2026年6月9日16時07分

ウクライナ政府高官、ロシア正教会を世界教会協議会から除名するよう要求

ウクライナ政府高官、ロシア正教会を世界教会協議会から除名するよう要求
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領(中央左)とロシア正教会のモスクワ総主教キリル(中央右)=2017年(写真:Kuleshov Oleg / Shutterstock)

ウクライナ戦争におけるロシア正教会の行動はキリスト教の根本原理に反しているとして、ウクライナの政府高官が同教会を世界教会協議会(WCC)から除名するよう求めた。

英チャーチ・タイムズ紙(英語)によると、ウクライナの国家民族政策・良心の自由庁長官で宗教学者のビクトル・イェレンスキー氏が、パリのカトリック系施設「コレージュ・デ・ベルナルダン」の研究センターが主催したセミナーの中で要求した。

ジュネーブに本部を置くWCCは、世界約5億8千万人のキリスト教徒を代表する356の教団・教派が加盟する世界最大のエキュメニカル組織。イェレンスキー氏は、「ロシア正教会の活動はキリスト教の根本的な原理に真っ向から反している」として、同教会をWCCから除名すべきだと述べた。

イェレンスキー氏は、ロシア正教会のモスクワ総主教庁について、「宗教の自由とウクライナの両方の敵」だと述べ、宗教的表現を抑圧し、ウクライナの国家、文化、アイデンティティーを破壊しようとしていると主張した。

イェレンスキー氏は、モスクワ総主教キリルについて、ロシアの戦争目的の代弁者になっているとして非難。キリル総主教や、戦争を賛美したり、キリル総主教自身が「破壊活動」と呼ぶような行為を西側諸国で行ったりしている聖職者らに対する制裁について議論することは「全く正当だ」と主張した。

同研究センターの公式サイト(フランス語)によると、セミナーは「ウクライナの真実と正義を実現するにはどうすればよいか」をテーマにした一連のもので、イェレンスキー氏は5月27日にオンラインで講演した。

イェレンスキー氏が講演してから1週間もたたない6月1日深夜から2日にかけて、ロシアはミサイルとドローンによる攻撃を行い、キエフ、ハルキウ、ドニプロ、ザポリージャなどのウクライナの都市で民間人少なくとも22人が死亡、数十人が負傷した。

この攻撃に対し、キリスト教会を中心にウクライナの宗教団体の大多数が加盟するウクライナ教会・宗教団体協議会(UCCRO)は、非難声明(英語)を発表。攻撃では、多数の住宅、病院、幼稚園、教会、その他の礼拝所、学校、商業施設、倉庫、その他の民間インフラが破壊されたり、損傷したりしたとし、攻撃が聖神降臨祭(ペンテコステ)を祝う時期に行われたことも問題視した。

声明では、「これらの残虐な犯罪は、犯罪的なクレムリン政権の不可欠な一部であるモスクワ総主教庁の積極的な支援を受けて、ロシアの侵略者らによってウクライナの地で行われている」とも述べ、ロシア正教会も非難した。

ロシア正教会をWCCから除名すべきだという声は、ロシアがウクライナへの本格的な侵攻を開始した2022年2月にまでさかのぼる。英国国教会のトップであるカンタベリー大主教を務めた経歴のあるローワン・ウィリアムズ氏も当時、除名が正当化される可能性について語るなどしていた(関連記事:ロシア正教会の世界教会協議会除名、前カンタベリー大主教が可能性を示唆)。

こうした声に対し、WCC中央委員会は、同年6月の声明(英語)で、ウクライナに対する軍事侵攻を強く非難し、それを正当化するために宗教的な言葉や権威を悪用することを拒絶すると表明する一方、「このような状況において出会いと対話は極めて重要」だと強調。「分裂と排除は、私たちの運動の目的とは正反対である」とし、モスクワ総主教庁の「WCC主導の下で、ウクライナ情勢を巡る出会いと対話に取り組む」姿勢を「認め、歓迎する」と述べていた。

しかしその後も、同年7月には、正教会やカトリック、プロテスタント、聖公会などさまざまな教派の神学者や宗教学者ら140人以上が、ウクライナ戦争を明確に非難するまで、ロシア正教会のWCC会員資格を停止するよう求める書簡(英語)に署名または支持を表明するなどしていた。

この問題は、キリル総主教が議長を務める世界ロシア人民評議会(WRPC)が2024年3月、ロシアのウクライナに対する軍事侵攻を「聖戦」と述べ、正当化する宣言を発表したことで再び浮上した(関連記事:ロシア正教会トップ議長の「世界ロシア人民評議会」、ウクライナ戦争を「聖戦」と宣言)。

WCCのジェリー・ピレイ総幹事は同年4月、この宣言について、これまでキリル総主教本人から直接聞いてきた内容、またWCCが表明してきた声明、さらに平和を築く者であることをキリスト者に求める聖書の教えのいずれとも、両立し得ないものだとする声明(英語)を発表。キリル総主教に対し、宣言について説明を求める書簡を送ったことを明らかにしていた。

一方、チャーチ・タイムズ紙は、この件についてWCCの広報室に対し書面で質問したが、5日までに回答はなく、キリル総主教がピレイ総幹事の書簡に返答したかどうかを明らかにしなかったと伝えている。