2016年10月4日16時52分

【童話】星のかけら(6)クリスマス・その2 和泉糸子

コラムニスト : 和泉糸子

「月山さん、塔の鐘がこわれてしまったので、取りかえたいのですが、手伝ってくれますか」。背の高い月山さんは、教会の塔のてっぺんに新しい鐘をつるしました。建築技師(けんちくぎし)の月山さんが、知り合いに頼んで作ってもらった鐘です。年を取った牧師さんの頼みで、いい音のする小さな鐘を作れる人をさがして、実にすてきな鐘が出来上がったのです。

けれど、その牧師さんも亡くなり、月山さんも年を取りました。月山さんが小人のかじ屋さんに頼んで鐘を作ったことは、牧師さんも知りませんでした。

月山さんもわすれてしまいました。

けれど、どういうわけか、その夜は、切れ切れに、そんなことを夢の中で思い出しました。でも、目覚めると何もかもわすれてしまいます。

けれど、子どもたちのプレゼントがテーブルの上においてありました。

「クリスマスか」。もうすぐクリスマスかと、月山さんは思いました。なんだか、あったかいものが体の中をめぐっているようで、くすぐったいような感じがしました。

「あら、月山さん、今日は顔色がいいですね」。体温計をもって回ってきた看護師(かんごし)さんが、声をかけました。

それから間もなくの日曜日のこと。クリスマス礼拝が終わって、みんなでお祝いの会をするじゅんびをしていました。

12月25日ではなく、25日より前の一番近い日曜日に教会のクリスマス礼拝はあるので、まだ、シュンスケもケンタもサンタさんのプレゼントはもらっていませんでした。イブの夜に、ベッドのそばにくつ下をつるして、サンタさんがとどけてくれるのを待っているからです。

でも、ユキトはサンタさんのプレゼントを、もうもらいました。サンタさんがユキトの家に、特別に速達便でとどけてくれたんだよと言って、ママが持ってきてくれたからです。

「いいなあ、ぼくんちにも速達便でとどけてくれるようにサンタさんに頼んでもらおう」。ケンタが言うと、「ぼくはイブの夜にねないで、サンタさんに会うんだ」とシュンスケが言いました。

婦人(ふじん)会のおばさんたちが作ったごちそうがならびました。お食事が終わる頃に子どもたちの劇が始まるので、少しきんちょうしながらも、3人はお料理をたくさん食べました。

劇は教会学校の子どもたち全員でするのです。でも、全員といっても7人だけですから、一人一人の覚えなければならないセリフもたくさんありましたし、パパやママやおじいちゃん、おばあちゃんまで見に来ているので、ちょっと上がり気味です。

3人の博士が赤ちゃんイエス様をたずねるクリスマス劇です。ユキトはイエス様に黄金をささげる博士の役、シュンスケはにゅうこうを、ケンタはもつやくをささげる博士の役です。小さなリクくんは赤ちゃんイエス様の役。ベッドの代わりに2つならべて置いたいすの上で横になっています。わらの代わりにいすにはクッションがしかれ、黄色い毛布(もうふ)がかけてあります。

「あの毛布、プーさんの絵がかいてあるよ」ってだれかが言いましたけど、そんなこと関係なし。リクくんのお気に入りなんですから。

マリア様の役は1年生のマリちゃん。ヨセフさんは2年生のダイスケくんです。5年生のヒカルさんはナレーターです。

これで7人全員ですから、このシーンが終わると、早変わりをして天使さんと羊かいになるので、いそがしいのです。教会学校の先生も天使の役と星を持つ係に加わります。

「おほしがひかる、ピカピカ、ふしぎにあかく、ピカピカ、なにが、なにがあるのか、おほしがひかる、ピカピカ」

そんな、子どもさんびかを歌って、最後に「うれしい、うれしい、クリスマス」を歌うと大きなはくしゅが起こりました。

子どもたちはほっぺを少し赤くしながら、おじぎをしました。

すると、とつぜん、白いおひげを生やして、背中を曲げた、サンタクロースのおじいさんが、よろよろしながら登場して「ズドゥラースト・ビーチェ」と言いながら、子どもたち一人一人にふくろから出したプレゼントをくれました。

「なに言ってんのか分からないね」「すごい年よりだね」

びっくりしながらも「ありがとうございました」とお礼を言うと「スパシーバ」「スパシーバ」と、おじいさんが言いました。

「遠いロシアの国から、はるばるサンタクロースのおじいさんが来てくれて、とてもくたびれているけれど、君たちにプレゼントを無事にとどけられてうれしい」と言っておられますと、祝会の司会をしていた藤田さんが言いました。

プレゼントの箱を開けたリクくんが泣きだしました。

「サンタさんにお願いしてたのは、これじゃないのに」

藤田さんが、もじょもじょと、サンタさんの耳元で何か言うと、サンタさんがまた、分からない言葉で、何か言いました。

「リク君、このサンタさんは教会のよい子にプレゼントをとどける係のサンタさんなんだって。みんなのお家に行くのはまた別のサンタさんだから、大丈夫。リクくんの家にもイブの夜にサンタさんが来てくれるよ」

みんながもう一度「ありがとうございました」とお礼を言うと「ダ・スヴィダーニア」「スパシーバ」と言いながら、おじいさんは、またよろよろと転びそうになりながら、ドアの外に出て行きました。

トナカイがどこにつないであるのか、見たいなあとケンタは思いましたが、ママがオルガンをひき始めたので、またみんなでクリスマスの歌を歌いました。

「アンコール」「アンコール」という声がかかったからです。

「おじいさん、無事に帰れたかなあ」「すごい年よりだったね」「ぜったい100さい以上だよ」

子どもたちはしばらくの間、このお年よりのサンタさんの話題で盛り上がっていました。ほんとうのところは、教会のおじさんがサンタさんのかっこうをしていたのですけど、あまりにも上手だったので、子どもたちはロシアからサンタさんが自分たちのところに来てくれたのだと、信じていました。わけのわからない言葉を話すサンタさんなんて、ほかには、どこにでもいるはずがないですものね。(つづく)

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和泉糸子

和泉糸子

(いずみ・いとこ)

1944年生まれ、福岡市出身。65年、福岡バプテスト教会で受洗、後に日本基督教団の教会に転入し、Cコースで補教師試験に合格。96年より我孫子教会担任教師、2005年より主任担任教師となり、20年間在職。現在日本基督教団隠退教師。九州大学文学部卒業。東京都庁に勤務後、1978年より2002年まで、船橋市で夫と共にモンテッソリー教育を取り入れた幼児教育や、小中学生対象の教えない教育という、やや風変わりな私塾(レインボースクール)を運営。(2017年7月17日死去、プロフィールは執筆当時のものです)

【執筆者からのコメント:童話「星のかけら」は、小学生の孫のために書いたものですが、教会学校の子どもたちが少なくなっている今、お話を通して教会や神様に少しでも出会える場が与えられればうれしいです】