
人口14億を超え、今や世界最多の人口を擁する大国インド。この国の根幹を成すのは、数千年の歴史を持つヒンズー教である。ヒンズー教は単なる宗教ではなく、人々の生活、思考、そして社会構造そのものを規定する巨大な枠組みだ。
その中心にあるのが「カースト」と呼ばれる身分制度であり、その頂点に君臨するのが司祭階級「ブラーミン(バラモン)」である。彼らは神々と人間を仲介する「聖なる存在」とされ、社会の知性と精神の守護者として絶対的な尊敬を集めてきた。
マヨリ・シャルマは、そのブラーミンの家系に生まれ、厳格なヒンズー教徒として育てられた。彼女にとって、家の中に並ぶ無数の神々の像にぬかずき、マントラを唱えることは、呼吸をするのと同じくらい当然の日常であった。
「私たちにとって、キリスト教は単なる『白人の宗教』に過ぎませんでした」。マヨリは当時をそう振り返る。彼女のような高位カーストの人間にとって、イエス・キリストは自分たちとは歴史も血筋も異なる、遠い西洋人のための神でしかなかったのだ。
高度な教育を受け、学問的にも恵まれた環境にあった彼女だったが、その知性も伝統も、人生に訪れた激しい嵐を鎮めることはできなかった。深刻な困難に直面し、倒れそうになったとき、彼女は自らのアイデンティティーであるヒンズー教に救いを求めた。
「神々との関係を正さなければならない」と考えた彼女は、偶像への熱心な祈りと、過酷な断食を開始した。3億3千万ともいわれるヒンズーの神々の中に、自分の叫びに応えてくれる存在がいるはずだと信じ、連日必死の苦行のような毎日が続いた。
しかし、どれほどささげ物をし、どれほどマントラを繰り返しても、偶像は冷たく沈黙したままだった。彼女の心を満たしたのは平安ではなく、底知れない焦りと空虚感であった。そんなある日、一人の友人が彼女に一冊の聖書を手渡した。「これが正しいと証明するつもりはない。でも、もしあなたが本当に神を探しているなら、直接イエスにこう聞いてみてほしい。『もしあなたが本当に唯一の神なら、私に示してください』と」
ヒンズー教徒としての誇りに満ちていた彼女にとって、それは先祖代々の教えを裏切るような恐ろしい挑戦であった。しかし、偶像の沈黙に絶望していた彼女には、そのハードルは決して高過ぎるものではなかった。彼女は生まれて初めて「イエス」という名を口にして祈り始めると、普通に見えた彼女の周囲で、目に見えない霊的な領域が、けたたましく騒ぎ始めたのであった。(続く)
■ インドの宗教人口
ヒンズー 74・3%
プロテスタント 3・6%
カトリック 1・6%
英国教会 0・2%
イスラム 14・3%
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