2018年6月28日16時19分

8泊10日世界一周の旅(2)三自愛国教会と中国のクリスチャンたち 田頭真一

コラムニスト : 田頭真一

8泊10日世界一周の旅(2)三自愛国教会と中国のクリスチャン 田頭真一
三自愛国教会での礼拝

さて、今回の中国訪問では、感謝なことに現地にある公認教会、三自愛国教会の日曜礼拝に出席することができました。それは、人の体と心と魂のケア、すなわち全人的ケアについて考えされられる体験でした。

共産主義政権下とはいえ、現代の中国ではさまざまな宗教が信仰されています。各地にお寺や教会があり、またアニミズム的な信仰対象の祠(ほこら)も道端で見掛けます。しかし、日本で言うのと同じ信教の自由があるわけではありません。もちろん、人権問題や国内の国民感情の安定のためにも、それぞれの宗教活動は認められています。教会での礼拝もなされ、十分な冊数ではないにしても聖書も印刷されています。しかしながら、それらはあくまでも中国共産党の権威の下で許可されていることであり、制限もあります。そのような環境の中、クリスチャンの責務としてどのように宣教活動をすべきでしょうか。

私はこれまでの中国との関わりの中で、何よりも中国の人々を愛し、その益のために仕えようとするとき、不思議と道が開かれていくことを体験しています。ですから、まず私たちが神様の前に整えられ、聖書のいう意味で現地の文化と立てられている権威を尊重し、人々を愛するが故に遣わされるならば、中国の多くのクリスチャンが良い働きをしている場面に出合い、その活躍を知ることができ、また神様のために彼らと協力して人々の必要に仕えることが可能になると確信しています。

今回の講演は、直接的な宣教ではありません。急激な経済成長の中で置き去りにされている心と魂のケアが必要であることを自ら気付いた貴港市人民病院のハイタオ・タン院長が、私を招待してくれたことで、この中国で神の愛に根ざした全人医療について講演する機会が与えられたのです。心や魂のケアについては、日本においても十分とはいえません。しかし、小さいながらもその必要に応えてきたオリブ山病院の働きは、心ある中国の医療者に必要不可欠なものと認められ、その分野の指導を求められてきたのです。そこに、直接的ではなくても、全人医療を通しての福音宣教の可能性を見ることができます。

8泊10日世界一周の旅(2)三自愛国教会と中国のクリスチャン 田頭真一
2016年に貴港市人民病院で開催された第1回国際病院院長理事長フォーラムでの講演

2年前に貴港市人民病院で開催された「国際病院院長理事長フォーラム」においても、私は体と心と魂のケアの必要性を語りました。同じく海外から講師として招かれていた台湾の仏教病院の院長は、解剖後の遺体のケアと献体をした遺族へのケアについて語っていました。これは、生きているときの物質的な身体面のケアだけでは、人は本当の意味で満足できないということを如実に語っています。

さらに、中国における精神疾患の患者数の増加は、物質的な豊かさには最終的な解決がないこと示しています。現在、中国の総人口の7パーセント、約1億人が何らかの精神疾患を患っているといわれています。

2011年にハイタオ院長がオリブ山病院を公式訪問したのは、まさにその問題に対応するためでした。中国政府が、精神疾患治療を5年間の主要研究プロジェクトに組み入れ、ベッド数や専門医の不足に対応していた時期でした。貴港市人民病院も精神科を開設するプロジェクトを国から与えられ、土地が提供され、新病棟を建設することになっていました。貴港市人民病院とオリブ山病院はその後、提携を結ぶまでに至ります。

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オリブ山病院の指導の下、新たに開設された精神科病院
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今年初めて入院患者を受け入れた精神科病棟のスタッフと共に

オリブ山病院の役割としては、1)精神科設立のコンサルタント、2)精神科医療のモデルの提示、3)研修の受け入れと指導があります。そこで私は、オリブ山病院が取り組んできた、患者の尊厳を守る60年にわたる開放治療の歴史、知識、技術を伝えることを目的としています。このようにオリブ山病院で実践されている神様の愛を、中国の必要に応えて証しできることを願っています。そこでいつも心に浮かぶのが次の御言葉です。

愛する者よ。あなたが、たましいに幸いを得ているようにすべての点でも幸いを得、また健康であるように祈ります。(3ヨハネ2)

今回は、中国政府公認の三自愛国教会を訪ねましたが、以前は非公認の「家の教会」を訪ねました。両者の違いを見る中で、海外宣教の方法と神様の視点を考える機会となりました。

1つは、共産革命によって宣教師たちが中国から撤退した後、クリスチャンが減るのではなく、むしろ多くの現地人クリスチャンが生まれたということです。確かに種をまいたのは宣教師たちだったのですが、現在の中国のクリスチャンたちの成長のために、水を注いできたのは、中国現地のクリスチャンのリーダーたちが中心だったということがいえるのではないでしょうか。

また、社会が物質だけに注目し、表面的には豊かになる中で、心と魂に飢え渇きを覚え、自らいのちの水を求める魂の叫びに、神様がいろいろな方法で応えている様子を垣間見ることができました。

そして三自愛国教会も、政府から公認されているからといって、決して単に妥協した教会ということではないのです。宣教師依存の教会ではなく、文化に根差した自分たちの自立した教会になるという大きなきっかけになったのです。私が訪れた際には、宣教師によって建てられた会堂を移転し拡張するために、信徒の間で寄付が募られていました。さらに多くの人々が救われるために、自ら仕えたいと願い、行動する現地のクリスチャンたちの熱心さを感じることができました。

8泊10日世界一周の旅(2)三自愛国教会と中国のクリスチャン 田頭真一
礼拝後に三自愛国教会の前で

そのように考えるとき、人の思いをはるかに超えて働かれる神様の御業を覚えることができます。そして、礼拝者の中に多くの人民病院の職員たちを見ることができました。彼らは、物質的な日常生活の中で、心と魂の必要に目覚め、自ら魂の救い求め、そして今、全人医療を学ぼうとしているのです。そんな神様と人に仕えようとしている中国のクリスチャンや求道者の姿を見て、大きな励ましを受けることができました。

さらに、その礼拝者の中にハイタオ院長のお母様もいることを知り、確かに神様は中国の人々を愛し、働かれているのだと感じました。そして、その体と心と魂が健やかであることを願っていると確信することができました。(続く)

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田頭真一

田頭真一

(たがみ・しんいち)

1958年沖縄生まれ。関西学院大学神学部、聖書神学舎卒業。米国のフラー神学校、バイオラ大学タルボット神学校、神学大学院基金を通して英国のオックスフォード大学、また日本の国立保健医療科学院に学ぶ。教育学博士、心理学博士、名誉神学博士。日本(大阪、沖縄)の教会、米国(ロサンゼルス、ポートランド)の日系人教会を牧会し、米国、インドネシアの神学校で教鞭を執る。現在、社会医療法人葦の会オリブ山病院理事長、読谷バプテスト伝道所牧師、沖縄聖書神学校教授(宣教学、スピリチュアルケア)、神学大学院基金客員教授。著書に『天国で神様に会う前に済ませておくとよい8つのこと』(東邦出版)、『全人医療とスピリチュアルケア:聖書に基づくキリスト教主義的理論とアプローチの手引き』(オリブ山病院)などがある。