
チベットの高僧となるべく僧院に入った少年テンジン・ラクパ。しかし彼を待っていたのは、偽善と虐待が支配する「闇の牢獄」だった。20年以上もの間、恐怖と儀式に縛られながらも、彼はかつて耳にした「イエス」という禁断の名に、不思議な引力を感じ続けていた。(第1回から読む)
僧院での修行の日々から数年後、テンジンの人生は予期せぬ方向へと転がり落ちていく。彼は重度の結核を患い、治療のために国境を越えてインドへ渡ることを余儀なくされた。異国の地で病に伏せ、死の影が色濃く彼を覆っていたとき、一人の医師が彼の前に現れた。
その医師はチベット語を話すクリスチャンであった。テンジンの目は、医師の首にかかっている小さな十字架に釘付けになった。「それは何ですか?」好奇心に駆られて尋ねると、医師は穏やかな声で答えた。「私はイエス・キリストに従う者です」
その名を聞いた瞬間、テンジンの心臓が早鐘を打った。イエス――それはかつて僧院で「決して口にしてはならない」「仏教を滅ぼす力を持つ」と厳しく禁じられていた、あの忌まわしい名であった。しかし、目の前にいる医師から発せられる雰囲気は、忌まわしいどころか、これまで会ったどの高僧よりも深い慈愛に満ちていた。
医師はテンジンのために祈り始めた。その祈りは、僧院で繰り返してきた呪文のような読経とは全く異なっていた。「彼の祈りには、私の読経には欠けていた『何か』がありました」とテンジンは後に語っている。「彼が祈ったとき、温かい何かが腕から全身へと流れ込み、力が満ちてくるのを感じました。それは、生ける力でした」
その夜、テンジンは不思議な夢を見た。夢の中に、光り輝く白い衣をまとった一人の男が現れたのだ。そのお方は、完璧なチベット語で彼にこう語りかけた。
「私に従いなさい。私が道であり、真理であり、命である」
まばゆい光の中で語られたその言葉は、テンジンの魂の深みに突き刺さった。目が覚めたとき、彼は確信していた。自分がこれまで仕えてきた偶像ではなく、このお方こそが、自分が探し求めていた「生ける神」なのだと。
死の床での癒やしと、夢での啓示。ついに真の光に出会ったテンジンであったが、それは同時に、彼が生まれ育った世界、そして家族や同胞との激しい対立の幕開けでもあった。真理を知った者は、もはや沈黙することはできないからだ。(続く)
■ チベットの宗教人口
チベット仏教 78・0%
ボン教 12・0%
イスラム 0・4%
キリスト教少数、その他
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