2019年6月24日16時42分

児童福祉法・児童虐待防止法の改正を受けて(1)チャイルド・プロテクション・チームから学べること 千葉敦志

執筆者 : 千葉敦志

児童福祉法・児童虐待防止法の改正を受けて(1)チャイルド・プロテクション・チームから学べること 千葉敦志
※ 写真はイメージです。

先日、児童福祉法と児童虐待防止法などの改正が決議され、2020年4月から施行されることが報じられました。この改正では、親による体罰禁止などを盛り込んだことが、大きく取り上げられました。改正法の文言を見てみると、今回の改正では虐待問題への対応に関して、強制力などの部分で拡充されており、一定の効果は期待できるでしょう。また、対応する責任を明確化していることも評価に値すると思います。今までは「必要であれば」というような書き方であったさまざまな事柄に対して、努力義務、義務へと一定の水準を確保する方向に拡充されています。そういう意味では、「法的には前進」といった感じであると私は判断しています。

しかし今後10カ月間、関連法整備を行った上で、来年4月から施行ということであり、意地悪く言えば、あと10カ月間は、現行のままであるということを意味します。制度を先取りした形での対応を模索しながら来年4月を迎えなければ、残りの10カ月余りの間にも、これまで同様の隙が生まれないとも限りません。さらに言えば、最近よく耳にする民法の「懲戒権」というものの扱いに関して、「施行後2年をめどに在り方を検討する」と付記するにとどめたことも不満が残ります。

ちなみに「懲戒権」とは、

・民法第820条(監護及び教育の権利義務)
親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。

・民法第822条(懲戒)
親権を行う者は、第820条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる。

の2つの条文を根拠に、親や保護者に対して付与されている権利のことですが、この「懲戒」に関しては、『新版注釈民法(25)』に、「懲戒のためには、しかる・なぐる・ひねる・しばる・押し入れに入れる・蔵に入れる・禁食せしめるなど適宜の手段を用いてよいであろう」との記載があり、これが児童虐待の温床になっているという指摘があります。また、ニュースで伝えられる児童虐待死亡事件も、この延長でなされているというのは誰でも想像できる部分です。その部分に対しては「施行後2年をめどに在り方を検討する」とされ、実質的には少なくても2年はこのままの状態になっていくことが明らかだからです。

チャイルド・プロテクション・チームから学べること

最近、医療界で総合病院を中心に「チャイルド・プロテクション・チーム(Child Protec-thion Team、以下「CPT」と記す)」の設置が進められるようになったということを知りました。これは、総合病院などを中心とした「小児科」などで、虐待が判明する場合が多いことに着目したものです。救急外来や受診などの際に判明した「虐待を疑われる痕跡」などを見つけた場合、病院側が主体的にその対応を行っていく仕組みのことで、主に、大手の総合病院がこのCPTの設置を始めているそうです。

このCPT設置のための手引きである「医療機関ならびに行政機関のための病院内子ども虐待対応組織(CPT:Child Protection Team)構築・機能評価・連携ガイド~子ども虐待の医療的対応の核として機能するために~」が、厚生労働省のホームページで公開されています。このガイドの扉には、提唱者であるヴィクター・ヴィース(全米子ども虐待トレーニングセンター理事長)の言葉が記されています。

我々の子どもの、子どもの、子どものために:
これから3世代、120年以内に子ども虐待を終わりにしよう

いつかどこかで誰かが、この国でどのように子ども虐待問題が克服されたかを、克明に記録するであろう。そこにはこう記載されている

――子ども虐待の終息は21世紀の初頭に、子ども虐待に関わるあらゆる地域の専門家が、手を取り力を集結させたことから始まった――

虐待通報は市民の責務だけど地域との連携が前提

CPT設立の動きは、せっかく治療したのに、最後には虐待を受け死亡してしまうなどという、病院側の手痛い経験が基礎となっているのでしょう。疑われるケースには積極的に介入し、被害児童を見逃さないための仕組みが、このCPTということになるでしょう。

CPTでは、コーディネーターを中心に、要項やマニュアルの設置を進め、事例を集積し、対応力を上げていくことをその第一義に、その後、施設内で公認組織化して、施設内スタッフへの啓発を始めることからスタートし、最終的にはCPTを地域ネットワークと連携させることを主目的としています。

改正児童福祉法や改正児童虐待防止法は、この医療側のCPT設立に呼応することを求めていると私には見えます。つまり、病院を中心としたCPTが、さまざまな地域にあるCPTと連携したものでなければ、両法はまるで「破れ鍋に綴(と)じ蓋(ぶた)」というような状態に陥ってしまうでしょう。提唱者ヴィクター・ヴィースが、「子ども虐待の終息は21世紀の初頭に、子ども虐待に関わるあらゆる地域の専門家が、手を取り力を集結させたことから始まった」と予言的に書いているのはそういうことです。

つまり、法律が強化されたということは、地域でどのような連携が不可欠になるかということを想定しなければいけないということを示していると私は捉えます。(続く)

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千葉敦志

千葉敦志

(ちば・あつし)

1970年、宮城県生まれ。日本基督教団正教師(無任所)。教会付帯の認可保育所の施設長として、保育所の認定こども園化を実施。施設長として通算10年間、病後児保育事業などを立ち上げたほか、発達障害児や身体障害児の受け入れや保育の向上に努め、過疎地域の医療的ケア児童の受け入れや地域の終末期医療を下支えするために、教会での訪問看護ステーション設置などを手がけた。その後、これまでの経験に基づいて保育所等訪問支援事業を行う保育支援センターを立ち上げた。現在、就労支援B型事業所「WakeArena」を立ち上げ、地域の福祉増進を目指している。