2019年6月26日19時54分

児童福祉法・児童虐待防止法の改正を受けて(3)通報を基準に考えるのではなく隣人として 千葉敦志

執筆者 : 千葉敦志

児童福祉法・児童虐待防止法の改正を受けて(3)通報を基準に考えるのではなく隣人として 千葉敦志
※ 写真はイメージです。

法律は最後の砦――通報を基準に考えるのではなく隣人として

児童虐待の程度について、要保護(レッド)、要支援(イエロー)、要観察(グレー)の3段階に分けたとき、多くの要支援、要観察については、いまだにその支援理論が俎上(そじょう)に載っている段階でしかありません。有志が試行錯誤をしている段階の地域も少なくありません。しかしその一方で、保育所や認定こども園、幼稚園などでは、その学びを深め始めています。

ここで大切なことは、厳密に考えれば、要観察段階というのは、子育て世帯のすべてに当てはまるということです。ほとんどの世帯は微妙なバランス感の上にあるだけで、虐待に至る種は眠っていると考えるべきです。今は、たまたま物事が良い方向に向かっているだけで、何らかの原因で一度それが崩れたときに支援が必要となるのです。しかし、その時に適切な支援が届かなければ、マルトリートメントは次の段階に進んでしまいます。つまり虐待は「社会問題」なのです。

第1回でご紹介したチャイルド・プロテクション・チーム(CPT)の仕組みを、地域は一体どのように創設していけばよいのでしょうか。「善きサマリア人のたとえ」の中で、イエス・キリストは「あなたはこの3人のうち誰がその人の隣人となったか」と問われます。虐待は「隣人がいない環境」で悪化するのです。そこに着目し、子ども食堂などを展開する教会も増えてきました。本当に虐待を防ごうとするのであれば、やはり地域の連携は欠かせないでしょう。

地域版CPTの受け皿として、教会は大きな可能性を持つと私は期待しています。「隣人」とは「共に歩む人」という意味です。教会は「誰が見捨てたとしても神が見捨てない」という「隣人性」を内包していると、私は確信しています。「あなたの敵を愛しなさい」という主の宣教命令は、この虐待についても重要な示唆を示していると思います。

命の誕生を喜び、命の尊厳を証しする

出産は命懸けの一大事です。新しい命が生まれるということは、母親とその子の命懸けの証しであり、それに私たちは謙虚にならなければなりません。母親、そしてその胎の中の子、その一人一人の命の尊厳を認め、大切にすることからしか、虐待は食い止められないのです。生まれる前からみんなで楽しみにし、悲喜交々(ひきこもごも)を共に味わい生きていく決意は、信仰からしか導き出せないのです。出生率や、出生者数のみが語られる中で、私たちはその尊厳を忘れかけてはいないでしょうか。そしてそのつけが今、虐待としてクローズアップされていると思わざるを得ません。

児童福祉法や児童虐待防止法が改正されたことについて「法的には前進」という評価を私が与えたのは、そのことです。どんな法律があったとしても、虐待がなくなることはありません。

今から50年ほど前、チャウシェスク独裁政権下にあったルーマニアでは、富国強兵政策の一環で、「産めよ増やせよ」の人口増加政策を行いました。しかし、育児放棄などが続出し、孤児院を設立して対応したものの、その孤児院そのものが予算不足などで劣悪だったのみならず、政権が崩壊するのと同時に崩壊し、多くのストリートチルドレンが生み出されてしまいました。これは国家規模の虐待ともいうべき事態となりました。

わたしはあなたを母の胎内に造る前から
あなたを知っていた。母の胎から生まれる前に
わたしはあなたを聖別し
諸国民の預言者として立てた。
(旧約聖書・エレミヤ書1章5節)

私たちは主の御業をすべて知ることはできませんが、主はエレミヤを通して、すべての命に対して、母親の胎内に宿る前からその命を知り、聖別し、祝福したと語ってくださっています。その証しを受けた私たちは、これから生まれてくる命をはじめとしたすべての命に対して、主に倣って「命の尊厳を証しする者」になりたいと思います。主の愛を伝え、主の祝福を祈り、その「命の尊厳」を証し続けることが、主にある私たちに対する大宣教命令であると確信しています。

虐待の問題は、今取り組み始めたとしても、これから120年にわたる課題です。私たち一人一人もまた、母の胎内に宿る前から主に知られ、聖別され、祝福され、今立てられているのですから、そんな私たちがしっかりとまず「手を取り力を集結」させることから始めていこうではありませんか。

皆様のお働きの上、主の祝福が豊かにありますように祈ります。(終わり)

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千葉敦志

千葉敦志

(ちば・あつし)

1970年、宮城県生まれ。日本基督教団正教師(無任所)。教会付帯の認可保育所の施設長として、保育所の認定こども園化を実施。施設長として通算10年間、病後児保育事業などを立ち上げたほか、発達障害児や身体障害児の受け入れや保育の向上に努め、過疎地域の医療的ケア児童の受け入れや地域の終末期医療を下支えするために、教会での訪問看護ステーション設置などを手がけた。その後、これまでの経験に基づいて保育所等訪問支援事業を行う保育支援センターを立ち上げた。現在、就労支援B型事業所「WakeArena」を立ち上げ、地域の福祉増進を目指している。