようになったことで注目を集めた「カリスマ運動」をも包み込む形で、ペンテコステ諸派は形成されてきた。そして、90年代の「第三の波」「リニューアル運動」などが福音派との連携を強めたことから、現在はペンテコステ諸派と福音派の峻別はつきにくくなっている。

ブラウン氏のような福音派系の神学者がペンテコステ系の月刊誌に投稿しているということから、そのことが分かるだろう(このあたりは後々、またまとめて情報提供していけたらと考えている)。

いずれにせよ、彼は自らの変節を赤裸々に語り、そういう思考の変更を遂げた者は他にも多くいる、と述べている。

では、どういった観点から彼はトランプ支持へと転向したのだろうか。やはり第一に彼は、トランプ氏が米国経済の回復に寄与した点を挙げている。これは米国人全体に肌感覚として浸透している共通する雰囲気なのかもしれない。そして、トランプ氏が自らの「通知簿」に加点してもらうべく、必死にアピールしている点でもある。

一方、幾分変わった理由を彼は列挙している。しかし、これらはどちらかというと聖書物語をペンテコステ的に隠喩解釈したものばかりであり、おのおのを取り上げて検証するまでもない事柄である。例えばトランプ氏を「現代のキュロス王と見なすべきだ」という預言を受けて、「自分は間違った考え方をしていたのでは?」と思うようになった、などである。

しかしここで大切なのは、現在トランプ氏を支持している福音派・ペンテコステ諸派の中に、以前は彼を嫌ったり、反対したりした者たちが少なからず存在していたということである。それを正直に告白する者たちがあちこちで出現し始めているということである。

変節の理由はまちまちであり、経済的成果という最も現実的な成功体験が緩やかに彼らを包み込み、そこに宗教的(信仰的)な理由が後から付加された、と捉えることはできないだろうか。

言い換えるなら、福音派で当初トランプ氏を否定していた人々は、現在「心変わりの理由探し」に奔走していると捉えることもできるかもしれない。もっと言うなら、「神の前での贖罪(罪滅ぼし)」である。

彼ら米国福音派にとって、「大統領」とは政治的な指導者であるのみならず、聖書に基づいた祭司的役割を担う霊的指導者という捉え方ができる。そのため、2016年にトランプ氏が当選したとき、反トランプ派であった彼らは、自分たちが神の御心に背いたと感じてしまったとしてもおかしなことではない。

彼らにとって、大統領とは神の前に人々を導くべく、「神によって立てられた指導者(大祭司)」なのである。その選択を自分が間違えたということは、反対していたトランプ氏が大統領になるよりも、自身の信仰にとってはつらいことだろう。ある者にとっては、罪を犯した、くらいの思い込みを抱くことだってある。

そして再び巡ってきたチャンスが11月の中間選挙である。今度こそは、間違えなく「神の御心に沿う選択を」と考えることは、想像に難くない。

事実、トランプ氏当選を神から事前に啓示されていたという一人の男を追ったドラマが映画化され、地域限定公開ながら、一部の福音派の人々の間では熱狂的なブームとなっている。それが「トランプの預言(The Trump Prophecy)」という映画である。

「究極の後出しジャンケン」ではあるが、これはキリスト教保守派(福音派・ペンテコステ派)の一つの特色である。

世の中は神の御手で完璧に導かれており、それに気付かない愚かな人間は、たとえ「後出し」であっても神の御心に沿った生き方をするよう求められている。

そう信じる者たちが今回の中間選挙で一つの波(ウェーブ)を生み出すことができるのか。それとも、日本でも報道されているように、共和党は議席を失い、民主党が躍進することで、歴代の大統領が苦慮してきた「ねじれ議会現象」にトランプ氏も直面せざるを得ないのか。

同じ福音主義の信仰を持つ者としても、興味は尽きない。

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青木保憲

青木保憲(あおき・やすのり)

1968年愛知県生まれ。愛知教育大学大学院を卒業後、小学校教員を経て牧師を志し、アンデレ宣教神学院へ進む。その後、京都大学教育学研究科卒(修士)、同志社大学大学院神学研究科卒(神学博士、2011年)。東日本大震災の復興を願って来日するナッシュビルのクライストチャーチ・クワイアと交流を深める。映画と教会での説教をこよなく愛する。聖書と「スターウォーズ」が座右の銘。一男二女の父。著書に『アメリカ福音派の歴史』(2012年、明石書店)。

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