
自身のキリスト教信仰に基づき同性愛に否定的な見解を表明したことがヘイトスピーチに当たるとして、フィンランドの元内相で現職の国会議員であるパイビ・ラサネン氏(66)が起訴された訴訟で、同国の最高裁は3月26日、起訴内容の一部について有罪とする判決を下した。下級審では全ての内容で無罪とされており、ラサネン氏は判決に失望を表明。欧州人権裁判所への上訴を検討している。
最高裁がヘイトスピーチに当たるとしたのは、2004年発行の教会向け冊子でラサネン氏が執筆した内容。冊子の編集責任者であったフィンランド福音ルーテル宣教教区(ELMDF)のユハナ・ポージョラ監督(54)も、同様に有罪となった。
最高裁は、冊子について「性的指向を理由に、同性愛者を一つの集団として侮辱する意見を公衆に提供し、かつ提供し続けた」と指摘。また、「19年に本件に関する予備調査が開始された後も、ラサネン氏は19年と20年に自身のウェブサイトやSNS上で該当の記事を共有し続けた」とした。
有罪は賛成3人、反対2人の僅差で決まった。最高裁は判決で、「有罪判決の根拠となった文章(冊子の内容)には、暴力の扇動やそれに類する脅迫的な憎悪の扇動は含まれていないことを考慮に入れなければならない。従って、この行為は犯罪の性質上、特に重大なものではない」とも指摘した。
一方、19年のX(旧ツイッター)への投稿については、全員一致で無罪とした。ラサネン氏は、所属するフィンランド福音ルーテル教会(ELCF)が、LGBT(性的少数者)への連帯を示す地元のプライドイベントの公式スポンサーとなったことを批判する内容を、ローマ信徒への手紙1章24~27節を引用して投稿していた。
信教の自由に関するニュースを扱うレリジャス・リバティーTV(英語)によると、最高裁は今回の判決で、宗教文書の引用と臨床用語の使用を区別した。医師でもあるラサネン氏は、04年の冊子で同性愛を「性心理的発達障害」と表現していた。判決の多数意見は、この表現が神学的見解の域を超えるもので、「侮辱的」な発言に当たると判断した。
一方、Xへの投稿については、教会の方針に関する正当な公開討論の文脈において、「聖書の記述を引用し、自身の意見を正当化」したものだとして、扇動の基準には達していないと判断した。
ラサネン氏は、04年の冊子の内容、19年のXへの投稿、同年のラジオ討論番組での発言について、フィンランド刑法(英語)の「戦争犯罪および人道に対する罪」(第11章)に含まれる「少数派に対する扇動」(第10条)の罪で起訴されていた。このうち、ラジオ討論番組での発言については、2審で無罪となった後、検察が上告を断念したため、既に無罪が確定している。
今回、冊子の内容について有罪となったため、ラサネン、ポージョラの両氏は、それぞれ20日分の罰金を命じられた。フィンランドでは所得を基に罰金額が決まり、地元のラピンカンザ紙(フィンランド語)によると、ラサネン氏には1800ユーロ(約30万円)、ポージョラ氏には1100ユーロ(約20万円)が科される。また、冊子の発行元であるフィンランド・ルーテル財団には5千ユーロ(約90万円)の罰金が命じられた。
最高裁はこの他、問題となった冊子の記述を「公衆の前から削除し、破棄する」ようにも命じた。
ラサネン氏を支援してきたキリスト教法曹団体「ADFインターナショナル」の発表(英語)によると、ラサネン氏は今回の判決に「ショックを受けた」と述べ、欧州人権裁判所への上訴を検討していることを明らかにした。
「(最高)裁判所が、私の表現の自由という基本的人権を認めなかったことにショックを受け、深く失望しています。私はキリスト教信仰の教えを堅持しており、公共の場で自らの信念を共有するという、私自身、そして全ての人の権利を今後も守り続けていきます」
「欧州人権裁判所への上訴の可能性について、法的助言を受けているところです。これは、私個人の言論の自由の問題だけではなく、フィンランドの全ての人に関わる問題です。(欧州人権裁判所で)肯定的な判決が出れば、他の罪のない人々が、単に自身の信念を共有しただけで同じような試練に遭うことを防ぐ助けとなるでしょう」
ラサネン氏はその後の記者会見で、今回の複雑な結果は「フィンランドにおける基本的人権の現状について、不安を抱かせる矛盾したメッセージを送るものです」と述べた。一方、自身は神を信頼しており、7年間にわたった法廷闘争には「何らかの目的がある」と信じているとコメント。また、今回の判決によって自身の信念を表明することをやめるつもりはないとも語った。
「一方で、たとえ論争の的になり得る事柄であっても、自らの信念を表明することは犯罪ではないと裁判所が認めたことは、重要な認識です」
「公共の場で宗教的信念を表明する自由を含め、言論の自由が強力に保護されなければ、民主社会は機能しません。この罪(19年のXへの投稿)に関する最終的な無罪判決は、言論の自由を守る上での重要な勝利です」
「その一方で、異なる文脈で信念を表明したことに対して私を有罪としたことで、裁判所は不明確で、かつ極めて危険な一線を引いてしまったと考えています」
ADFインターナショナルのポール・コールマン事務局長は、判決を受け次のように述べた。
「言論の自由は民主主義の礎です。19年の聖書の一節を引用したXへの投稿について、(最高)裁判所がラサネン氏を無罪としたのは正しい判断です」
「しかし、有罪の根拠となった法律が成立するよりも数十年も前に発行された教会の簡素な冊子に対して有罪判決を下したことは、国家による検閲の言語道断な例です。この決定は、あらゆる人の自由に話す権利に対して、深刻な萎縮効果をもたらすでしょう」
コールマン氏は記者会見で、判決は「欧州における言論の自由の最低ラインを変更するもの」だと指摘。他の欧州諸国にも同様の「曖昧な表現」を用いたヘイトスピーチ法が存在するとして、今回の判決がフィンランド国外にも波及する可能性があると語った。
ADFインターナショナルのクリステン・ワゴナー最高責任者(CEO)は、次のように述べた。
「この判決は、いかなる民主主義国家も基本的人権の侵食とは無縁ではないことを突き付ける厳しい警告です。穏健な表現を、特にそれが深く根ざした宗教的信念に基づくものである場合に処罰することは、自由な社会の基盤そのものを揺るがすものです」