
米首都ワシントンで5日、第74回国家朝餐祈祷会が開催され、ドナルド・トランプ大統領が演説をした。演説は70分以上にわたり、信教の自由に対する自政権の取り組みを強調し、「宗教は今、これまで以上に復活している」などと語った。一方、政治的発言も目立ち、政敵に対する批判を繰り返し述べる場面もあった。
米キリスト教メディア「クリスチャンポスト」(英語)によると、トランプ氏は、過去の大統領よりも信教の自由のために多くのことをしてきたと述べ、近年の大統領は、信仰に対して過度に中立的か敵対的だったと主張。民主党は宗教に否定的だと述べ、「信仰を持つ人がどうして民主党に投票できるのか、私には理解できない」などと語った。
また、民主党出身のジョー・バイデン前大統領やバラク・オバマ元大統領に対する批判も述べ、「近代史において、世界中で迫害されているキリスト教徒の窮状にわれわれほど立ち向かってきた政権はない」と主張。昨年12月にナイジェリアで行った過激派組織「イスラム国」(IS)に対する空爆などに言及した。
一方、演説では、5月17日に建国250周年を記念して、「祈り、感謝をささげ、米国を神の下にある一つの国として再奉献する」集会を、ワシントンの国立公園「ナショナル・モール」で開くと宣言。会場からは大きな拍手が湧き起こった。
トランプ氏はこの他、民主党に対してだけでなく、ジェフリー・エプスタイン氏の事件に関係する文書を公開するよう強く求めているトーマス・マッシー下院議員ら、一部の共和党議員に対しても批判を繰り広げた。
こうしたトランプ氏の演説を巡っては、支持者からも不評の声が上がった。
トランプ氏の熱心な支持者で、2012年の国家朝餐祈祷会で基調演説を行ったことのあるベストセラー作家でラジオパーソナリティーのエリック・メタクサス氏は、自身のX(旧ツイッター)で次のように述べた。
「大統領のチームには、『国家朝餐祈祷会』は祈りの朝食会であることをアドバイスした人はいなかったのか。誰か大統領のスピーチ原稿を書かなかったのか。一体何が起こっているんだ? 彼らは、私を助けに呼ばなければならないと思う。ひどい状況だ。私はこの国を愛しているし、呼ばれれば奉仕する」
ただし、この投稿は現在は削除されており、トランプ氏が5月17日に開くと発表した集会に参加することを示す投稿と、この発表に対し「もしわたしの名をもって呼ばれているわたしの民が、ひざまずいて祈り、わたしの顔を求め、悪の道を捨てて立ち帰るなら、わたしは天から耳を傾け、罪を赦(ゆる)し、彼らの大地をいやす」(歴代誌下7:14)を引用する投稿のみが残っている。
それでも、トランプ氏が演説で聖書の一節を引用する場面もあった。ロイター通信(英語)によると、「心の清い人々は、幸いである」(マタイ5:8)を引用し、「これが必ずしも、私に当てはまるかどうかは分かりません」「私に当てはまるのか。努力はしているんです」などと話した。
また、自身が天国に行ける可能性について思いを巡らせながら、「恐らく自分は行けるはずだと思う」と語る一方、「完璧な候補者ではない」とも付け加えた。トランプ氏はこれまでも度々天国に関する発言をし、キリスト教の救済論を巡る議論を巻き起こしている。
国家朝餐祈祷会の基調講演は、テネシー州のビル・リー知事が行った。米南部バプテスト連盟のニュースサイト「バプテストプレス」(英語)によると、リー氏は当初講演者としては予定されておらず、講演を行うことは前日に知らされたという。
それでもリー氏は、この予期せぬ機会を生かし、悲劇がいかに自身の人生と信仰に変化をもたらしたかを語った。
子どもに恵まれ、事業に成功し、幸せの絶頂期だった2000年夏、リー氏は事故で妻を亡くしてしまう。この悲劇は、リー氏の家族に計り知れないトラウマをもたらした。
自宅の敷地内に立てた妻の墓石を見つめながら、リー氏は、妻が今の自分に語りかけるであろう言葉を想像した。その時心に浮かんできたのが、「人生で大切なことはほんのわずかであり、私たちはそれについて考えるべきだ」ということだった。リー氏はこれを、神からのメッセージでもあると受け止めた。
未来がどうなるかは全く分からないものの、神が進むべき道を示してくれると確信したリー氏は、信仰的な成長を遂げた。
「確かに私は神を知っていましたが、今は、これまで知らなかった方法で神を知るようになりました。神は、癒やし主、贖(あがな)い主、そして希望を与える存在となりました。人生で最も悲劇的な日々が、不思議なことに、人生で最も変革的な日々へと変わっていったのです」
また、リー氏が昨年12月、過去の有罪判決について恩赦を与えたカントリーミュージック界のスター、ジェリー・ロールとのエピソードも紹介した。リー氏は、まだ知事ではなかった2008年、受刑者らに講演をしたことがあったが、その中に当時収監中だったロールもいたという。
「私が知事として与えることのできる恩赦は、地上の恩赦です。私は、全ての人間の内に、赦しが必要だという生来の感覚があると信じています。そして、その赦しを与えられるのはただ一人であり、その方にはお願いをしなければなりません。その方の名前はイエスです。その方が私を呼び、私がお願いし、そして、その方が永遠の赦しを与えてくださったことを、私は個人としてうれしく思っています」
米国の国家朝餐祈祷会は1953年から続く恒例行事で、毎年2月の第1木曜日に開催される。米スミソニアン協会の機関誌「スミソニアン」(英語)によると、当時のドワイト・アイゼンハワー大統領は当初、出席に慎重だったというが、米大衆伝道者ビリー・グラハム氏に説得されて出席を決めたという。以来歴代の現職大統領が出席するのが伝統になっている。トランプ氏も第1次政権時から出席しており、今回で6回目の出席となった。