
インターナショナルVIPクラブが主催するサイエンスカフェ「科学の本質と創造論」の第5回が25日、オンラインで開かれ、約60人が参加した。クリスチャンで東京科学大学(旧東京工業大学)名誉教授の阿部正紀氏が毎回講演しており、この日は「脳科学の謎とAI(人工知能)」をテーマに語った。
AIとは、脳を模倣して、人間の知能をコンピューターによって再現することを目指す技術だ。人間の脳には、1千億個以上の神経細胞が存在し、シナプスと呼ばれる接合点で結ばれた神経細胞のネットワークが存在する。AIは、神経細胞のネットワークを模倣して作られた電気回路のネットワークによって動作している。
AIは近年、急速に進歩しつつある。このままAIの研究が進めば、やがてAIに心を持たせることも可能ではないかと考える科学者もいる。しかし、阿部氏は「AIは心を持たない」と断言する。
「AIはあくまでビッグデータに基づいて最も確からしい答えを引き出す機械です。ビッグデータの中に課題に関連するデータが存在しない場合には、答えを直感で思いつく、すなわち、ひらめくことができません。新たに作り出すこともできないのです」

では、AIに心を持たせることは、将来的に可能なのだろうか。阿部氏は「AIが進歩して脳科学が発達しましたが、脳で心が生じるメカニズムはいまだに解明できていない」と指摘する。
阿部氏によると、徹底した唯物論に立つ脳科学者は、脳の要素である神経細胞の相互作用が、心を生み出しているに過ぎないと主張する。また、これに反対する脳科学者は、心は観測することも数値化することも不可能なので、既存の科学の枠に収まらないとし、阿部氏が「創発説」「未知の実体説」と呼ぶ2つの説を主に唱えているという。
創発とは、全体を統合するリーダーが存在しないのに、個々の要素の相互作用が未知のメカニズムで組織化され、要素にはない新たな特性や機能が全体として生み出される現象。例えば、シロアリはリーダーがいないのに、10メートルを超える巨大なアリ塚を作る。そこには、換気と温度調節のための装置や、育児室、食糧保存庫といったものまで備わっている。
同じように、脳の神経細胞のネットワークでも、個々の神経細胞同士の相互作用が未知のメカニズムによって組織化され、心が現れると考えるのが創発説だ。創発という概念は、最先端科学の他の分野でも広く用いられており、中には未知のメカニズムによって生じる結果を、理論計算によって予測できるものも存在するという。
しかし、阿部氏は「心の創発に関しては、全く理論的取り扱いができません。だから、未知のメカニズムによって心が生まれたと言っているに過ぎないことになる」と説明した。

一方、未知の実体説では、主観的な心は観測も数値化もできないため、客観的な物質を扱う物理学や化学では説明できないとした上で、神経細胞に「未知の実体」が働きかけて心が生み出されると考える。
20世紀前半までは、未知の実体として「経験」や「感覚」といった主観的なものを考える哲学者や科学者がいたが、20世紀後半には、それらは「情報」だと主張する脳科学者が出てきた。情報は物質に記録されるが、物質を超えている。これは、心は神経細胞によって生じるが、神経細胞を超えていることと共通しているとし、情報が心を作り出していると考えるのだ。
一見すると理にかなう。だが、阿部氏は「実はそう考える学者もいるという程度のお話です。情報が脳に心を生み出す具体的なメカニズムが示されていないからです」と述べた。

21世紀以降は、AIに関する研究に加え、MRIといった脳に関する測定技術が著しく進歩した。そのため、AIと脳の動作を比較する研究や、AIで脳の動作をシュミレーションする研究が盛んに行われているという。
だが、「心は観測も数値化もできないので、これらの研究結果を検証することは不可能です。それ故、未知のメカニズム、あるいは未知の実体を解明する有力な手がかりは得られていない」と阿部氏。脳で心が生まれるメカニズムさえ解明できていないのが実情であり、従って、AIに心を持たせるというのは「夢のまた夢」だと結論付けた。
この日のテーマと創造論との関係について参加者から問われた阿部氏は、「脳の働きというのは解明することができない、まさに造化の妙であり、神の御業であることを感じる。それが、最先端の科学の実態から分かる」と語った。
次回は、「脳と眼の進化説の謎と生物のファインチューニング(微調整)」をテーマに語る予定。開催日時は未定だが、決まり次第ホームページで告知される。ホームページではこの他、過去の回も含め、講演内容を分かりやすくまとめた資料も公開されている。