2020年6月4日10時47分

京大式・聖書ギリシャ語入門(22)これまで習った文法事項の復習(2)―動詞の活用を中心に―

皆さん、こんにちは。京大式・聖書ギリシャ語入門を担当させていただいております、宮川創、福田耕佑です。今回はこれまでに習った文法事項、特に動詞の活用を中心に復習しましょう。これまで動詞の現在形、未来形などを学んできましたが、少し整理してみましょう。

1. 能動態

(1)現在形
① ω 動詞(第3回・第5回)
② μι 動詞(第8回・第11回)
③ 約音動詞
(ⅰ)άω 型(第9回)
(ⅱ)έω 型(第9回)
(ⅲ)όω 型(第15回)
④ 繫辞動詞(第3回・第5回)

(2)未来形
⑤ ω 動詞(第16回)
⑥ μι 動詞(第21回)
⑦ 約音動詞
(ⅰ)άω 型(第16回)
(ⅱ)έω 型(第17回)
(ⅲ)όω 型(第17回)
⑧ 繫辞動詞(第20回)

このように一覧にしてみると、能動態の動詞に関してはかなりの活用形を学んできました。特に現在形については、例外的なものを除き基本となる形はほとんどすべて学びました。第11回で一度、既習の文法事項の復習を行いましたが、そこでは①、②、④、そして基本的な名詞の活用形を復習しました。今講座ではまず、まだ復習の時間を設けていなかった③約音動詞の現在形について復習しましょう。

③ 約音動詞の現在形:(ⅰ)άω 型(第9回)

  単数 複数
1人称 ἀγαπῶ -ά+ω ἀγαπῶμεν -ά+ομεν
2人称 ἀγαπᾷς -ά+εις ἀγαπᾶτε -ά+ετε
3人称 ἀγαπᾷ -ά+ει ἀγαπῶσι -ά+ουσι

③ 約音動詞の現在形:(ⅱ)έω 型(第9回)

  単数 複数
1人称 φιλῶ -έ+ω φιλοῦμεν -έ+ομεν
2人称 φιλεῖς -έ+εις φιλεῖτε -έ+ετε
3人称 φιλεῖ -έ+ει φιλοῦσι -έ+ουσι

③ 約音動詞の現在形:(ⅲ)όω 型(第15回)

  単数 複数
1人称 σταυρῶ -ό+ω σταυροῦμεν -ό+ομεν
2人称 σταυροῖς -ό+εις σταυροῦτε -ό+ετε
3人称 σταυροῖ -ό+ει σταυροῦσι ό+ουσι

約音動詞とは、連続する複数の母音が母音連続を解消するために1つの母音に融合したり、また複合母音を生じたりする現象を指しました。詳しくはそれぞれの動詞の型に参照として付けた過去の回より、再度御言葉と共に復習していただければと思います。

次は(2)未来形の活用である⑤、⑥、⑦、⑧に移りましょう。未来形は主に、第16回と第17回で学びました。そして繫辞(けいじ)動詞の未来形は第20回で、μι 動詞の未来形は第21回で御言葉を通して学びました。ざっくりと未来形の作り方の基本をいうと、活用語尾 -ω の前に -σ- を置くことでした。早速、活用表を見てみましょう。

⑤ ω 動詞の未来形(第16回)

  単数 複数
1人称 λύσω -σ+ω λύσομεν -σ+ομεν
2人称 λύσεις -σ+εις λύσετε -σ+ετε
3人称 λύσει -σ+ει λύσουσι σ+ουσι

ω 動詞の未来形の基本的な活用では、活用語尾の前に σ が挟まるだけになっています。

⑦ 約音動詞の未来形:(ⅰ)άω 型(第16回)

  単数 複数
1人称 ἀγαπήσω -ή-σω ἀγαπήσομεν -ή-σομεν
2人称 ἀγαπήσεις -ή-σεις ἀγαπήσετε -ή-σετε
3人称 ἀγαπήσει -ή-σει ἀγαπήσουσι -ή-σουσι

⑦ 約音動詞の未来形:(ⅱ)έω 型(第17回)

  単数 複数
1人称 φιλήσω -ή-σω φιλήσομεν -ή-σομεν
2人称 φιλήσεις -ή-σεις φιλήσετε -ή-σετε
3人称 φιλήσει -ή-σει φιλήσουσι -ή-σουσι

⑦ 約音動詞の未来形:(ⅲ)όω 型(第17回)

  単数 複数
1人称 σταυρώσω -ώ-σω σταυρώσομεν -ώ-σομεν
2人称 σταυρώσεις -ώ-σεις σταυρώσετε -ώ-σετε
3人称 σταυρώσεις -ώ-σει σταυρώσουσι -ώ-σουσι

以上のようになりました。特に約音動詞の未来形は、現代ギリシャ語でよく見る活用形になっていました。約音動詞では通常の ω 動詞と同じく、-σ- が語尾の前に来るのですが、この -σ- の前の母音がそれぞれ延長することがポイントでした。これらもリンクのある過去の回より御言葉と共に復習していただければ幸いです。

順番は前後してしまいますが、次に⑥ μι 動詞の未来形の活用を見ていきましょう。

⑥ μι 動詞の未来形:δίδωμι(第21回)

  単数 複数
1人称 δώσω -ώ-σω δώσομεν -ώ-σομεν
2人称 δώσεις -ώ-σεις δώσετε -ώ-σετε
3人称 δώσει -ώ-σει δώσουσι(ν) -ώ-σουσι(ν)

⑥ μι 動詞の未来形:τίθημι(第21回)

  単数 複数
1人称 θήσω -ή-σω θήσομεν -ή-σομεν
2人称 θήσεις -ή-σεις θήσετε -ή-σετε
3人称 θήσει -ή-σει θήσουσι(ν) -ή-σουσι(ν)

細かい説明は前回の第21回を参照していただければ幸いです。また -μι で終わる動詞ではありますが、繋辞動詞の εἰμί は例外的な活用をしますので、これに関しても見ておきましょう。

⑧ 繋辞動詞の未来形(第20回)

  単数 複数
1人称 ἔσομαι ἐσόμεθα
2人称 ἔσῃ ἔσεσθέ
3人称 ἔσται ἔσονται

今回の復習は以上になります。また「意味は現在・能動なのに活用形は中・受動態と同じ活用になる動詞」や「意味は未来・能動なのに活用形は未来の中動態の活用になる動詞」も学びましたが、これらの動詞は次の復習コーナーで取り上げさせていければと存じます。

第11回で復習を行ってから1年近くがたちましたが、ここまで多くの活用を学んできました。この間には、戦争が起こるのではないかと心配するほど、新型コロナウイルスの問題に悩まされ、思いもしなかったことが多く起こりましたが、続けてギリシャ語を学んでまいりましょう。次回は、聖書ギリシャ語におけるギリシャ文字の新しい転記法についてのコラムになります。次回もお楽しみに!(続く)

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宮川創

宮川創(みやがわ・そう)

1989年神戸市生まれ。独ゲッティンゲン大学にドイツ学術振興会によって設立された共同研究センター1136「古代から中世および古典イスラム期にかけての地中海圏とその周辺の文化における教育と宗教」の研究員。コプト語を含むエジプト語、ギリシャ語など、古代の東地中海世界の言語と文献が専門領域。ゲッティンゲン大学エジプト学コプト学専修博士後期課程および京都大学文学研究科言語学専修在籍。元・日本学術振興会特別研究員(DC1)。京都大学文学研究科言語学専修博士前期課程卒業。北海道大学文学部言語・文学コース卒業。「コプト・エジプト語サイード方言における母音体系と母音字の重複の音価:白修道院長・アトリペのシェヌーテによる『第六カノン』の写本をもとに」『言語記述論集』第9号など、論文多数。

福田耕佑

福田耕佑(ふくだ・こうすけ)

1990年愛媛県生まれ。現在、テッサロニキ・アリストテリオ大学訪問研究員。専門は後ビザンツから現代にかけての神学を含むギリシャ文学および思想史。特にニコス・カザンザキスの思想とギリシャ歴史記述とナショナリズムに関する研究が中心である。学部時代は京都大学文学部西洋近世哲学史科でスピノザの哲学とヘブライ語を学んだ。主な論文に「ニコス・カザンザキスの形而上学と正教神学試論 ―『禁欲』を中心に―」(東方キリスト教世界研究〔1〕2017年)、またギリシア語での主な論文に "Ο Καζαντζάκης και ελληνικότητα(カザンザキスとギリシア性)"、"Ο Νίκος Καζαντζάκης απω-ανατολική ματιά(カザンザキス、極東のまなざし)"(2019年)など。