2025年10月16日09時51分

栄光への脱出の道 穂森幸一

コラムニスト : 穂森幸一

あなたがたの会った試練はみな人の知らないものではありません。神は真実な方ですから、あなたがたを、耐えられないほどの試練に会わせることはなさいません。むしろ、耐えられるように、試練とともに脱出の道も備えてくださいます。(コリント人への手紙第一10章13節)

最近、燃え尽き症候群(バーンアウト)という言葉が取り上げられることが増えているように思います。とても伝道熱心だった青年牧師が、教会運営に行き詰まって辞めてしまったらしいとか、信者の身の上相談にも熱心に取り組み、とても慕われていた神父が、病気療養のために求職しているらしいなどという話をよく耳にします。

実は、とても頑張っている人や真面目な人が陥ってしまうのが燃え尽き症候群なのです。この症状の怖いところは、脳の抑制機能の一部が壊れて、とんでもない暴走をしてしまうこともあるということです。あの立派な方が、どうしてあのような過ちを犯したのか理解できないというような声を耳にすることがあります。

精神面のほころびからくる一種の病気だと考えれば、納得がいくかもしれません。真面目な性格に反するような飲酒、喫煙、薬物、性的不品行、万引きなどに手を出してしまうこともあるのが、この症状の特徴の一つだといわれます。最悪の場合、自らの命を絶ってしまうこともある恐ろしい病気です。

コロナ禍以降、景気は悪化し、経営の立て直しに四苦八苦している経営者は少なくありません。倫理運動の理念を会社経営に取り込む経営者の団体を作った滝口長太郎さんという人がいます。この人の「打つ手は無限」という言葉が、倒産寸前の中小企業家に大きな影響を与えているそうです。

「素晴らしい名画よりも、とてもすてきな宝石よりも、もっともっと大切なものを私は持っている。どんな時でも、どんな苦しい場合でも、愚痴を言わない。参ったと泣きごとを言わない。何か方法はないだろうか、何か方法はあるはずだ。周囲を見回してみよう。いろんな角度から眺めてみよう。人の知恵も借りてみよう。必ず何とかなるものである。なぜなら、打つ手は常に無限であるからだ」(滝口長太郎)

滝口さんの影響を受けた人の話を聞きながら、私は聖書の言葉を思い起こしていました。この聖書の宝物を、どうして自分の胸のうちにしまい込んでいるのだろうか。どうして今、苦しんでいる経営者の元に、確実に届けられないのだろうかと考え込んでしまいました。

ある大手の会社に将来を有望視されていたエリート社員、Kさんがいました。Kさんは才能があり、人望もとてもありましたが、ある日突然、関連会社に出向になってしまったのです。出向先があまり評判の良くない会社だったので、周りの人も驚き、Kさん自身も「左遷だ」と落ち込んでいるということを耳にしました。

Kさんの会社の幹部に会う機会があり、なぜあのような異動があったのか、今後はどうなるのか聞いてみました。そうすると、「彼に経験を積んでほしかったんです。必ず本社に戻し、昇進させます」ということでした。

後日、Kさんに会い、幹部の言葉を伝えようとしましたが、うつ状態がひどくて、私の言葉を受け入れてもらえませんでした。彼は「みんな口先ばかりで、何も信用できない」と言っていました。その数週間後、彼の訃報を耳にしました。不眠症がひどくなり、夜中に散歩に出ていて、公園の鉄棒で発作的に首をつったみたいです。

不眠症の苦しみは、経験した人でなければ分からないといわれるほど、つらいものです。夜を迎えて、ベッドに入るのが怖いと感じるような体験だそうです。かなりの量の睡眠薬を飲んでも、あまり効かないといわれることもあります。そうすると、うつ症状はかなり進んでしまいます。

人間関係、職場環境、経済問題で、夜も眠れないほど苦しんでいる人は、私たちの周りにかなりの確率で存在します。うつ症状が悪化してから御言葉を届けようとしても、なかなか伝わりません。しかし、そうなる前に御言葉を届けることができれば、必ず心の片隅に残っていますので、こちらの呼びかけに応答してくれます。

私たちは、四方八方から苦しめられますが、窮することはありません。途方にくれていますが、行きづまることはありません。(コリント人への手紙第二4章8節)

八方塞がりという言葉がありますが、全ての道が閉ざされたように思えてしまうことがあります。前後左右どこにも道が見いだせないときは、天を仰げば、そこに救いの道があるのだと言った人がいますが、その通りだと思います。

これはフランスの精神科医が語ったことですが、うつの状態に陥ると、もう元の状態に戻れないといいます。うつは、さなぎの状態だというのです。チョウは、さなぎを破って誕生し、大空に舞い上がります。うつを経験するのは、とてもつらくて耐えがたいことです。しかし、そこから脱出するときには、栄光の道に羽ばたくことができるのです。

神が脱出の道を備えてくださっているというのは、何よりも素晴らしいメッセージです。夜も眠れずに苦しんでいる指導者や経営者の心に、神の言葉が届けられるように願っています。

患難さえも喜んでいます。それは、患難が忍耐を生み出し、忍耐が練られた品性を生み出し、練られた品性が希望を生み出すと知っているからです。(ローマ人への手紙5章3、4節)

<<前回へ

◇

穂森幸一

穂森幸一

(ほもり・こういち)

1973年、大阪聖書学院卒業。75年から96年まで鹿児島キリストの教会牧師。88年から鹿児島県内のホテル、結婚式場でチャペル結婚式の司式に従事する。2007年、株式会社カナルファを設立。09年には鹿児島県知事より、「花と音楽に包まれて故人を送り出すキリスト教葬儀の企画、施工」というテーマにより経営革新計画の承認を受ける。著書に『備えてくださる神さま』(1975年、いのちのことば社)、『よりよい夫婦関係を築くために―聖書に学ぶ結婚カウンセリング』(2002年、イーグレープ)。

株式会社カナルファホームページ
穂森幸一牧師のFacebook