2016年5月29日06時32分

牧師の小窓(30)福江等

コラムニスト : 福江等

世の中はますます便利になっていきます。スマートフォンが出回り、携帯電話や音楽、動画の機能だけでなく、パソコンと似たようなインターネット接続が可能になり、これ一台で、かつて別々に持っていた電話、パソコン、ステレオ、テレビ、テープレコーダー、カメラ、ビデオカメラ、などなどを手のひらの上に軽く載せて持ち歩くことができる時代がすでに来ました。

いつでも、どこでも、誰とでも連絡を取り合うことができ、相手を見ることができ、買い物もでき、どんな情報も瞬時にして手に入れることができます。どこまで文明は進化し続けるのでしょうか。

このような科学技術の進化とともに、気になるのは毎日のように新聞に出てくる悲しい事件であります。この間は19歳の母親と父親が8カ月の赤ちゃんを折檻(せっかん)して死なせてしまいました。幼児虐待のニュースが新聞紙上に載らない日がないくらい、多くなってきています。赤ちゃんが泣いてうるさいからがまんできず折檻したり、布団の中で窒息させたり、餓死させたりと、日本では一昔まで考えられなかったような事件が多発しています。

さらには、最近は20代から30代の世代で「現代型うつ」という病気が多くなってきているといわれています。これは従来の「うつ」と違って、引きこもりがちになるというのではなく、仕事の上での厳しさに耐えられず会社には出られないけれど、遊びに行くのなら元気はつらつになるタイプの「うつ」だそうです。

こういった社会現象と、生活が快適便利になる現象とは比例するのではないかと思うのです。もっと便利なもの、もっと快適なものが欲しくなるように、マスメディアは購買欲を高めるための趣向をこらした広告宣伝を洪水のように流しています。いつの間にか、私たちは感覚が麻痺して、もっと便利で快適な物を求めていくようにならされています。

そして、そういった欲求が満たされなければ不満が爆発するようになってきているのではないでしょうか。我慢をするとか、辛抱するとか、つらいけど耐え忍ぶとか、ということを学ぶ機会が極度に減ってきていると思われます。これは成長過程にある青少年にとっては大変不幸なことです。恐ろしい社会現象を作り出しているのは、無制限な消費社会を是として生み出している大人たちではないのでしょうか。

牧師の小窓(30)福江等
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福江等

福江等

(ふくえ・ひとし)

1947年、香川県生まれ。1966年、上智大学文学部英文科に入学。1984年、ボストン大学大学院卒、神学博士号修得。1973年、高知加賀野井キリスト教会創立。2001~07年、フィリピンのアジア・パシフィック・ナザレン神学大学院教授、学長。現在、高知加賀野井キリスト教会牧師、高知刑務所教誨師、高知県立大学非常勤講師。著書に『主が聖であられるように』(訳書)、『聖化の説教[旧約篇Ⅱ]―牧師17人が語るホーリネスの恵み』(共著)、『天のふるさとに近づきつつ―人生・信仰・終活―』(ビリー・グラハム著、訳書)など。

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