永遠の生命をいただいたK兄弟
K兄弟は、ガリガリに痩せた口の重い人で、体重は39キロしかないといいます。失業して三年間、野宿を続け、寒さをしのぐため、仲間と連日のように酒盛りをするようになり、アルコール依存症になってしまいました。空きっ腹にいきなり焼酎をあおりますので、胃潰瘍にもなってしまいました。胃壁がただれてしまい、ふつうの食事を受け付けません。それで、ますます酒ばかり飲むようになってしまうのです。
病院で、「あなた完全に栄養失調ですよ。その体でよく歩けますね。長生きはできませんよ」と、宣告されてしまったそうです。
ある日、野宿仲間のお年寄りから、「森本先生の教会に行けば、シャツもパンツももらえるよ。うどんも食べられるんだ。行こう、行こう」と誘われて、夜の集会にやってきました。
その晩彼は、生まれて初めて聞いた「永遠の生命」についての説教に、ものすごいショックを受けました。集会が終わってから、いつも寝ぐらにしている公園に帰ってきて寝ようとした時、ハタと考え込んでしまいました。
(待てよ。先生がさっき話していた『永遠の命』ってどんな生命なんだろう)
しかし考えても、どうも釈然としません。それはそうです。今まで通りのものごとの尺度では、測りようがないのですから。しかし、わからないとなると落ち着かず、眠れなくなる性分でした。
(俺は、医者に見放されてしまった体だ。永遠に生きられる命があるなら、ぜひもらいたいものだ)
そこで、神様にこう祈りました。
―神様。俺にも永遠の生命をください。いや、ただでくれとは申しません。森本先生の勧めに従って、金輪際酒を止めますから。―
翌日から、きっぱりと酒を断りました。ところが、一日すぎますと、アルコール依存症患者特有の幻覚、幻聴、手の痙攣に襲われはじめ、二日目になるとそれがますますひどくなり、がまんできなくなりました。そこへ、飲んべえ仲間がやってきて、彼の目の前に一升瓶をドカンと置くなり言いました。
「おいおい、何もそんなに苦しむこたぁねぇだろ。一杯飲みゃあ、治るじゃねえか」
「いや、俺はどんなに苦しくても飲まないよ。さるお方と、約束したんだから」
「さるお方とは、どこの誰だぁ?」
「うまく言えないけど、あるお方だよ」
「変な人と約束したもんだ」
飲んべえ仲間は、狐につままれたような気分で、一升瓶をぶら下げて帰って行きました。三日目になりますと、禁断症状が絶頂に達し、苦しさのあまり夜中に叫びました。
―神様、俺を見殺しにするんですか。こんなに苦しんでいるのに。助けてくれないんですか。―
―おまえのその苦しみは、やがておまえの力となるのだ。―
彼は、自分の耳を疑いました。
―えっ、どこのどいつだ。そんなこと言うのは。―
起き上ってあたりを見回しましたが、誰もいません。野宿仲間の顔を、一人ひとり見て歩きました。しかし、皆ぐっすり眠りこけています。おかしいな、と思いながら、ハタと気づきました。
(あれは、神様の声だ…)―うゎー、神様。あなたがおっしゃったんですか!?―
彼は、生ける神と出会ったという感謝と喜びに支えられ続け、夜が明けた時には、アルコールの禁断症状をついに克服してしまいました。
(あぁ、俺は治ったんだ)あらためて、感謝がこみ上げてきました。さっそく仕事にもありつきました。働いて帰ってきましたが、何も食べていませんので空腹でたまらず、おにぎりなどを売っているお兄さんの屋台に、よろよろしながら行きました。
「Kさん、おまえアル中治ったのか。ようがんばったなあ。偉いっ。もう、これからは絶対飲むなよ」
「おぅ、俺、神様に助けてもらったんだよ。何か、食べさせてくれないか」
「よしっ。まず、みそ汁飲んでみるか。でも、一気に飲むなよ。ゆっくりとな」
それまで、口に入れても吐き出すだけだったみそ汁が、すーっと胃に入っていきました。
「うまいっ。これほどうまいものが、世の中にあったのか」
「おーっ、飲めたじゃないか。こんどは、ごはん、ちょこっとだけ食べろ」
そのごはんのおいしいこと。思わず涙が出てきました。
「よかったなぁ。だけどな、おまえ二年も三年も青カンやってるから、臭いがたまらんね。悪いけど、銭湯に行ってこいよ、な」
そこでK兄弟は、初めて教会に連れていってくれた野宿仲間のお年寄りと二人で、教会からもらった下着類や洗面用具を抱えて、銭湯に行くことにしました。
しかし、ホームレスだとわかりますと入浴を断られますので、顔や首すじを洗ってから出かけ、午後三時から二時間以上かけて、お互いに背中を洗い合いました。でも、いくらゴシゴシこすっても、三年間野宿してきた体の垢は、簡単には落ちはしません。垢の落ちた部分と、落ちていない部分とが、地図のようにまだら模様を描いています。
「おい、おまえの体、まだらの牛じゃねえか」
「おまえだって、人のこと笑えないぞ」
お互いを見比べ合って、ゲラゲラ大笑いです。二人は三日間銭湯に通い続けて、ようやく完全に垢を落としました。彼らは、教会の礼拝や祈祷会に出席し、やがて洗礼を受けました。そのように、心の底から神様に忠実に従い抜けば、神様は必ず救ってくださり、地上での生命を支え、永遠の生命へと導いてくださるのです。
この二人の体にこびりついた垢は、風呂で三日も洗えばとれます。しかし、私たちの心に染みついた罪という垢は、自分でどんなに洗っても取れはしません。キリストの十字架の血潮によって洗いきよめられなければ、決して拭い去ることはできないのです。この二人が、まずキリストの十字架によって罪から救われ、悪霊から解放されたことがそれを証明しています。(続きはこちら)
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(本文は森本春子牧師の許可を得、「愛の絶叫(一粒社)」から転載しています。)
森本春子(もりもと・はるこ)牧師の年譜
1929年 熊本県に生まれる。
1934年 福岡で再婚していた前父の養女となる。この頃、初めて教会学校に通い出す。
1944年 福岡高等簿記専門学校卒業。義母の故郷・釜山(韓国)に疎開。
1947年 1人暮らしを始め、行商生活に。
1947年 王継曽と結婚。ソウルに住み、三男二女の母となる。
1953年 朝鮮戦争終息後、孤児たちに炊出しを続け、17人を育てる。
1968年 ソウルに夫を残し、五児を連れて日本に帰る。
1969年 脳卒中で倒れた夫を日本に連れ帰る。夫を介護しながら日本聖書神学校入学。
1972年 同校卒業、善隣キリスト教会伝道師となる。山谷(東京都台東区)で、独立自給伝道を開始する。
1974年 夫の王継曽召天。
1977年 徳野次夫と再婚。広島平和教会と付属神学校と、山谷の教会を兼牧指導。
1978年 山谷に、聖川基督福音教会を献堂。
1979年 この頃から、カナダ、アメリカ、ドイツ、韓国、台湾、中国、ノルウェーなどに宣教。
1980年 北千住(東京都足立区)に、聖愛基督福音教会を献堂。
1992年 NHK総合テレビで山谷伝道を放映。「ロサンゼルス・タイムズ」「ノルウェー・タイムズ」等で報道され、欧米ほか150カ国でテレビ放映。
1994年 「シチズン・オブ・ザ・イヤー賞」受賞。
1998年 「よみがえりの祈祷館」献堂。
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