2023年1月10日20時35分

保育施設における虐待はなぜ起こるのか(5)「個別の支援」のやり方

執筆者 : 千葉敦志

子どもの行動というのは、その子の体のさまざまな協調動作によって成り立ちます。協調動作がうまくいかないと、行動がぎこちなくなってしまいます。大切なことは、子ども一人一人の発達状態を見極め、その状態に応じて次の発達を促していくことです。

第3回でも書きましたが、同じ日に生まれた子であっても、下図の通り、発達の差は発生します。そして、その差はその子の個性の伸び方を示しています。個別の支援は「一斉」ではできないところをフォローするというような感覚で考えるとよいかもしれません。

施設における虐待はなぜ起こるのか(3)保育への無理解

一般的な発達過程に基づけば、最初は、首を動かし、視線を動かし、手を動かし、という順番で発達は進んでいきます。例えば、両の手をにぎり合うもみ手の動作は、協調運動の最初であるといえます。右の手と左の手をコントロールして、互いの場所などを認識するのです。これができなければ、拍手や手を使っておもちゃで遊ぶといったことができません。もみ手の動作から始まり、最後には自分の足を抱き寄せ、足の親指などをしゃぶるといった行動もできるようになっていきます。こういう段階を経てはじめて、自分の体を制御することができるようになるのです。

こればかりは「させる」ことができません。その子が自分のタイミングで始めていくしかありません。保育士がすることは、いろいろな手段で発達の「促し」を行い、その「促し」がうまくいっているかを注意深く観察していくことです。

私が支援を求められたケースでは、見るからにこうした発達の段階を何個かすっ飛ばしてしまった子がほとんどです。ですから、まずはその子が、どの発達段階にいるのかを調べなくてはなりません。そうする中で、その子が何をできるのかを推定できます。そうしたら、今度はそのどれとどれを使って、どのような刺激を与えればよいかを考えていきます。

以前、5歳児クラスで、会話が成り立たないお子さんがいました。何を聞いても、突拍子もない答えが返ってきます。調べてみると、その子はディズニープリンセスが大好きでしたが、その一方で、各物語の内容や他の登場人物には全く興味がありませんでした。まるで、頭の中でそれらの物語が散在しているような状態だと推定しました。

そこで、ディズニープリンセスの各物語の絵本を全てそろえて、1冊ずつ対面で会話しつつ初めから順を追って読む個別支援を、毎日15分を目処に行うことにしました。頭の中に散在する情報を一つの流れに整理しなおそうと考えたからです。この手法は後に、その子が通っていた言語聴覚訓練でも取り入れていただくことになりました。発覚当時は「重度の自閉症の疑い」であったのに、小学校入学時には、きちんと会話が成り立つまでになりました。そして今では、とても興味深い素敵な詩を小学校で書くなどしているそうです。

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※ 写真はイメージです。(写真:milatas / Shutterstock)

さて、0歳児クラスの保育の内容を考えてみましょう。0歳児クラスは特殊です。その年の4月1日時点で0歳の子は、全て0歳児クラスで扱うからです。人は皆、4月に生まれるわけではありません。0歳児クラスには、保育施設に預けられる月齢2、3カ月の子から、走り回ったりある程度会話ができたりする2歳目前の子までがいるのです。

走り回れるくらい大きな子は、通常0歳児クラスでは満足しませんので、様子を見て1歳児クラスに上げていくのが普通です。しかし、この時にしっかりとその子の発達状態を把握しないまま上げてしまうと、かなりの確率で不適応が起こります。

低月齢児は、言葉かけ、抱っこやおんぶといったスキンシップの他に、音や動くものなどを使った刺激、ベビーマッサージなどによって、感覚統合を促すところからスタートします。もう少し月齢が高くなれば、絵本や手遊びなどを導入したり、おもちゃを出したりすることもよいでしょう。そして、状況に応じて1歳児クラスに遊びに行かせたり、発達段階の似たような子を組み合わせたり、分けたりしながら、2時間程度のコアタイムを過ごしていきます。

クラスリーダーの保育士は、他のスタッフの介入の仕方も考える必要があります。何事にも穏やかにかつ温かく刺激を入れるよう心掛けてもらいます。例えば、その子のことで共に喜ぶとか、他のスタッフが抱いている子を端からあやすなどです。

大切なのは、「子どもたちに何をさせるか」ではありません。保育士が日々の保育の中で押さえなければならない子どもたちの情報を収集し、それに基づいてどう保育を進めるかを計画し、それぞれの子どもたちに応じた発達の「促し」を行っていくことです。

「お舟がぎっちらこ」という伝承遊びがあります。低月齢児は保育士と、走り回れるような子どもたちは友達同士で行うように設定すれば、低月齢児においては、必要な「言葉かけ」「スキンシップ」などをクリアできますし、高月齢児においては、友達との楽しみなどが味わえるでしょう。

そして、そこで気が付いたことを記録していくのです。例えば、抱かれることを嫌がったとか、友達に近づけなかったとか、動作はどうだったかなどを記録していきます。このように、保育時間の内に子どもたちの発達状態を読み取り、どのような計画を持って保育していくのかを展開していくことが重要なのです。(続く)

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千葉敦志

千葉敦志

(ちば・あつし)

1970年、宮城県生まれ。日本基督教団正教師(無任所)。教会付帯の認可保育所の施設長として、保育所の認定こども園化を実施。施設長として通算10年間、病後児保育事業などを立ち上げたほか、発達障害児や身体障害児の受け入れや保育の向上に努め、過疎地域の医療的ケア児童の受け入れや地域の終末期医療を下支えするために、教会での訪問看護ステーション設置などを手がけた。その後、これまでの経験に基づいて保育所等訪問支援事業を行う保育支援センターを立ち上げた。現在、就労支援B型事業所「WakeArena」を立ち上げ、地域の福祉増進を目指している。