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キリスト教から米大統領選を見る(25)新駐日大使候補ハガティ氏とテネシー州宣教師のメール

2017年1月12日10時38分 コラムニスト : 青木保憲 印刷
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米首都ワシントンにあるホワイトハウス
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テネシー州ナッシュビルの友人の宣教師からのメール

私は米テネシー州ナッシュビルに多くの友人がいる。その大半がプロのミュージシャンで、また宣教熱心な福音派(ペンテコステ派も含む)である。毎年数組のミュージシャンたちが来日し、各地でコンサートをしたり、聖書の語る福音を伝える働きを担ってくれている。その中の1人から、こんな連絡が入った。

「トランプ新大統領が、駐日米国大使としてナッシュビル出身のビル・ハガティ氏を選出したことを知っていますか? 私の友人が彼の知り合いです。私たちが日本に毎年出向いていることなど、彼に伝えたいと思います。もし彼が協力してくれたら、福音宣教の働きがさらに前進すると思います。いかがですか?」

このニュースは知っていたが、あらためてハガティ氏について(ウィキペディアレベルの情報だが)調べてみた。

ウィリアム・フランシス・"ビル"・ハガティ(William Francis "Bill" Hagerty IV)氏。1960年生まれの56歳。地元の名門ヴァンダービルト大学を卒業し、現在は投資会社ハガティ・ピーターソン社創業者兼取締役。米テネシー州ナッシュビル出身。コンサルティング会社ボストン・コンサルティング・グループの上級駐在員として東京に3年間滞在したこともある知日派。ビジネス活動に加えて、多くの政治活動を行ってきた。大統領選挙においてはドナルド・トランプ氏の政権移行チームの政治任用担当。

私の友人からのメールは、現在の福音派のトランプ政権への対応の1つを象徴しているように思われる。つまり完全に「トランプ新大統領」を容認し、その人事に一喜一憂しているということである。

そんな彼女は、実は選挙戦の最中には「トランプなんてイヤ! こうなったら次期大統領に、本気でイエス様になってもらいたいわ!」と嘆いていた悲観主義者の1人であった。しかし、今や彼女の思考は「トランプショック」を乗り越えたようである。

「2016年は過去の事。もう時代は新たにされたのだから、その枠でポジティブに考えよう」ということだろう。この「変わり身の早さ」こそ、米国福音派が歴史に生き残ることができた最大の要因であると筆者は考えている。

もちろんこれとは対照的に、批判的な発言を繰り返す福音派陣営が存在していることもまた事実である。彼らの日曜礼拝での説教を聞くにつけ、「福音派内も分裂の危機があるかもしれないな」とは思わされる。しかし、その発言をそのまま実践に結び付けるつもりはないようだ。あくまで「聖書の言葉」に還元し、そこから導き出される「悪、不寛容」を批判する際の例話としてトランプ氏が用いられている。

さて、このようにそれぞれの思惑で新たな時代に向き合おうとする福音派陣営。本コラムのまとめ第2弾として、今回は福音派の今後の動向について考えてみたい。

前回、「米国の国家としての共通の未来」像が壊れかけているのではないか、と述べた。この傾向は緩やかではあるが、確実に米国内に進行するであろう。そこから新たな(つまりキリスト教に代わる)「未来像」を見いだすことになるのか、それとも「キリスト教」の懐をさらに深くし、いわゆる“ピューリタン的厳格なキリスト教信仰”が丸くなることで一体感を保ち続けるのか、その判断は極めて難しいと言わなければならない。

宗教史についてその専門を少しでもかじった者として言わせてもらうなら、データやインタビュー、アンケートなどの表面に現れる事柄のみで、その国や文化に関する事柄を捉えてしまうのは大変危険なことである。どうしてもそれは表層的な「シャッターショット」の分析にならざるを得ない。

宗教史、思想史、文化史という観点は、確かに進捗(しんちょく)が遅く、またどうしても保守的な意見にならざるを得ないが、しかし出来事の根幹に触れる議論を展開するためには、どうしても必要な知識となる。だから「福音派が今後、トランプ政権にどう向き合うか」とか、「4年後の大統領選挙に福音派は再びトランプ氏を支持するのか」という問いに対して、あまり細かな点を解明することはできないだろう。

しかし、彼らの出自や歴史的経過を丹念に見てきた者として言えるのは、今後進むであろう、おおよその方向性くらいなら確実なところを提示できるということである。そういった意味で述べさせていただくなら、福音派は確実に新政権を支持する者が増えていくであろうということである。

それは必ずしも「ドナルド・トランプ」を信頼しているからではない。彼らは一個人を神格化し、それに傾倒するという気質を持っていない。そうではなくて、「米国大統領」という立場に尊敬の念を抱くのである。なぜなら、ローマ書13章1~5節のこの言葉を字義通り受け止める傾向が強いからである。

 「人は皆、上に立つ権威に従うべきです。神に由来しない権威はなく、今ある権威はすべて神によって立てられたものだからです。従って、権威に逆らう者は、神の定めに背くことになり、背く者は自分の身に裁きを招くでしょう。実際、支配者は、善を行う者にはそうではないが、悪を行う者には恐ろしい存在です。あなたは権威者を恐れないことを願っている。それなら、善を行いなさい。そうすれば、権威者からほめられるでしょう。権威者は、あなたに善を行わせるために、神に仕える者なのです。しかし、もし悪を行えば、恐れなければなりません。権威者はいたずらに剣を帯びているのではなく、神に仕える者として、悪を行う者に怒りをもって報いるのです。だから、怒りを逃れるためだけでなく、良心のためにも、これに従うべきです」

福音派にとって「大統領という立場」は、神によって与えられたものということである。だから確定した新大統領に逆らうことは、すなわち神に逆らうという感覚を決して拭い去ることができない。むしろこれを受け入れ、そして協力的な姿勢を取ることで、たとえ神の前に悪をなす権力者であったとしても、あわよくば回心へと導きたいと願うのである。

そういった意味からも、福音派は今後、米国の「共通の未来」像を保持すべく、トランプ新大統領の「いいところ探し」をして、例えば私に歓喜のメールを送ってきた友人のように、「自分の郷土から大使が出た!これは神の導きで、きっと福音宣教のためにこの人脈が用いられるのだ!」という考えに至ることになる。

断っておくが、筆者は決してこのような米国福音派の在り方をアイロニカルに批判しているわけではない。こういう現実対応と困難を乗り越える処世術こそ、長くイズムを継承するためには必要なことだと考えている。だから表層的な数字のみではない、ということである。

また私としても、もしビル・ハガティ氏が、私たちのJAG(来日するミュージシャンたちの活動を支援して、多くの方々と交流できるように働き掛けるボランティア・ネットワーク、フェイスブックページはこちら)に関心を示してくださるなら、これ以上の喜びはない。福音派は「福音宣教」を最優先課題とする性質を持っている。だから太平洋を挟んで離れていても一体感を持てるし、また共働する可能性も広がることになる。

1月20日が迫ってきている。これ以降、私たちは良くも悪くも、トランプ新大統領に向き合っていかざるを得ない。米国福音派のような「思考の転換」「芯の強さ」を日本人も持つべきなのかもしれない。

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青木保憲

青木保憲(あおき・やすのり)

1968年愛知県生まれ。愛知教育大学大学院を卒業後、小学校教員を経て牧師を志し、アンデレ宣教神学院へ進む。その後、京都大学教育学研究科卒(修士)、同志社大学大学院神学研究科卒(神学博士、2011年)、現在は大阪城東福音教会(ペンテコステ派)牧師。東日本大震災の復興を願って来日するナッシュビルのクライストチャーチ・クワイアと交流を深める。映画と教会での説教をこよなく愛する。聖書と「スターウォーズ」が座右の銘。一男二女の父。著書に『アメリカ福音派の歴史』(2012年、明石書店)。

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