13日、蒲田御園教会(東京都大田区)で「原発を問う教会、原発に問われる教会」と題したシンポジウムが行われた。シンポジウムでは日本キリスト教会教師の渡辺信夫氏、日本キリスト教会宇都宮松原教会長老渡辺和人氏、福島県いわき市勿来キリスト福音教会(日本同盟キリスト教団)牧師住吉英治氏および 日本キリスト教会横浜海岸教会上山修平氏がそれぞれ原発問題に教会がいかに対処し、方向性を示していくべきかについてそれぞれ講演を行った。
1923年に生まれ、太平洋戦争、福島原発事故の両方を経験し、「第一の敗戦と第二の敗戦」について各地で講演を行ってきた渡辺信夫氏は戦争罪責と原発問題について、その根本にある問題として「国家権力の肥大化」を指摘した。また原子力問題については、1954年に米軍の水素爆弾実験によって多量の放射性降下物を浴びた第五福竜丸事件が生じた時代には核兵器反対運動に時間と精力を注いでいたものの、「原子力平和利用」という声が強まって行く中で、運動から手を引いていった恥ずかしい事実があることを告白した。
渡辺氏は、原子力問題についての運動から手を引いて行った経緯について「核の平和利用ということが叫ばれるようになってから、核関係の運動はやめてしまいました。はっきり言って私はだまされたわけですが、だまされた自分が恥ずかしい。だまされたことについて悔い改めなければならない、自分を立て直していかなければならないと考えました。(原子力の問題について)だまされたということがはっきりとわかったのが昨年の3月でした」と述べた。
2度とだまされてはいけないという思いから、原子力問題について本格的に勉強をしなくてはならないと思うようになったという。渡辺氏は思想史に基づいて、「核利用」というとんでもない手段を人間が考えた歴史を遡って検討した結果、ルネッサンス期の思想家ピコ・デラ・ミランドラが人間の偉大さを論じ、人は何でも作り出すことが出来るという誇り高い人間観を基礎づけたことにあるのではないかと指摘した(山本嘉隆「福島の原発事故をめぐって いくつか学び考えたこと」2011,8月第1版、みすず書房)。
人間を「偉大」と考える思想が原子爆弾製造に貢献
宗教改革とは全く離れた人間本位の立場に立つ思想家であったミランドラの思想に対して渡辺氏は、「人間が自己を大いなる存在と自惚れてはなりません。それまでの欧州は『人間は小さいものだ』という考え方が主流となっていましたが、ミランドラの思想はそれを覆しました。それがだんだん膨れて来て原子爆弾を造り出すようになってしまいました。『原子力を利用して人間の幸福を造り出す』というような考えになっていきました」と解説し、「福島の原発事故が生じるまで私はこの問題について関心が及びませんでした。こういうものを造り出す精神の起源になるものに対する追求をこれまでしてこなかったことを反省し、理論的にはっきりさせていきたいと思っています」と述べた。
渡辺氏はミランドラと並んでマキャベリの思想についても言及し、「マキャベリは国家権力が大きなものであるということを肯定的に考えました。宗教改革者のカルヴァンは意識的にマキャベリの思想を解説しております(「キリスト教綱要」第4篇20章)。カルヴァンは地上の権力は神に基づくものとして重要視しなければならないということを第一に言及し、地上権力が肥大化してはならないということを繰り返し言ってきました。教会の歴史を見ましても、宗教改革以後の教会は、国家権力がむやみに肥大化することはいけないという警告を発してきたと思います。日本においてはそれがきちんとできていませんでした。また近代世界の多くの国々において、国家権力が非常に肥大化しています。それに対して、教会があまり発言していないということは問題にしなければなりません。権力が肥大化し、その肥大化した権力が、核の利用に結びつき、核利用の発展を取り込んできたわけです。核利用の効果が国家、官僚の権力、政界の権力に結びついたときに、莫大なカネを投じて、原子力による発電という事業を始めることができるようになりました。そのことに関して、私自身は警戒心がほとんど動かなかったことを恥ずべきことだと思っています。今からは肥大化して行く権力に注視し、富の力が肥大化しないようにするという使命を教会として持たなければならないと思っています」と述べた。
続いて宇都宮松原教会長老の渡辺和人氏(以下和人氏)は、「知の追求と原子力の利用」と題して講演を行い、教会が原子力問題について原子力推進派に対抗できるだけの「知を追求」して行く必要があることを強調した。
和人氏は原子力発電の問題について、1.事故が起こった時の被害の甚大さ、2.廃棄物の処理、3.多量の被ばく、4.安全保障の4つの問題があると指摘した。被害の大きさについては、原子力発電事故の確率は低くても、自己が起こった時の被害の大きさは莫大であり、「今回は運悪くあそこまでひどくなった」のではなく、「今回は運よくあの程度で済んだ」という認識が必要であると指摘した。福島原発の被害はアメリカ西海岸の漁業にまで及んでおり、遺伝子への影響は将来につながり、その被害については予想がつかないと懸念を表明した。
知の追求と原発問題
和人氏は原発問題に関して「知性によって人間の限界を知ることが必要」であるとし、「新しく得られた知見による技術を人間のために役立てようとするときに、本当に我々がコントロールできるのかどうかを検証しなければならない。原子力事故の場合は、空間的にも時間的にも非常に大きな被害が及ぶ」と警告した。
和人氏は原子力の利用について、「その危険性から考えて、失敗を重ねながらだんだん安全なものにしていく類の技術ではないと考える。何か実験をして安全なものをだんだん作っていくという考え方事態が間違っていると考える。原発は危ないからだんだん減らしていこうという考えではなく、直ぐにでもなくした方が良いと思う。望ましいが直ぐには難しいと言う人もいるが、実際に原発なしで過ごしてきた期間があるのに、何とかやってみようという意思が全然感じられない。電力が足りない、足りるの意見があるが、万一足りないとしても足りないなら足りないなりの生活をすればよい。一部の人の命を犠牲にしてまで享受するエネルギーがあって良いのかということを教会こそ問わなければならないと思う」と述べた。
またキリスト教会の「反知性主義」についても警告し、「日本キリスト教会が知性についてこれまで不誠実であったのではないだろうか。しっかりと勉強し、内容や中身を十分に検討して外に発信していかなければならない。自分のものになっていない情報をストックして述べてしまうことは、非常に恥ずべきことであるが、牧師を中心に教会の中ではあまりそう思わない人が多いのではと懸念している。そのような知性に対する不誠実さが教会の土台を揺るがしかねないと危惧している」と述べ、今回の原発事故に対して勉強不足を理由に教会として何も発言できないというのは問題であり、原発推進派に騙されないだけの知性を身につけるべきであると勧めた。
次ページはこちら「原発事故直後、祈りの中に現れたイエス・キリスト」
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