2015年5月17日18時18分

前のものに向かって 安食弘幸(17)

コラムニスト : 安食弘幸

「私は、すでに得たものでもなく、すでに完全にされているのでもありません。ただ捕らえようとして、追求しているのです。そして、それを得るようにとキリスト・イエスが私を捕らえてくださったのです。兄弟たちよ。私は、自分はすでに捕らえたなどと考えてはいません。ただ、この一時に励んでいます。すなわち、うしろのものを忘れ、ひたむきに前のものに向かって進み、キリスト・イエスにおいて上に召してくださる神の栄冠を得るために、目標を目ざして一心に走っているのです」(ピリピ3:12~14)

昭和2年9月27日(火)午後2時から3時半の間、北海道大学中央講堂で教授や学生約2千人を集めた講演会が持たれました。講演者は内村鑑三。講演題は「Boys be anbicious!」。この言葉は、それより50年前(明治20年)札幌農学校を去る時、ウィリアム・クラーク博士が見送りの学生に対して贈った言葉です。

内村の講演には2つのポイントがありました。

  1. “Boy”とは年齢的に若い人のことではない。“anbicion”を持っている人間のことである。自分は今67歳である。しかし、私もBoyである。
  2. “Anbicion”とは単なる「大志、野心」ではない。それは「将来、自分が成し遂げようとする仕事をしっかり決める精神」である。そして、それは神と人とを愛するためのものでなければならない。

この講演は、多くの人々に感銘を与えました。

さて、人の価値を評価する方法は2つあると言われます。一つはその人の過去の業績・仕事・学歴によって評価する方法です。もう一つは、その人が将来に対してどんな目標や夢やビジョンを持っているかによって評価する方法です。

パウロは「うしろのものを忘れ、ひたむきに前のものに向かって進み」と言いました。自分の将来に明確な目標やビジョンを持たない人は、舵のない船、ハンドルのない車と同じです。どこに向かって行けばいいのか分かりません。

フランスの昆虫学者ジャン・アンリ・ファーブルの実験で行列毛虫を使ったものがあります。行列毛虫は前のものに付いていく習性を持っています。そこで行列毛虫を植木鉢の縁に丸くズラリと並べ、鉢の真ん中に餌を置きます。すると行列毛虫は7昼夜グルグル植木鉢の縁を回り続け、最後は飢えと疲労で死んでしまったのです。餌はすぐそばにあったにもかかわらずです。人生の目的も夢もビジョンも持たないで歩んでいる人の姿も、これと同じです。

老人ホームにおける興味深いデータがあります。日本では、お盆やお正月が近づくと死亡率が下がります。アメリカではクリスマスやイースターの前に同じ現象が起きます。なぜでしょうか。それは、このような時期には家族や友人たちが一堂に会することが多いのですが、老人たちは、「もう一度、あの顔を見てから」とがんばって、少しだけ長生きをしようとするからです。このように明確な目標は、寿命にも大きな影響を及ぼすのです。

昔から「流れ星に向かって願い事を3回繰り返せば、その願い事は叶う」と言われます。これは単なる迷信ではなく、根拠のあることです。つまり、流れ星が現れて消えるほんの僅かの間に3回も繰り返せるのは、いつもその事に思いを集中させているからです。そのような願い事が実現する可能性は非常に大きいのです。

さて、あなたの心に燃えている目標・夢・ビジョンは何ですか。もちろん、どんなものでも良いわけではありません。それが人生や家庭や健康を壊すものであってはなりません。

ロバート・シュラー牧師は言います。「真に偉大な夢とは、私たちを毎朝ワクワクさせながら起こすものであり、次の3つの条件を備えている。① それは、神の栄光を現すものである。② それは、誰もやったことのないものである。③ それは、人々のためになるものである。この3つの条件を満たしていれば、断固やり抜くべきである」

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安食弘幸

安食弘幸

(あんじき・ひろゆき)

峰町キリスト教会牧師。1951年、島根県出雲市に生まれる。関西学院大学社会学部卒。大学時代は硬式野球、関西六大学リーグのスラッガーとして活躍。関西聖書学院卒。セント・チャールズ大卒(哲学博士)。JTJ宣教神学校講師、国内外の教会や一般企業、ミッションスクール、病院、福祉施設などで講演活動を行っている。著書に『キリストを宣べ伝える―コリント人への手紙第二』『心の井戸を深く掘れ』『道徳力―モーセの十戒に学ぶ―』『ルツの選択、エステルの決断』など多数。

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