2025年9月4日10時30分

ワールドミッションレポート(9月4日):リビア 砂浜に響く殉教者たちの祈り(7)

執筆者 : 石野博

2025年2月15日、殉教から10年となる節目の日を迎えた。この日、世界中で特別な記念行事が開催された。エジプトのミニヤ県にある「信仰と祖国の殉教者聖堂」には、大勢の巡礼者が記念礼拝のために集まった。(第1回から読む)

彼らの血は、新しい信仰の種子となり、今や世界中で芽吹いているのだ。21人を記念した像があるこの聖堂は、コプト正教会で最も知られた聖堂の一つとなった。10年前のこの日、21人の兄弟たちは地上の命を失ったが、彼らは永遠の命を獲得したのである。

この10年間で注目すべき変化が起きていた。21人の殉教は、中東のキリスト教徒たちに新たな勇気を与えたのだ。今も迫害下にある信者たちは、逆風の中でも信仰を守り続ける決意を新たにし、むしろ教会は霊的に強められたのである。

さらに驚くべきことに、元ISIS戦闘員の中から、キリスト教に改宗する者が出た。憎しみの連鎖は断ち切られ、赦(ゆる)しの道を選ぶ人々が、少しずつだが確実に増えている。

2023年、カトリック教会のフランシスコ教皇とコプト正教会のタワドロス2世教皇は会談し、これらの殉教者を「ローマ殉教録」に記載する旨を発表した。21人はローマ・カトリックでも殉教者として認定されたのだ。

10年の歳月を経て、21人の殉教者たちの物語は、恐怖の記憶から希望の記憶へと変容を遂げた。ISISが意図した恐怖のプロパガンダは、かえって、信仰、希望、愛が持つ絶大な力を世界に示すこととなった。人間の人生には、暴力では決して奪うことができない、命よりも大切なものがある。21人の殉教は、こんなに発展を遂げた現代にあってもなお、雄弁にそれを物語っている。

主イエスは言われた。「人が自分の友のためにいのちを捨てること、これよりも大きな愛はだれも持っていません」(ヨハネの福音書15章13節)。古代教父が言ったように、殉教者の血は教会の種子である。私たちの信仰の血脈は、そのような血の種子の結果にあることを覚えたい。

今も中東で激しい迫害にさらされている同胞の兄弟姉妹たちのために祈ろう。21人の血が、リビヤ、エジプト、および中東の各地で、霊的な大収穫の種子となるように祈っていただきたい。

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■ リビアの宗教人口
イスラム 97・0%
プロテスタント 0・2%
カトリック 1・2%
正教 1・2%

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石野博

石野博

(いしの・ひろし)

2001年より、浜松の日系ブラジル人教会で日本人開拓、巡回伝道者として従事。12年より、奥山実牧師のもと宣教師訓練センター(MTC)に従事、23年10月より、浜松グッドニュースカフェMJH牧会者として従事。18年3月より、奥山実牧師監修のもと「世界宣教祈祷課題」の執筆者として奉仕。23年10月より「世界宣教祈祷課題」を「ワールドミッションレポート」として引き継ぎ、執筆を継続している。