2016年10月13日07時16分

温故知神—福音は東方世界へ(57)大秦景教流行中国碑の現代訳と拓本2 川口一彦

コラムニスト : 川口一彦

温故知神—福音は東方世界へ(57)大秦景教流行中国碑の現代訳と拓本2 川口一彦

<本文と拓本>30文字(17+30=47)
粤若、常然真寂、先先而无元、窅然靈虚、後後而妙有、惣玄摳而造化、妙衆聖以

<注>
粤(エツ):① ここに。② 曰う・申し上げる。➂ ああ。文頭の発語文字。
若(ジャク):① もしも(接続詞)。② なんじ(あなた)。
常然(ジョウネン):常に変わらず、永遠に。
真寂(シンジャク):生死の世界を超越した姿。
先先而无元(センセンにてゲンナク):先は先導。先行。先んじている。无(ム)は無し。元(ゲン)は原初。先先と先を重ね先を強調していることから、永遠を意味する。
窅然(ヨウゼン・ヨウネン):深遠、奥深い。
靈虚(レイキョ):目には見えないが働かれている。
後後而妙有(ゴゴにしてミョウウ):後の後は未来の最先。時間的に言えば歴史の最終。非時間的なら永遠の後。先先との対語。妙有は優れている。
惣玄摳而造化(ゲンクをソウじてゾウカ・ゾウケす):闇の世界から万物を創造した。
妙衆聖以(ミョウシュウをセイとす):最良に造られたものを聖とした。

<現代訳>
この方について申し上げます。この方は永遠で、生死の世界を超えておられ、先の先にあられ、その初めもなく、人の目では見えない方。また後の後にして永遠の後まであられる方。闇から万物を最良に創造し、それらを聖とされました。

<解説>
冒頭から、三一にして永遠なる創造者について紹介し、永遠から永遠にあられる方が、万物を最良に創造された記事は、創世記はじめ旧新約聖書に啓示されるところです。

撰述(せんじゅつ)者の景浄が、碑の冒頭から三一の父(阿羅訶=エロヒームの漢訳語)の特質を述べたということは、景教会衆がこの方によって導かれ、建てられ、迫害や困難な時を経験しつつも、今まで生かされてきた恵みを証しすることであったことが生き生きと伝わります。

※ 参考文献
『景教—東回りの古代キリスト教・景教とその波及—』(改訂新装版、イーグレープ、2014年)
『景教のたどった道―東周りのキリスト教』(キリスト新聞社、2005年)

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川口一彦

川口一彦

(かわぐち・かずひこ)

愛知福音キリスト教会(日曜と火曜集会)ならびに名古屋北福音キリスト教会(水曜集会)の宣教牧師。フェイスブックで「景教の研究・川口」を開設。「漢字と聖書と福音」「仏教とキリスト教の違い」などを主題に出張講演も行う。書家でもあり、聖書の言葉を筆文字で書いての宣教に使命がある。大学や県立病院、各地の書道教室で書を教えている。基督教教育学博士。東海聖句書道会会員、書道団体以文会監事。古代シリア語研究者で日本景教研究会代表。特に、唐代中国に伝わった東方景教を紹介している。著書に『景教—東回りの古代キリスト教・景教とその波及—』など。