「がん哲学外来」提唱者の樋野興夫氏、『われ21世紀の新渡戸とならん』を新訂版で15年ぶりに再刊

2018年1月23日07時11分 記者 : 坂本直子 印刷
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本紙のインタビューに応える順天堂大学医学部教授の樋野興夫(ひの・おきお)氏
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「がん哲学外来」の提唱者、順天堂大学医学部教授の樋野興夫(ひの・おきお)氏のデビュー作『われ21世紀の新渡戸とならん』(イーグレープ)が、15年ぶりに装いも新たに再刊された。本書を出版した後、数々の著作を世に送り出してきた樋野氏。100ページに満たない短い書でありながらも、新渡戸稲造をはじめ、南原繁や内村鑑三、矢内原忠雄といった明治以降の日本を切り拓(ひら)いたキリスト者たちの生き様から 、いつの時代も色あせることのない、人生を生き抜くためのヒントを伝える。

新訂版は、新たに「序文」と「おわりに」が加えられ、「陣営の外へ」「開いた扇の要」「楕円形の心」「日本肝臓論」など、旧版同様28話の構成。各話とも、持ち前のユニークな視点から、樋野氏が独特な語り口でつづる。樋野氏に本書について話を聞いた。

――とてもインパクトのある題名ですね。

題名は、新渡戸が札幌農学校を卒業して、東大に入るときに面接で言った言葉「願わくは、われ太平洋の橋とならん」に倣っています。この本を発表した当初、「偉そうに」とか「どうせなれないくせに」とか言われました。「どうせなれないくせに」なら「なにくそ、なってやる」という気持ちにさせるけれど、「偉そうに」というのは、人の尊厳に触れる言葉で言ってはいけないと思った。人を非難するとはどういうことなのか、この本を出した時に学びましたね。

――新訂版の内容について教えてください。

この本は、当時、医学系の雑誌の編集後記として書いていたものをまとめたものです。年代的なチェックを入れましたが、その他は何も変えていません。新たに序文と後書きを加えましたが。10何年たっても変えるべきところがないのは、新渡戸や南原、内村、矢内原、全員クリスチャンで、そういう意味では彼らにはブレない基軸があるからで、それは大きいと思う。

また、この本で注目すべきは「意外性」。薄い本ではあるけれど、誰も書かないことを書いてある。大胆なタイトルも、ここ10数年で何となく世の中に定着してきて、いろいろなところで講演しても、冗談ぽく思うから、皆すっと入ってきます。新渡戸が1900年に出した『武士道』も、これは侍の武士道ではなくて、市民として、人間としての心構えを述べたものですが、新渡戸のような国際人が、日本独自の武士を持ち出すという意外性がありました。この本も医師が新渡戸となるという意外性を持っている。意外性は人間にとって魅力でもあります。

――新渡戸の何に一番心を動かされるのでしょうか。

他の3人もそうですが、愛情豊かなスケールの大きな人物です。基軸がしっかりしている。新渡戸についていえば、「何かをなす(to do)の前に何かである(to be)ということをまず考えよということが、(新渡戸)先生の一番大事な考えであったと思います」「明治以降、新渡戸先生に優る人物はいない」と南原が話しているとおり、新渡戸ほどのスケールと教養の深い人はいません。だから、僕も深入りした。いいものは継承しないと。新渡戸をはじめ、内村、南原、矢内原の4人は、明治以降、日本が誇れる人物であることは間違いありません。

――本書には、生きるための支えになるような言葉があちこちに出てきます。

今は、夢とか、ビジョンとかがなく、目先のことばかりにとらわれ、基軸がないように思う。前途を見越して全体を見る。これが先見性です。「ちょっと首を伸ばして前途を見る」。これが勝海舟の精神です。こういう言葉を若い時に学ぶと、成長してから思い出すことになり、元気付けられる。これが言葉の処方箋で、こういう一行で言える言葉が大切です。

この本は薄いけれど、読むだけでがん患者も慰められる言葉がある。若い時に読んで心に染みた言葉を、患者の顔を見て、心の内を考えながら、この人ならこの言葉がいいと思って言うのが言葉の処方箋。新渡戸、内村が書かれた本には暗記すべきものがある。でも、それも彼らの言葉ではなく、引用している言葉。彼らも感動した言葉を自分の本に書き、それを僕も引用している。言葉とは継承です。

「がん哲学外来」提唱者の樋野興夫氏、『われ21世紀の新渡戸とならん』を新訂版で15年ぶりに再刊
15年ぶりに再刊された新訂版の『われ21世紀の新渡戸とならん』(イーグレープ)

――新渡戸の「すごさ」について教えてください。

新渡戸の特徴は何といっても国際性。それも教養と国際性を備えたところにすごさがあります。世界を知らず日本のことを語る人、日本を知らず世界だけを見て日本を語る人はいますが、新渡戸は、日本も世界も両方知り、その上で日本の特徴について語っている。このように純度の高い専門性と、社会的包容力を持っているのが新渡戸です。社会的包容力とは自分と異なる人間を認めようということで、これだけの国際性を持った人はいません。ただ、新渡戸について、NHKの大河ドラマになるような著書がまだないんですね。残念なことに。

――最後に、今、新訂版を刊行した理由を教えてください。

教会で新渡戸がクリスチャンであることを強調すると、クリスチャンにとっては何の問題もないけれども、ノンクリスチャンにとっては敷居が高くなってしまう。人物を通して学ぶというのがいいと思う。僕もがん哲学の時にいろいろ話をして、それで「先生はクリスチャンですか」と言われる。自分からは一言も言わなくても、新渡戸のことなどを話すと、後から言われます。最初から「この先生はクリスチャンです」と言うと、聖書の話を聞かされるのではないかと考え、相談に来なくなってしまう。接し方、話し方が日本の教会宣教の弱点になっていると感じます。

教会は、何が問題か気付いていない。ノンクリスチャンが教会に行きづらいのは、こうしなさいと強要されるからです。教会は、空っぽの器に水が注がれる場所。必要なのは、空っぽの器を頑丈にして、神様から注がれる水が漏れないようにすることです。にもかかわらず、注がれる前に自分で水を入れて用意している。だから来た人が、水を入れることができない。教会は空っぽの器にならないと。

「初めに言(ことば)があった。言は神と共にあった。言は神であった」(ヨハネ1:1)の通り、言葉は宗教を超えている。私たちは、キリスト教徒ではなく、キリストに属するキリスト者だと内村は言っています。言葉遣いも気を付けていたわけです。われわれは4人から学ぶことがいっぱいあります。この本を出す意義はそこにあるのです。

3月29日(木)には、東京都千代田区のお茶の水クリスチャン・センター8階チャペルで、出版記念の記者会見と講演会が開催される。時間は午後1時~4時で、詳細は後日発表される。問い合わせはイーグレープまで。

樋野興夫著『われ21世紀の新渡戸とならん
2018年1月発売
96ページ
イーグレープ
700円(税別)

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