
キリスト教主義に基づく全人医療を理念に掲げるオリブ山病院(那覇市)では、人工知能(AI)を、病院業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)に用いるだけでなく、「科学と信仰を結ぶ道具」として活用し始めている。
今年初めには、創設者である故・田頭政佐(たがみ・せいさ)の講演原稿や資料をAIに読み込ませて整理・統合し、遺稿集『科学と信仰、スピリチュアルケアの再構築』として刊行した。これは、AIを編集効率化のツールとして用いるだけではなく、創設者の思想と実践を次世代に継承する営みに用いる取り組みでもある。
また、キリスト教主義の理念教育の教材として、AIを用いて『からだの癒やし・こころのケア・たましいの救い』と『主の御手の中で』の漫画2作を制作。さらに、チャプレンの働きを描く新作『寄り添って、たましいの救い』の制作も現在進行中だ。
これらの漫画は、オリブ山病院の実際の事例や実在のキリスト者の証しをAIに読み込ませた上で、構成やセリフの整理、作画の補助などでAIを活用している。一方、神学的な判断や最終的な責任は、理事長やチャプレン、医療者が担う体制を取っている。
最初の作品である『からだの癒やし・こころのケア・たましいの救い』は、創設者の回心の証しや、オリブ山病院の緩和ケア病棟で救われ、親子3代で洗礼を受けたシングルマザーの事例などを収録する。
「むなしさから喜びへ」と題された創設者の回心の証しでは、精神科医として葛藤する中、イエス・キリストに出会い、恐れではなく信仰を持って医療をすることへの理解を深め、その実践として、日本で最初期のホスピスの一つを開設し、全人医療を具現化していった歩みが描かれている。そして、そのホスピスが舞台の事例を基にした2つの創作漫画では、実際に起こっている救いの業を描くだけでなく、終末期における処置の在り方など医療倫理的な問いも投げかける。
また、これらの漫画の制作だけでなく、理念教育のためのグループワークガイドやファシリテーターガイド、スライドなどもAIを用いて作成。職員が、患者対応やチーム医療の実践と理念を結び付け、対話できる場を設計している。さらに、研修の進行もAIを用いて標準化し、理念が日常業務に根付く仕組みづくりを進めている。
オリブ山病院を運営する社会医療法人「葦(あし)の会」の田頭真一理事長は、「当院では、キリスト教主義に基づく全人医療を掲げており、科学と信仰の統合が日々問われています。AIの急速な発達の中で、医療と病院経営におけるDXは避けて通れない課題」と話す。
オリブ山病院がAIを用いる上で大切にしているのは、「AIは器、福音は人が語る」という原則。回心や悔い改めといった霊的な事柄は、人と神との関係において起こるもので、AIが代替できるものではない。しかし、キリスト教主義に根ざした全人医療の実際を分かりやすく伝え、その実践を助ける上で、AIは有用なツールとなる。
田頭理事長は、AIのこうした使い方は「科学と信仰の統合の具体像を示している」と言い、「最新技術を用いながらも、人の尊厳と魂の救いを見失わない実践を続けていきたい」と話した。