1. 東方教会の聖書理解
聖書理解の根本には、聖書が神の特別啓示であり、そのことを読者や信徒に気付かせ、想起させるという重要な意味がある、とある指導者は言う。
イエスの話し言葉がアラム語であるなら、アラム語方言のシリア語(ぺシート、簡潔の意味)で書かれた聖書は神の言葉であるといわれ、それを習得することにより、イエス信仰を取り戻していくことができるという。
新約聖書のギリシア語は、コイネー(共通の意)ギリシア語で書かれ、イエスの福音が欧州中に拡大していった。やがて欧州の古代キリスト教は、ギリシアやローマの哲学、宗教の影響を受けて成立していった。一例として、クリスマスの成立やマリア崇敬の普及がある。
一方、シリア語圏はセム的思考から、ユダヤの伝統を重視した。シリア語聖書は「民衆の聖書」として商人や農民に使われ、福音はペルシア、インド、中央アジア、中国まで拡大していった。特に、初期の東方教会教父たちはシリア語聖書を写し、シリア語による賛美歌や神学的著作を残した。
2. シリア語作家たちの紹介
シリア語による作家たちが生まれる。
A. シリアのエフレム(306?〜373)
彼はシリア語聖書に精通し、その著作に『楽園の歌』がある。歌集で、罪や贖(あがな)い、終末における希望と探求心、創世記のエデンの黙想を書いている。『異端反駁(はんばく)の歌』は、当時あった幾つかの異端の教えに反対するものとして書かれた。
彼は、タティアノスの『ディアテッサロン』(ギリシア語による4つの福音書を1つにしたもので、エウセビオスによれば約170年ごろの作といわれる)について議論した初期の注釈書を著した。このことから、既に4つの福音書の存在が認められていたといえよう。
ニサイビン(ニシビス)滞在中に書いた歌『ニシベネの歌』は、当地の教会共同体が抱えていた牧会的、神学的困難さを取り扱っている。
B. ペルシアの学者アフラハト(280?〜345)
彼は23の論考から成る『デモンストレーション』を著し、神学、倫理、実際上の諸問題を扱い、愛、信仰、断食、謙虚さ、復活などを分かりやすく解説した。
C. セルグのヤコブ(451〜521)
彼はユーフラテス川のハラン近郊で生まれた。説教者としても有名な彼の主な作品は、韻文による詩的な説教集で、聖徒の生涯、聖書物語、イエスの受肉の洞察、イエスと聖餐の本質に関する神学的な考察など、幅広い内容を取り扱っている。800以上もの説教集があるといわれる。
D. メルブのイショダド(9世紀)
司教であり学者でもある彼は、初期シリア語の解釈を統合し、テキストを詳細に分析して霊的な考察を提供したといわれている。
シリア語による学び:ヨハネの福音書1章1節(右から左に読み書く)

シリア語の「ことば」は、臨在とか顕現の意味があり、神的概念である。古代ギリシア語の「ロゴス」は、理性の意味があり、抽象的である。それは、語彙(ごい)の背景が旧約のへブル的か、異教のギリシア的かで異なる。しかし、ユダヤ人であるヨハネは、ロゴスを人格的表現で、先在のイエスとした。

(続く)
※ 参考文献
川口一彦著『古代シリア語の世界』(イーグレープ、2023年)
Valeria Meadow『The Syriac Bible』(2025年)
Elizabeth Hart『The Syriac Bible』(2024年)
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