2025年6月17日06時18分

平安を探る道 穂森幸一

コラムニスト : 穂森幸一

さあ、あなたは神と和らぎ、平和を得よ。そうすればあなたに幸いが来よう。(ヨブ記22:21)

日米同時平和巡礼のために、米国に行く機会が与えられ、世界最高の経済大国を見ましたが、西洋文明の限界と格差社会の現実を学ぶことにもなりました。

5月30日の早朝、鹿児島空港をたち、羽田経由でロサンゼルスに向かい、そこでニューメキシコ州のアルバカーキ行きに乗り換えるという強行軍でした。アルバカーキに到着するとレンタカーを借りてスーツケースを積み込み、植物園に向かい、植樹する桜の木の交渉をしなければなりませんでした。幸いにも現地のクリスチャンたちの協力により、スムーズに交渉を進めることができました。

ニューメキシコ州は元々が砂漠地帯のため、植樹の手順が日本とは異なるようです。植樹する樹木は、植物園で6年ほど育てたものでないと枯れてしまうようです。また、枝葉をなるべく落としていかないといけないそうです。十分な深さに穴を掘り、水を用意します。6月1日のミサの後で、サンタフェカテドラル教会の目立つ所に平和巡礼の記念としてウエスタ―大司教と共に植樹を行うことができました。

植樹を行ったあと、仏教の僧侶、カトリックの司祭、プロテスタント教会の牧師などが中心になって祈りの平和巡礼を行いました。その際、ロスアラモス核兵器の秘密の出先機関が置かれていた場所なども巡りました。

それからロスアラモスに向かい、核兵器の研究所の跡やオッペンハイマーの育った家などを見ました。そして、オッペンハイマーについて研究している人の話を聞くことができました。その研究者によると、核兵器は戦争の抑止のために作るのであって、実際には使用しないと政府に騙されていたみたいです。広島と長崎で使用されたと分かったとき、オッペンハイマーはとても悲しんだという話を聞きました。どんな口実であれ、兵器が存在すれば使用される可能性がありますので、核廃絶しか道はないと感じます。

米国政府はロスアラモスで研究を行い、トリニティサイトで実験を行っています。その間に延べ2万人の労働者が作業に従事し、今日の資産価値で20兆円が費やされていたので、使用して効果をアピールするしかなかったという意見もありますが、とんでもないことです。また、第二次世界大戦後の軍事覇権を有利にするために広島、長崎を利用したという説もあります。

また戦後、世界各地から延べ18万人がロスアラモスを訪れ、技術を学び、核兵器の開発が世界に拡散していったと聞きました。

トリニティでの核実験のことは米国民にも秘密だったようで、近くで水遊びをしていた少女たちや施設労働者の中にも、核被害に遭った人々が少なくなかったようです。今でも、秘密の実験が続けられているといううわさを耳にしましたので、近づくのをやめました。

ロスアラモスからアルバカーキに向かうのに回り道をして山道を抜けていくと、開拓時代から続くというバーが今でも営業していました。そこでコーヒーを飲んでいると、店の人が近くに禅の道場ができているよと教えてくれ、早速、訪問してみることにしました。

臨済宗の禅の寺院があり、フランス系の女性が和尚として迎えてくれました。大きなお堂、座禅道場、宿泊施設などがあり、温泉が湧き出ていて、露天風呂までありました。尼僧の話によると、心の傷ついた人、悩みを抱えている人々が、週末に訪れてくるそうです。座禅を通して自分と向き合い、問題を解決するようにしているので、あまり余計な口出しはしないようにしていると話していました。

訪れる人々が元気になるように、施設内で無農薬の野菜を栽培し、ニワトリも飼っています。100人が食事できる食堂もありますが、和尚自ら腕を振るって料理を提供しているそうです。私が正直に感じたことは、このような施設が日本にもあればいいのにということでした。

6月2日にはロサンゼルスに向かい、3日の午前中、ダウンタウンの曹洞宗禅宗寺を訪れ、小島和尚の案内で、ユニオン教会、センチュリーメソジスト教会、高野山真言宗、東本願寺を巡りながら、祈りの平和巡礼を行いました。

小島和尚の話では、ロサンゼルスのダウンタウンでは宗教宗派を超えて、災害への対応、生活困窮者の支援活動などを普段から協力して行っているということです。どの宗教施設に行っても、快く受け入れてくれ、地域に密着しているのが印象的でした。

ペリーが浦賀を訪れて以来、米国は日本に多大な影響をもたらしてきました。欧米文化への開花、憧れなどを与えてきましたが、今日の米国社会には閉塞感があり、行き詰まりが感じられます。一時は米国社会で宗教を否定し、社会秩序を破壊するような左翼活動が活発になったこともありました。

そういう状況で、東洋思想への憧れが高まっているように思います。全米各地に禅センターがオープンし、どこも盛況だそうです。ドジャースの大谷選手の人気は、単に野球が強いというだけではないようです。彼の選手としての姿勢、生きざまの中に、東洋思想に裏打ちされた何かがあるように受け止められていると思います。

大谷がホームランを打つと、5万人の観衆がどよめき、歓声が上がります。地域の地震計が反応するという声もあるほどです。昔の日本社会でお祭りが行われ、鬱積(うっせき)した気持ちを発散させていたのと共通するものがあるという意見もあります。

東洋思想を土台とした中で育ち、聖書の教えと出会い、思想家として世界的に尊敬された内村鑑三や新渡戸稲造のようなリーダーが今こそ生まれ、欧米諸国をけん引していくことが求められているのかもしれません。今回の米国訪問で感じたのは、大げさかもしれませんが、東洋の地、日本からリーダーシップの発揮が求められているということです。

指導がないことによって民は倒れ、多くの助言者によって救いを得る。(箴言11:14)

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穂森幸一

穂森幸一

(ほもり・こういち)

1973年、大阪聖書学院卒業。75年から96年まで鹿児島キリストの教会牧師。88年から鹿児島県内のホテル、結婚式場でチャペル結婚式の司式に従事する。2007年、株式会社カナルファを設立。09年には鹿児島県知事より、「花と音楽に包まれて故人を送り出すキリスト教葬儀の企画、施工」というテーマにより経営革新計画の承認を受ける。著書に『備えてくださる神さま』(1975年、いのちのことば社)、『よりよい夫婦関係を築くために―聖書に学ぶ結婚カウンセリング』(2002年、イーグレープ)。

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