2019年4月1日17時27分

京大式・聖書ギリシャ語入門(9)「私たちは神との交わりを持っている」―約音動詞の現在形―

京大式・聖書ギリシャ語入門(9)「私たちは神との交わりを持っている」―約音動詞の現在形―
Codex Coislinianus、6世紀、フランス国立図書館やアトス山など。パウロ書簡を含んでいる。写真はフランス国立図書館蔵のテモテ一2章2~6節。

皆さん、こんにちは! 2019年度も京大式・聖書ギリシャ語入門を担当させていただきます、宮川創、福田耕佑です。梅や桜などの花々が咲き始め、多くの命が地上に顔をのぞかせる季節になりましたが、福田は春の命の芽吹きの余韻に浸ることもなく、「空中に勢力を持つ者」(ἄρχων τῆς ἐξουσίας τοῦ ἀέρας / archon tēs exousias tou aeras、エフェソ2:6)に、そうです! 花粉に苦しめられています・・・。

冗談はさておき(笑)、今日はエイプリルフールです。現代ギリシャ語では、Πρωταπριλιά(プロタプリリア、4月1日の意味)と呼んでいますが、今回の講座は「うそ」にちなんだテーマにしてみようと思います。

まずは、前回の練習問題を確認し、ω 動詞や μι 動詞の復習もした後で、約音動詞を説明し、例題8(ヨハネの手紙一1章6節)を取り上げます。

■ 第8回の練習問題の解答

1)次の一節を日本語に訳しなさい。

δίδωμι ὑμῖν τὴν ἐμὴν εἰρήνην

意味は「私はあなたたちに私の平和を与える」です。

それでは解説に移りましょう!

<語釈>

δίδωμι
(dídōmi)
[動詞] 私は~を与える(1人称・単数・現在)
ὑμῖν
(humîn)
[代名詞] あなたたちに
τὴν
(tḕn)
[冠詞] 女性・単数・対格と
ἐμὴν
(emḕn)
[所有形容詞] (他の誰のものでもない)私の(ἐμός の女性・単数・対格形)
εἰρήνην
(eirḗnēn)
[名詞] 平和、平安(εἰρήνη の女性・単数・対格)

■ μι 動詞の復習

前回は ω 動詞とは異なる活用をする μι 動詞を学びました。確かに μι 動詞の特徴も学問的に述べればいろいろあるのですが、学習者の観点から言えば、μι 動詞に属する動詞は数が少なく、また頻繁に使われる意味の動詞が属しており、「活用をそのまま覚えてしまってよい」ぐらいの数しか存在しません。

*δίδωμι(didōmi)[動詞](1人称・単数・現在)「私は~を与える」の活用

  単数 複数
1人称 δίδωμι
(dídōmi)

「私が~を与える」
δίδομεν
(dídomen)

「私たちが~を与える」
2人称 δίδως
(dídōs)

「あなたが~を与える」
δίδοτε
(dídote)

「あなたたちが~を与える」
3人称 δίδωσι(ν)
(dídōsi(n))

「彼(女)が~与える」
διδόασι
(didóasi)

「彼(女)たちが~を与える」

単数形と複数形で語幹の ”δίδω-” と ”δίδο-” のように ”-ω-” と ”-ο-” で語幹末の母音が長母音から短母音に交代していますが、それ以外は人称に応じて上記の表と同じように ”-μι, -ς, -σι, -μεν, -τε, -ασι” 活用語尾を付ければOKです! さらに詳しい説明は前回の講座をご覧ください。そしてここで登場している動詞 δίδωμι は上記の表の1人称・単数に当たり、「私が~を与える」を意味する動詞でした。

残りは「あななたちに」を意味する ὑμῖν(humîn)と女性・単数・対格の「冠詞・形容詞類・名詞」の塊である τὴν ἐμὴν εἰρήνην(tḕn emḕn eirḗnēn)が来ており、すべて合わせて、

δίδωμι + ὑμῖν + τὴν ἐμὴν εἰρήνην
(私が~与える)+(あなたたちに)+(私の平和を)

となり、意味としては「私はあなたたちに私の平和を与える」となります。第1回から繰り返していることにはなりますが、ギリシャ語には名詞の格や動詞の人称がありますので、これら下線部を施した3つの塊の語順を入れ替えても英語や中国語と異なり、日本語と同じように意味が通じます。

■ 例題8(ヨハネの手紙一1章6節)

「神と交わりを持っていると言いながら、闇の中を歩むなら、私たちは偽りを述べているのであり、真理を行ってはいません」(聖書協会共同訳)

「もし私たちが、神と交わりがあると言いながら、闇の中を歩んでいるなら、私たちは偽りを言っているのであり、真理を行っていません」(新改訳2017)

ギリシャ語:Ἐὰν εἴπωμεν ὅτι κοινωνίαν ἔχομεν μετ' αὐτοῦ καὶ ἐν τῷ σκότει περιπατῶμεν, ψευδόμεθα καὶ οὐ ποιοῦμεν τὴν ἀλήθειαν:

翻字:Eàn eípōmen hóti koinōnían échomen met’ autoû kaì en tō̂i skótei perioatō̂men,

<語釈>

ἐὰν
(eàn)
[接続詞] もし~なら
εἴπωμεν
(eípōmen)
[動詞] 私たちは~言う(1人称・複数・現在)
ὅτι
(hóti)
[接続詞] ~ということを(英語の that、ドイツ語の dass に該当)
κοινωνίαν
(koinōnían)
[名詞] 交わり、共同参与(κοινωνία の女性・単数・対格)
ἔχομεν
(échomen)
[動詞] 私たちは~を持っている(ἔχω の1人称・複数・現在、英語の have に該当)
μετ' αὐτοῦ
(met’ autoû)
[前置詞+名詞] (←μετά+αὐτοῦ)
μετά
(metá)
[前置詞] (属格と共に)~と共に
χαρά
(chará)
[名詞] 喜び
αὐτοῦ
(autoû)
[名詞] それの、彼の(男性・単数・属格)
καὶ
(kai)
[接続詞] そして
ἐν
(en)
[前置詞] (与格と共に)~において、~の中で
ἀγαθωσύνη
(agathōsúnē)
[名詞] 正しさ、善意
τῷ
(tō̂i)
[冠詞] 中性・単数・与格と
σκότει
(skótei)
[名詞] 暗闇(σκότος の中性・単数・与格)
περιπατῶμεν
(perioatō̂men)
[動詞] 歩き回る、生きる、行動する(περιπατῶ (-έω) の1人称・複数・現在)
ψευδόμεθα
(pseudómetha)
[動詞] うそを言う(1人称・複数・現在、この活用については後の回で説明します)
οὐ
(ou)
[否定辞] ~ない
ποιοῦμεν
(poioûmen)
[動詞]  私は~する、行う(ποιέω の1人称・複数・現在)
τὴν
(tḕn)
[冠詞] 女性・単数・対格と
ἀλήθειαν
(alḗtheian)
[動詞] 真実(ἀλήθεια の女性・単数・対格)

■ 約音動詞について

今回は約音動詞について学びましょう! 約音動詞の「約音」とは、連続する複数の母音が、母音連続を解消するために1つの母音に融合したり、また複合母音を生じたりする現象を指します。そして、約音動詞は ω 動詞の中で、語尾の部分で連続している母音が約音を起こし、通常の ω 動詞とは異なった見かけの活用をしているものを指します。

この現象は、まったく同じ現象というわけではありませんが、日本語でも似たような現象があります。例えば、「うまい」が「うめぇ」に、「おそい」が「おせぇ」になることがあると思います。そして韓国語を学んだことがある読者の方ですと、文字を覚えた後はひたすらハングルの母音の組み合わせによる発音の変化を学んだことがあると思います。これらと似たような現象が、これから見ていくようにギリシャ語にも見られます。

*ἀγαπῶ (-άω)(agapō̂[動詞]1人称・単数・現在)「私は~を愛する」の活用

  単数 複数
1人称 ἀγαπῶ -ά+ω ἀγαπῶμεν -ά+ομεν
2人称 ἀγαπᾷς -ά+εις ἀγαπᾶτε -ά+ετε
3人称 ἀγαπᾷ -ά+ει ἀγαπῶσι -ά+ουσι

ἀγαπῶ (-άω) は語幹が -α- で終わっており、これらが ω 動詞の元と同じ語尾が融合して曲アクセントが付されています。

* φιλῶ (-έω)(filō̂[動詞]1人称・単数・現在)「私は~を愛する」の活用

  単数 複数
1人称 φιλῶ -έ+ω φιλοῦμεν -έ+ομεν
2人称 φιλεῖς -έ+εις φιλεῖτε -έ+ετε
3人称 φιλεῖ -έ+ει φιλοῦσι -έ+ουσι

動詞 φιλῶ (-έω) は語幹が φιλέ- のように -ε- の短母音で終わっています。そしてこの語幹末の -ε- の母音と ω 動詞のものと同じ語尾が融合して曲アクセントが付されています。

この中で、-ε- が -ω- や -ει- などの長母音や二重母音と約音する際には、吸収されて曲アクセントが付されていますが、1人称・複数と2人称・複数ではそれぞれ、

ε + ο → ου
ε + ε → ει

のような変化を起こしています。いつでもこの形に融合するわけではありませんが、よく出てくる融合のパターンですのでぜひ覚えていただければ幸いです。このように、ギリシャ語ではある程度規則的に母音と母音が融合すれば決まった形に変化します。何だかややこしい話のように思われるかもしれませんが、実際のところ ω 動詞の活用語尾と見かけの形がよく似ていますので、読解においてはそれほどの困難はないのではないかと思います。

約音動詞として今回見た άω 型と έω 型以外に、όω 型がありますが、これらも次回以降順次紹介していきます。加えて母音や子音の融合や脱落の規則についても説明していきたいと思います。

■ 本文の解説(1)

ギリシャ語:Ἐὰν εἴπωμεν ὅτι κοινωνίαν ἔχομεν μετ' αὐτοῦ καὶ ἐν τῷ σκότει περιπατῶμεν,

翻字:Eàn eípōmen hóti koinōnían échomen met’ autoû kaì en tō̂i skótei perioatō̂men,

ἐὰν
(eàn)
[接続詞] もし~なら
εἴπωμεν
(eípōmen)
[動詞] 私たちは~言う(1人称・複数・現在)
ὅτι
(hóti)
[接続詞] ~ということを(英語の that、ドイツ語の dass に該当)
κοινωνίαν
(koinōnían)
[名詞] 交わり、共同参与(κοινωνία の女性・単数・対格)
ἔχομεν
(échomen)
[動詞] 私たちは~を持っている(ἔχω の1人称・複数・現在、英語の have に該当)
μετ' αὐτοῦ
(met’ autoû)
[前置詞+名詞] (←μετά+αὐτοῦ)
μετά
(metá)
[前置詞] (属格と共に)~と共に
χαρά
(chará)
[名詞] 喜び
αὐτοῦ
(autoû)
[名詞] それの、彼の(男性・単数・属格)
καὶ
(kai)
[接続詞] そして
ἐν
(en)
[前置詞] (与格と共に)~において、~の中で
ἀγαθωσύνη
(agathōsúnē)
[名詞] 正しさ、善意
τῷ
(tō̂i)
[冠詞] 中性・単数・与格と
σκότει
(skótei)
[名詞] 暗闇(σκότος の中性・単数・与格)
περιπατῶμεν
(perioatō̂men)
[動詞]  歩き回る、生きる、行動する(περιπατῶ (-έω) の1人称・複数・現在)

それでは本文の解説に移りたいと思います。冒頭「もし~なら」表す接続詞の ἐὰν(eàn)から始まっており、この「~」の中には接続詞 καὶ(kaì)で結ばれた2つの文が来ています。つまり、

εἴπωμεν ὅτι A καὶ B:私たちはAとBと言う

が大きな構造となっています。今回 εἴπωμεν(eípōmen)に関しては、まだ未習の事項がありますので、今回は解説を省略させていただきます。これは英語の that 節のように機能している接続詞の ὅτι(hóti)とセットになって、”We say that~”と同じ働きをしています。それではAの部分に当たる κοινωνίαν ἔχομεν μετ' αὐτοῦ を見ていきましょう。

Aは κοινωνίαν ἔχομεν(koinōnían échomen)で始まっています。前回の講座では第1変化名詞(女性)で語尾が -η に終わるものを確認しました。今回は -α で終わる名詞が来ています。復習も兼ねて第1変化 α 幹名詞(女性)の曲用を確認してみましょう。

*第1変化 α 幹名詞(女性)の曲用(名詞の語尾変化)

  単数形 複数形 意味
主格 χαρά
(-a)
χαραί
(-ai)
-が
属格 χαράς
(-as)
χαρῶν
(-ōn)
-の
与格 χαρᾷ
(-āi)
χαραῖς
(-ais)
-に
対格 χαράν
(-an)
χαράς
(-as)
-を

κοινωνίαν は -αν(-an)で終わっており、-αν(-an)で終わるのは、この表による対格だということが確認でき、「交わりを」という意味になります。

次に ω 動詞に属する ἔχω(échō)の1人称・複数・現在で、「私たちは~を持っている」を意味する ἔχομεν(échomen)が来ています。ω 動詞の活用に関しては、本講座の第5回を参照してください。

そういうわけで、κοινωνίαν ἔχομεν で「私たちは交わりを持っている」という意味になります。そしてこの「交わり」が誰との交わりなのかを説明するために μετ' αὐτοῦ(met’ autoû)があります。前置詞の μετά は後ろに対格が来るか属格が来るのかで意味が異なります。対格と共に用いられると「~の後で、後ろで」という意味を表し、属格と共に用いられると「~と共に、~と一緒に」という意味になります。このようにギリシャ語の幾つかの前置詞は、後ろに続く名詞の格の違いによって表す意味が異なる場合があります。本文の場合、μετά(μετ’)の後に αὐτός(autós)の属格の αὐτοῦ(autoû)が続いています。前後の文脈でこの αὐτός は「神」を指していますので、本文ではセットになって「神と共に」と訳されていますが、文字通りに訳すと「彼と共に」となり、A全体は、

κοινωνίαν ἔχομεν μετ' αὐτοῦ:私たちは神と共に交わりを持っている

となります。続いてBに当たる ἐν τῷ σκότει περιπατῶμεν を見ていきましょう。まず「~の中に、~において」を表す、与格を取る前置詞の ἐν(en)と、その後に与格の定冠詞と名詞の組み合わせ τῷ σκότει が来ています。この名詞の主格形は σκότος(skotos)で、これまでに習ったのと違った曲用をしていますが、与格の冠詞が付いていますので、与格の名詞だというところまでは判断できます。ちなみに、前置詞の ἐν(en)に関する説明は第3回で詳しく説明していますので、そちらをご覧ください。

そしてやっと登場する、έω 型の約音動詞 περιπατῶμεν(perioatōmen)が今回のメインの一つです。例文の解説で同じ έω 型の約音動詞に属する φιλῶ を例に挙げて活用を紹介しましたが、その表の中で -ῶμεν で終わるものを確認すると、何と έω 型の表ではなくて άω 型の約音動詞の表の1人称・複数であることが分かります。現代ギリシャ語にも περ(ι)πατώ が存在するのですが、現代語では περπατ-άω のように άω 型の動詞として使われています。これ以上込み入った議論をすると入門ではなくなってしまいますので、詳しい解説はしませんが、περιπατῶμεν が1人称・複数であることは明確だと思います。ここまでBの部分をまとめると、

ἐν τῷ σκότει περιπατῶμεν:私たちは暗闇の中を歩き回る

となります。余談ですが、西洋哲学がお好きな方ですと、アリストテレスの「逍遥(しょうよう)学派」(περιπατητικός / peripatētikos)という言葉を聞いたことがあるかもしれません。「逍遥」という言葉はこの「逍遥学派」と「坪内逍遥」ぐらいでしか聞くことのない言葉ですが、今回学んだ περιπατῶ (-έω) に由来しています。大哲学者の「逍遥」となるといささか仰々しい言葉ですが、「歩き回る」に由来するのだと思うと「散歩」ぐらいの感覚ですが、確かに「散歩学派」は何だか変な感じがしますね・・・。

閑話休題。それでは文頭の ἐὰν(eàn)から見ていくと、

Ἐὰν εἴπωμεν ὅτι κοινωνίαν ἔχομεν μετ' αὐτοῦ καὶ ἐν τῷ σκότει περιπατῶμεν:もし私たちが、神と共に交わりを持っていて、暗闇の中を歩き回っていると言うのなら

のようになるでしょう。

■ 本文の解説(2)

ギリシャ語:ψευδόμεθα καὶ οὐ ποιοῦμεν τὴν ἀλήθειαν:

翻字:pseudómetha kaì ou poioûmen tḕn alḗtheian:

ψευδόμεθα
(pseudómetha)
[動詞] うそを言う(1人称・複数・現在、この活用については後の回で説明します)
οὐ
(ou)
[否定辞] ~ない
ποιοῦμεν
(poioûmen)
[動詞]  私は~する、行う(ποιέω の1人称・複数・現在)
τὴν
(tḕn)
[冠詞] 女性・単数・対格と
ἀλήθειαν
(alḗtheian)
[動詞] 真実(ἀλήθεια の女性・単数・対格)

続いて ψευδόμεθα καὶ οὐ ποιοῦμεν τὴν ἀλήθειαν (pseydómetha kaì ou poioûmen tḕn alḗtheian)を見ていきましょう。まず ψευδόμεθα は「うそ」を意味する ψεῦδος(pseudos)に由来します。やっとエイプリルフールにちなんだ話になりましたが、この ψεῦδο- に当たる部分は「偽の」などの意味で多用され、聖書の中でも「偽キリスト」(ψεῦδόχριστος / pseudochristos)、また一般にも英語などで pseudoclassicism(擬古主義)のように使用されています。今回は ψευδόμεθα の形で登場していますが、未習事項の塊のため、「うそをつく」の意味として理解していただければ幸いです。

次に καὶ で結ばれた後半部分ですが、οὐ(ou)は英語の not に当たる否定辞です。そして ποιοῦμεν(poioumen)も今回の主題の一つである έω 型の約音動詞に該当します。活用語尾が -οῦμεν で終わっていますので、約音動詞の表を確認すると、έω 型の約音動詞の1人称・複数に該当することが分かります。今度のは至ってシンプルですね(笑)。意味は「私たちが~を行う」となります。そして最後に、この ποιοῦμεν の目的語に女性・単数・対格の定冠詞と名詞のセットの τὴν ἀλήθειαν(tḕn alḗtheian)が来ています。意味は「真理を」になります。これの曲用は先ほど紹介した κοινωνία の属する第1変化 α 幹名詞(女性)とまったく同じです。

ですので、ここまでをまとめると、

ψευδόμεθα καὶ οὐ ποιοῦμεν τὴν ἀλήθειαν:私たちはうそをついて真実を行っていない

のようになります。

■ まとめ

最後に例文全体をもう一度見てみましょう。

Ἐὰν εἴπωμεν ὅτι κοινωνίαν ἔχομεν μετ' αὐτοῦ καὶ ἐν τῷ σκότει περιπατῶμεν, ψευδόμεθα καὶ οὐ ποιοῦμεν τὴν ἀλήθειαν:(Eàn eípōmen hóti koinōnían échomen met’ autoû kaì en tō̂i skótei perioatō̂men, pseudómetha kaì ou poioûmen tḕn alḗtheian:)の直訳は、

「もし私たちが、神と共に交わりを持っていて、暗闇の中を歩き回っていると言うのなら、私たちはうそをついて真実を行っていない」

となります。直訳では καὶ で結ばれていますので、「神と共に交わりを持っていて、暗闇の中を歩き回っている」と訳していますが、聖書協会共同訳と新改訳2017では文脈を考慮して「(持っている)と言いながら」と逆説風に訳しています。

■ 練習問題

次の一節を日本語に訳しなさい。

καὶ ἐν τῷ σκότει περιπατῶμεν

練習問題のヒントは、いつも通りすべて上の文章中にありますのでよく確認してください。

今回のレッスンは以上になります。次回は第9回の練習問題の解答をした後、残りの約音動詞 όω 型の現在形を学んだ後で例題を一緒に解いていきましょう。それでは次回の講座もよろしくお願いします!

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◇

宮川創

宮川創(みやがわ・そう)

1989年神戸市生まれ。独ゲッティンゲン大学にドイツ学術振興会によって設立された共同研究センター1136「古代から中世および古典イスラム期にかけての地中海圏とその周辺の文化における教育と宗教」の研究員。コプト語を含むエジプト語、ギリシャ語など、古代の東地中海世界の言語と文献が専門領域。ゲッティンゲン大学エジプト学コプト学専修博士後期課程および京都大学文学研究科言語学専修在籍。元・日本学術振興会特別研究員(DC1)。京都大学文学研究科言語学専修博士前期課程卒業。北海道大学文学部言語・文学コース卒業。「コプト・エジプト語サイード方言における母音体系と母音字の重複の音価:白修道院長・アトリペのシェヌーテによる『第六カノン』の写本をもとに」『言語記述論集』第9号など、論文多数。

福田耕佑

福田耕佑(ふくだ・こうすけ)

1990年愛媛県生まれ。現在、京都大学大学院文学研究科現代文科学専攻博士後期課程。専門は後ビザンツから現代にかけての神学を含むギリシャ文学および思想史。特にニコス・カザンザキスの思想とギリシャ歴史記述とナショナリズムに関する研究が中心である。学部時代は京都大学文学部西洋近世哲学史科でスピノザの哲学とヘブライ語を学んだ。主な論文に「ニコス・カザンザキスの形而上学と正教神学試論―『禁欲』を中心に―」『東方キリスト教世界研究』第1号など。