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【書評】松谷信司編著『キリスト教のリアル』

2016年3月4日23時56分 記者 : 行本尚史 印刷
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+松谷信司編著『キリスト教のリアル』
松谷信司編著『キリスト教のリアル』ポプラ社、2016年3月
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本書の編著者は、日本ではキリスト教が歴史や教養として語られることが多く、クリスチャンでない人たちが、キリスト教の現場・現実(=編著者の言う「リアル」)との接点に触れる経験は極めて限られており、キリスト教の関係者が日頃伝えたいと願っている内容と、世間に伝わっている情報の間には、相変わらず大きなズレがあるという。本書は、キリスト教のリアルな実態をできる限り客観的に提示できるようにと、「キリスト教の今」について知りたい人たちのために書かれた本である。

第1部「日本におけるリアルなキリスト教」(11~65ページ)では、キリスト教専門紙「キリスト新聞」の編集長である編著者が、日本におけるキリスト教の現状(例えば、本書によればクリスチャンの数は全人口の0・8パーセントほど)や歴史に加えて、クリスチャンの生活や日常、教会と信仰・礼拝のルール・教会運営・牧師や神父の実際について述べている。

第2部「牧師・神父から見た日本におけるキリスト教」(67~219ページ)では、教派の異なる3人のプロテスタント牧師(川上咲野氏・関野和寛氏・森直樹氏)と1人のカトリック神父(晴佐久昌英氏)が、自らの経歴や、スケジュール・休み・住まい・悩み・趣味・食習慣・家族との関係・給料・定年など教会での生活、神学校や日本人の習慣・葬儀・結婚式・世界と日本のキリスト教・「無神論者」と宗教を信じることなどのテーマについて、松谷氏を司会に座談会形式で話し合った内容が収められている。

本書の帯には「知られざる『日本のキリスト教』」「『歴史』でも『教養』でもない、私たちの身近にあるキリスト教」と書かれている。確かに、本書は現場・現実を知る人たちが見た日本のキリスト教(主にプロテスタントとカトリックという西方教会のそれ)が実際的な視点から書かれている点で、従来の教科書的なキリスト教入門書とは違った特色を持っており、そうした実際を知りたいという人たちにとって、役に立つものであろう。

従来のキリスト教入門書には「歴史」「教養」として書かれたものが多く、実際に教会へ行ってみたら、その本には書かれていない現実が多々ある。その現実に実際に触れてみて、入門書に書かれていることとの間の差に驚いたり喜んだり、あるいは逆にがっかりしたという人たちの話も少なくない。しかし、その一方で何の準備もなしにいきなり教会を訪れる勇気はないという人たちもいるだろう。本書はそうしたギャップを埋める橋渡しの役目を、幾らかでも担うことができるだろうか。

もっとも、本書の第1部には、カトリックとプロテスタント、教会用語の解説など、従来のキリスト教入門書にもすでに書かれていることもある。しかしここに収められている「クリスチャンあるある」「牧師・神父あるある」のように、クリスチャン、牧師や神父たちの「生態をリアルに実感していただくために」それを列挙しているところは、彼ら・彼女らの表面的でない姿を伝えようという点で斬新である。ただ、「あるある」というその言葉と手法は、かつて放送されていた某テレビ局の番組を連想させるのだけども。

さらに注目したいのが第2部で―分量的にもこちらのほうが第1部より多いのだが―、複数の異なる教派の牧師や神父が、それぞれの特色について語り合っているところである。たいていのキリスト教入門書は、特定の教派や神学的立場に立つ一人の著者によって書かれていることが多く、しかも例えば牧師や神父の給料についてなど、教会を初めて訪れてもなかなか聞くことのできない生の声が収められているのである。

本書の初めに松谷氏は、本書でキリスト教の在り方の多様性を網羅的に説明することはできないと強調しており、「本書でふれるキリスト教も、豊潤な宗教体系、教義、文化のほんの一側面にしかすぎない」と断り書きをしている。この点で、例えば本書であまり触れられていない正教会などの東方教会の「リアル」に初めて近づくには、例えば「まずはお祈りに来てください」と本紙に語った日本ハリストス正教会教団の北原史門神父による近著『正教会の祭と暦』(群像社、2015年)などを読まれるとよいかもしれない。なお、本書90ページに「司教(カトリック教会、正教会、聖公会で継承されている3段階の職制の一つ)」などと書かれているが、正教会や聖公会では、正しくは司教ではなく主教である。

なお、本書の終わりに、松谷氏は、日本の教会がこれまで「敷居が高い」と言われてきたことに触れ、「信じるつもりはないが知りたい」という人の存在を指摘。「教会を含むキリスト教業界は、『信じたい』というニーズは歓迎して受け入れてきたものの、『知りたい』というニーズには十分応え切れて来なかったのではないでしょうか」と述べている。同業者である筆者としては、これは謙虚に受け止めたい言葉である。

そして松谷氏は、その敷居は「単に教会側が『伝えたい情報』と教会外が求めている『知りたい情報』のズレに起因していたのかもしれない」として、「牧師や神父、信者に直接聞きにくい素朴な『知りたい』に応えることに徹し、かつ既存の入門書が取り上げているような『歴史』や『教養』ではない、キリスト教のリアルな実態をできる限り客観的に提示できるよう心がけました」と述べている。

本書に書かれている「リアルな実態」をそうした「教会外」の人々が本当に「知りたい」のであれば、本書の目的は少なくともある程度果たされることになるかもしれない。

松谷信司編著『キリスト教のリアル』ポプラ社、2016年3月1日、本体価格780円(税抜)

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