2022年5月5日12時29分

憐れみの心を持つ民族 穂森幸一

コラムニスト : 穂森幸一

あなたがたの着物ではなく、あなたがたの心を引き裂け。あなたがたの神、主に立ち返れ。主は情け深く、あわれみ深く、怒るのにおそく、恵み豊かで、わざわいを思い直してくださるからだ。(ヨエル2:13)

ミサイルが飛び交い、建物が破壊され、人々が乳飲み子を抱えて逃げまどっているウクライナの映像が映し出されている画面を見ながら、多くの人々があぜんとしています。これが21世紀の今日、本当に起こり得ることなのか信じられないというのが正直な気持ちです。でも数十万に及ぶ市民が命を落とし、数百万に及ぶ人々が隣国のポーランドやルーマニアに避難しているのが現実です。

世界の各国がウクライナ難民の受け入れを表明し、救援活動が活発になっています。遅ればせながら、わが国も政府首脳が受け入れについて記者発表し、数は多くありませんが、難民の方々の来日が始まっています。

そして、わが町にも難民の家族がやってきています。支援活動をしている方からお話を聞いて、驚いたことがあります。難民の受け入れについて市役所に話を聞いたところ、市の施設に3週間は滞在でき、その3週間の間に住まいを探してくださいということだったそうです。小学生の子どもさんがいたそうですが、外国人の子どもを受け入れる指定校は1校しかないそうです。その学校の近くには住めるような場所はないから、定住場所が決まったら公共の交通機関を利用して通学してくださいというのです。日本語も分からないのに、どうやって公共の交通機関を乗り継げというのだろうかとあきれてしまったそうです。

また、着の身着のままで来日した方々に何か支援はできないのか相談したところ、災害救援扱いで一時金を貸すことはできるとか、福祉課に行って生活保護の申請をしなさいと言われたそうです。ウクライナのご婦人は窓口をたらい回しにされて肩を落とし、「何て冷たい対応なのか」と嘆いていたそうです。役所の窓口に交渉しても、国のほうから何も指示がきていないから動けないという姿勢だったようです。

難民受け入れについて政府首脳が記者発表するくらいなら、難民支援法を整備してちゃんと受け入れる体制を作ったらいいのにと思います。日露戦争のときはユダヤ人捕虜に対してとても手厚い受け入れをして感謝された話とか、第1次世界大戦のときはドイツ人に対して寛大な姿勢を示し、滞在しやすいように最大限の配慮をしたエピソードを聞きますと日本民族の憐(あわ)れみ深い心に感動を覚えたりしたのですが、今はもう失われてしまったのでしょうか。

この話を聞いた仏教のお坊さんは、「お寺には部屋の余裕があるから、1つのお寺で1家族受け入れることができるし、檀家が交代で野菜やお米を持ち寄れば、食べ物も確保できます。全国のお寺が協力すれば、かなりの数の難民を受け入れることができます」と語っていました。やはり政府の動きは遅いから、民の力で進めるしかないのかもしれません。

紛争や戦争の惨劇が起こるたびに感じるのですが、人の心は時代とともに成長するということはなくて、逆に後退してしまうのでしょうか。昔の人々のほうが憐れみに満ちた心を持っているように感じてしまうのはおかしいのでしょうか。人間同士が争い、傷つけ合うのはいつまで繰り返せばいいのでしょうか。

今日の時代の良さは、テクノロジーの進歩と医学が進んだことだと言う人もいます。また、文明の利器のおかげで快適な生活を謳歌(おうか)できていると豪語する人がいます。いくらテクノロジーが進歩したとはいえ、街を破壊するミサイルと国を亡ぼす核兵器が登場しては、人類にはマイナスな要素しかありません。

私はエジプトのカイロ博物館で、古代の王侯貴族の生活用品や肌着などが展示してあるコーナーを見たとき、今日の社会に持ってきても十分通用するし、むしろファッションセンスは優れているかもしれないと思いました。

今の時代は科学技術が進歩しているといわれますけれども、いまだに解明できない古代のロストテクノロジーがあります。その1つがピラミッドのしっくいです。ピラミッドは1個1トンから2トンの石が200万個積み重ねられています。私は単純に積み重ねられているだけだと思ったのですが、カイロ大学の考古学の先生に「もし積み重ねているだけだったら、地震などで崩れて今は形が残っていないですよ。セメントで石と石をしっかりとくっつけているから、ピラミッド自体1つの大きな石になっているのです。だから天変地異があっても年月がたっても、びくともしないのです」という解説をしていただいて驚嘆したことを覚えています。

もう1つのロストテクノロジーは、ローマンセメントです。ローマ帝国は水道橋や劇場などを建設していますが、そこで用いられたセメントは、時間が経過すればするほど天然の石に近づいていくというのです。2千年たった今日でもびくともしないのです。40年か50年たったら立て替えなければならない今日のセメント技術とは大きな違いがあります。

ピラミッド建設に従事した労働者のキャンプ跡地を発掘したら、脳外科の手術をした痕跡のある頭蓋骨が発見されたそうです。労働者の中で脳腫瘍を患っていた人の手術をしていたらしいのです。私たちが想像するよりも優れた医療技術があったかもしれないといわれています。

対応の遅れている難民問題を考えていたら、心の思いが一気に古代まで飛んでいってしまいましたが、人と人のつながりも日常生活も、古今東西変わることなく聖書の真理に学ばなければと思う次第です。

世界の果てで起きていることを他人事と思わずに、憐れみの心、思い遣りの気持ちを持って祈り続けるなら、必ずその思いは届き、願いは聞かれると思います。宗派を超えて祈りの輪を広げ、支援活動を続けていかなければと思います。

義の実を結ばせる種は、平和をつくる人によって平和のうちに蒔(ま)かれます。(ヤコブ3:18)

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穂森幸一

穂森幸一

(ほもり・こういち)

1973年、大阪聖書学院卒業。75年から96年まで鹿児島キリストの教会牧師。88年から鹿児島県内のホテル、結婚式場でチャペル結婚式の司式に従事する。2007年、株式会社カナルファを設立。09年には鹿児島県知事より、「花と音楽に包まれて故人を送り出すキリスト教葬儀の企画、施工」というテーマにより経営革新計画の承認を受ける。著書に『備えてくださる神さま』(1975年、いのちのことば社)、『よりよい夫婦関係を築くために―聖書に学ぶ結婚カウンセリング』(2002年、イーグレープ)。

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