2023年6月9日19時15分

保育の再発見(8)デイリープログラムの回し方 スタートは朝ではなく午後3時

執筆者 : 千葉敦志

子ども/children/kids/幼稚園/kindergarten/保育園/nursery
※ 写真はイメージです。(写真:こんてつ)

アポロとは何者か。また、パウロとは何者か。この二人は、あなたがたを信仰に導くためにそれぞれ主がお与えになった分に応じて仕えた者です。わたしは植え、アポロは水を注いだ。しかし、成長させてくださったのは神です。ですから、大切なのは、植える者でも水を注ぐ者でもなく、成長させてくださる神です。(新約聖書・コリントの信徒への手紙一3章5~7節)

保育とは子どもたちの離合集散をコントロールすること

多くの保育者の思い込みに「保育とは子どもたちを統括すること」というものがあります。統括とは、統制し取りまとめることです。そして、そのために手遊びや絵本朗読、集団遊びなどの技術があると思っている場合が多いです。

そのせいか、そういう保育者の指示を見ると、複雑かつ不明瞭な場合が多いです。それでも、5歳児くらいであれば、3分の1から半分は理解でき、あとの子どもたちは見よう見まねでついていくので、「統括」は可能でしょう。うまくできれば、評価も上々かもしれません。

しかし、そのような思い込みが、3歳未満児の保育では命取りになります。こういうスタンスの保育では、「事前の声がけ」「事前のお約束」などが保育者によって行われ、知らず知らずに、子どもたちが持ち得ない「スキル」を求めてしまうことになります。そしてついには、「お約束したのに!」とか「言ったのになぜできないの!」と爆発し、最悪の場合にそれは「虐待」と呼ばれる行為を誘引してしまいます。

ですから、「保育とは子どもたちの離合集散をコントロールすること」なのだと、しっかりと心に留めておかなければなりません。手を変え、品を変え、場所を変え、視点や思考を誘導し、子どもたち自らが気付き、判断し、できるようになるように環境を整えていかなければならないのです。

多くの場合、隙間時間をつぶすために用いられる手遊びや絵本朗読などは、環境構成として導入に使われるべきですし、子どもたちのモチベーションをリセットするためのものであることを忘れてはいけません。

デイリープログラムとは

私が認定こども園の園長をしていた時代、保育実習の実習生を受け入れていたときに気付いたことがあります。それは、実習計画書が15分単位のスケジュールで埋められていたことです。例えば、園児がほとんどそろう9時半からの5歳児保育のデイリープログラムは、下記のような感じでした。

9時30分 出席確認・健康確認 掃除、一人一人の状態をチェック
9時45分 排泄・手洗い オムツ交換、トイレトレーニング
9時50分 絵本読み聞かせ 遊びに興味を持たせる内容のもの
10時00分 遊び 絵本で導入した内容を提供する
10時15分   飽きてしまった子などに声がけをする
10時30分 お片づけ・手洗い 嫌がる子などの心に寄り添う
10時45分 午前食 それぞれの発達段階に応じて支援する
11時00分 排泄・手洗い オムツ交換、トイレトレーニング
11時15分 昼食準備・手洗い 場所を空けるために子どもたちを誘導する
11時30分 昼食 それぞれの発達段階に応じて支援する
11時45分 排泄 オムツ交換、トイレトレーニング
12時00分 お昼寝準備 布団を敷き、順次寝かせつけていく

全く息つく暇もありません。実習生に「これは可能だと思いますか」と思わず聞いてしまいました。はっきりいえば、全て一斉にやってしまおうという内容です。可能かと問われれば、不可能です。生理現象の排泄までが計画の中で行われては、大人だってたまったものではありません。思わず、養成校の担当者に「デイリープログラムってこんなふうに教えているんですか」と電話をした記憶があります。

もっとも、養成校の責任ではないかもしれません。実習計画書がそういう作りになっていることも一つの原因でしょう。実習生とすれば、何とかして埋めなければいけないと思ってしまっていた部分があるかもしれません。しかし、実際の現場を見てみれば、この他に歯磨きを行ったり、汚れた服を着替えさせたり、鼻水が出ている子の鼻を拭いてあげたり、デイリープログラムには書き込まれない部分で大忙しなのです。

そのような状況の中、デイリープログラムという大枠が15分単位で決められているのです。もっとも、そんなにうまくいくわけもないのですが、午前食や昼食の提供などは給食室の予定が決まっているので、動かすわけにもいきません。さらに、新型コロナウイルス対策でこまめな消毒も行わなければなりません。

デイリープログラムは、支援者流に言えば、毎日の定型プログラムということになります。1日の大まかな流れを設定するものです。そして、そこで子どもたちの生活リズムを整えるのが目的にならなければならないのです。このデイリープログラムがうまく回らないと、保育がドタバタしてしまいます。

スタートラインを朝ではなく午後3時に

しかし、実際にやってみると、そう簡単なことではありません。登園する時間、降園する時間は子どもによってまちまちですし、さらに家庭に戻ってからの生活は全く別物です。夜遅くまで起きている子もいれば、朝早く起こされる子もいます。朝食などをコンビニおにぎりやバナナ、菓子パンで済ませる子もいますし、しっかり食べてくる子もいます。細かく考えてみれば、デイリープログラムのスタートラインが朝に設定されていることは、実は保育にとっては不都合な場合が少なくありません。

ですから、私がコンサルテーションに入る保育園には、デイリープログラムの時間を思い切って、お昼寝明けから翌日の昼食までの区切りで考えていただきます。それは、子どもたちは昼食を取り、お昼寝をしてやっと安定した状態になるからです。園内で一斉にスタートを切れるのは、実はお昼寝明けなのです。

ですから、この一番クリアな時間に、翌日を意識させながら保育をスタートしていきます。一番クリアな状態の時に、「明日を楽しみにさせる」という目的が明確化するため、保育を行う側も考えやすいというメリットがあります。一方で、徐々に保護者が迎えに来ますから、それを翌日に引き継げるように努めます。年中児、年長児を中心に「明日が楽しみ」とか「明日は早く来てやり残したことをやらなきゃ」と、子どもたちが思えるようになればしめたものです。

お昼寝明けは、おやつを食べることから始まりますから、そのおやつの時間が第一関門になります。私が見ている保育園では、どこも入眠には気を使っていますが、起こすときには手荒な場合が多いです。ぱっちり目覚めるための工夫が必要です。「子どもたちの間ではやっている曲を流すと、一発で目覚めます」と、ある保育士がいたずらっぽく教えてくれたテクニックも良い例でしょう。

活動を切り出していく

デイリープログラムを回すときに、いきなり「今日は〇〇で遊びましょう」とおもちゃを真ん中にぶちまける様子をよく目にしますが、そうではなくて、起承転結のように「活動を切り出していく」必要があります。その切り出した活動を、それぞれの時間で展開していきます。

送り出しはどのようにするか、朝の受け入れはどうするか、全員がそろうまでにやるべきこと、全員がそろったらやるべきこと、の大きく4点がデイリープログラムに位置付けられるべきものになります。

お昼寝から起き、子どもたちが目覚めた状態になったら、おやつを提供し、おやつの間に翌日の予告になるような声かけ、活動の提示などを行います。例えば、翌日、粘土を使った保育をしようと思ったら、おやつの準備時間やおやつの片付け時間に、粘土に関連付けられる絵本を読み聞かせたりして、粘土に興味を持たせます。その後、少し粘土を触ったりすると、翌日の活動を子どもたちがイメージしやすくなります。

その後、徐々に帰っていく子どもたちを見送りながら、残っている子どもたちを巻き込んで次の日の備えをします。ここで「明日、みんなに見せようよ」と、残っている子どもたちを巻き込んで、見本を作ったりするわけです。

当然、翌日にそれを見れば、後から登園してきた子たちもその活動に自然に合流していくでしょう。そして、全員がそろうコアタイムにその遊びをさらに発展させます。子どもたちの反応を見ながら十分に遊ばせ、午後3時からの次のデイリープログラムに思いを巡らせます。子どもたちが満足した状態なら、昼食もお昼寝もさほど手間はかからなくなるはずです。後は、寝ている子を見守りながら、午後3時以降の保育の準備をするという流れを作っていきます。(続く)

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千葉敦志

千葉敦志

(ちば・あつし)

1970年、宮城県生まれ。日本基督教団正教師(無任所)。教会付帯の認可保育所の施設長として、保育所の認定こども園化を実施。施設長として通算10年間、病後児保育事業などを立ち上げたほか、発達障害児や身体障害児の受け入れや保育の向上に努め、過疎地域の医療的ケア児童の受け入れや地域の終末期医療を下支えするために、教会での訪問看護ステーション設置などを手がけた。その後、これまでの経験に基づいて保育所等訪問支援事業を行う保育支援センターを立ち上げた。現在、就労支援B型事業所「WakeArena」を立ち上げ、地域の福祉増進を目指している。