2016年11月1日21時28分

【童話】星のかけら(10)月山さんのプレゼント・その3 和泉糸子

コラムニスト : 和泉糸子

3人組はこのノートをログハウスに持ち帰り、本だなから辞書を出して来て、一所けん命に読みました。

むずかしい字も多く、何と書いてあるのか分からないような大人の字だったので、苦労して読みました。学校の宿題をするときよりも、ずっと真けんに、相談しながら、この作業に取り組みました。

小人の秘密は大人には教えられない。たとえ、パパやママにでも牧師先生にでも。だから、自分たちの力でこのノートに書いてあることを理かいしなければならない。赤や緑や青の玉のことが書いてある。そして、ぼくたちはそれを持っている。月山さんはビタエの友達だったんだ。テレパシーが使えるんだ。

3人は、読み進めるごとにうなずき合いました。「テレパシーって超能力(ちょうのうりょく)だよね」と、ケンタがかくにんしました。

「月山さんって、ただものじゃなかったんだね」。ユキトも言いました。

シュンスケは、あの物静かな、背の高い月山のおじいさんが、実はとてもすごい人だったんだなと思いました。

「ビタエさんっていくつなんだろう。おじいさんじゃなくてわかいよね」とユキトが言いました。絵にかかれたころは月山さんと同じくらいの年だったはずのビタエさんは、月山さんがおじいさんになっても、まだわかい姿だった。小人と人間は年の取り方がちがうのかもしれないと、シュンスケも思いました。

3人はおべんとうを食べてから、もう一度アトリエにもどりました。地下室をくまなくたんけんしたけれど、新しい発見はありませんでした。

「小人に会うには、地下室に行きなさい」と月山さんは書いてくれましたが、地下室に行っても小人には会えませんでした。発見したのは小人の住まいのあとと、たくさんの絵と、ノートだけでした。

3人は地下室の入り口のかぎを閉めて、じゅうたんを前のようにのせ、アトリエをあとにして、アジサイの木の下のモニュメントをさがしました。アトリエの近くの大きなアジサイの木の下には、小さな黒い石の十字架(じゅうじか)が立っているだけでした。あのノートを読まなければ、そこが小人のおはかであることはだれにもわからないだろうと、シュンスケは思いました。

そして、夕方になり、3人はバスに乗って帰ることになりました。シュンスケがノートをあずかって、コピーする、そしてそれを3人が持っていることに決めました。そうやって、みんなで時間をかけて、小人に会うにはどうしたらいいのかを考えようという約束をしました。

ログハウスのかぎとアトリエのかぎはユキトがあずかっておじさんの牧師先生に返しました。シュンスケは月山満のノートと地下室の入り口のかぎを箱に入れて、だれにも見つからないようにしまっておく役目を引き受けました。(つづく)

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和泉糸子

和泉糸子

(いずみ・いとこ)

1944年生まれ、福岡市出身。65年、福岡バプテスト教会で受洗、後に日本基督教団の教会に転入し、Cコースで補教師試験に合格。96年より我孫子教会担任教師、2005年より主任担任教師となり、20年間在職。現在日本基督教団隠退教師。九州大学文学部卒業。東京都庁に勤務後、1978年より2002年まで、船橋市で夫と共にモンテッソリー教育を取り入れた幼児教育や、小中学生対象の教えない教育という、やや風変わりな私塾(レインボースクール)を運営。(2017年7月17日死去、プロフィールは執筆当時のものです)

【執筆者からのコメント:童話「星のかけら」は、小学生の孫のために書いたものですが、教会学校の子どもたちが少なくなっている今、お話を通して教会や神様に少しでも出会える場が与えられればうれしいです】