2025年10月17日22時23分

【インタビュー】ブトロス・マンスール世界福音同盟次期総主事 「平和をつくる者、それが私の使命」

ボトラス・マンスール
世界福音同盟(WEA)の次期総主事に選出されたボトラス・マンスール氏

アラブ系のキリスト教指導者であるボトラス・マンスール氏が、世界福音同盟(WEA)の次期総主事に選出された。ナザレ生まれの弁護士、教育者で、現地の教会で長年にわたり長老を務めてきたマンスール氏は、クリスチャン・デイリー・インターナショナルとのインタビュー(英語)で、大陸、文化、多様な伝統の違いを越え、この世界的な福音主義運動の架け橋として奉仕する決意を語った。

「私は主を愛し、主の教会を愛しています。私の動機は常に、教会を強め、牧師や信徒たちが主に近づくよう励ますことでした。主が私に与えてくださった賜物を、今こそ世界のキリストの体にささげたいと思います」

1846年に設立されたWEAは、福音派を代表する国・地域のネットワークだ。それに連なる福音主義者は、世界で6億人に上る。10月27~31日に韓国・ソウルで開催される総会で、マンスール氏は、WEAの実務的な総責任者である総主事に正式に就任する。

マンスール氏は、世界的な組織であるWEAの規模を考えたとき、謙虚な思いにならざるを得なかったと語った。

「候補者の数は非常に多く、私は複雑な現実を抱える小さな国から来たのです。ある意味で、自分は部外者のように感じました」

マンスール氏は祈りの末、また自身の資質を確信する友人たちの励ましを受け、次期総主事を選ぶ公募に自ら応募した。それから数週間後、自身が3人の最終候補者の1人に選ばれたことを知った。

「当時、フィリピの信徒への手紙を学んでいました。私はメールを開き、静かに読みました。誰も気付きませんでしたが、それは素晴らしい確証でした。主が扉を開いてくださったことに感謝します」

ナザレに根ざす――家族、信仰、正義への情熱

マンスール氏は、イエスが少年時代を過ごした地として知られるイスラエル北部の都市ナザレで、ギリシャ典礼カトリックの父とギリシャ正教の母の間に生まれた。

父はジャーナリストで、イスラエルの主要ヘブライ語紙(ハアレツ)で働く最初のアラブ系パレスチナ人であり、母は地元で初めて高校(ナザレ・バプテスト学校)を卒業した女性だった。

1967年の六日戦争の後、父のジャーナリストとしての活動のため、一家は東エルサレムへ移り、イスラム教徒の隣人たちに囲まれたアラブ人地区に住んだ。その後、父は英オックスフォードのラスキン・カレッジに奨学金で留学し、一家は2年間英国に住んだ。マンスール氏はそこで小学校に通った。

「私は、オックスフォードで学校に通ったのです。大学ではなく、小学校ですが」

ナザレに戻った後は、ナザレ・バプテスト学校で学び、高校時代にキリストに対する個人的な信仰を持つようになった。きょうだいたちもその後に続いた。

「あの経験が、私の家族を形作りました。信仰は、単に親から受け継ぐものから、個人的なものへと変わりました」

正義への情熱と、執筆と弁論の才能から、ヘブライ大学で法学を志した。道は平坦ではなく、法学部入学前に経済学を学ぶことになったが、それでも弁護士になる決意を持ち、粘り強く進んだ。

学生時代には、国際福音主義学生連盟(IFES)の加盟団体であるイスラエル・キリスト教学生連盟(FCSI)で活動し、最終的にはFCSIの学生評議会の議長を務めた。この時の体験が、弟子訓練と学生伝道への献身を深めたと語った。

弁護士、教育者、長老――ナザレでの奉仕生活

大学卒業後、ナザレで独立して弁護士業を営んだ。大学で出会ったアビールさんと結婚し、ナザレに定住して地元の教会活動に積極的に参加した。

2004年には弁護士業を離れ、請われて母校であるナザレ・バプテスト学校(英語)の運営責任者に就任した。1935年に創立された同校は、幼稚園から高校まで、約千人の子どもたちを受け入れ、優れた学業成績と強いキリスト教的価値観で知られていた。

「その優れた評判の故に、私たちには福音を伝えるための扉が開かれていたのです」

ナザレ・バプテスト学校に通う子どもたちは、約20パーセントがイスラム教徒で、他の大多数がカトリックかギリシャ正教の家庭出身だったが、全員が礼拝と聖書の授業に参加していた。

また、学業だけでなく、人格と信仰の育成においても評価されていた。マンスール氏は、「教育とキリスト教の証しが融合する特別な場所」だと話す。

妻のアビールさんは、教育カウンセラーとしてナザレ・バプテスト学校に勤務していたが、健康上の理由で早期に退職した。夫妻は3人の子どもを育て上げ、全員が同校を卒業している。

長男は医師で、同じく医師の妻と結婚し、現在第一子――マンスール氏にとっては初孫――を妊娠中だ。次男は、ローズ奨学金を得てオックスフォード大学で博士課程を修了し、現在はエルサレムで博士研究員(ポスドク)として働いている。末娘は、イスラエルのハイファ大学大学院でコミュニケーションとメディアについて研究中だ。

「私は家族に恵まれました。妻は家庭の絆であり、私の最大の支えであり、伴侶であり、生涯にわたって愛する人です」

法律と教育の仕事に加え、福音伝道にも深く関わってきた。ナザレに新たなバプテスト教会を設立するのを手伝い、15年にわたって長老を務めた。その大半は牧師不在の状態で、今も説教奉仕や礼拝での英語通訳を続けている。

さらに、ナザレにある野外博物館「ナザレ・ビレッジ」(英語)の副理事長も務めた。この生きた歴史体験施設は、イエスの物語を伝えるため、1世紀のガリラヤを再現している。

「ここは非常に特別な場所です」。訪問者は、実際に稼働可能なオリーブの搾油機やワイン用の圧搾機、当時を再現した住居などを見学できる。

この施設は長年にわたり、「寓話的な散歩道」を歩き、1世紀の日常生活を体験し、その環境でイエスの教えを聞くために訪れる数十万の訪問者を迎えてきた。聖書の物語が生き生きとよみがえる環境に触れ、深い霊的体験を得て帰路に就く者も多い。

こうした取り組みは、イスラエルでは少数派である福音派のキリスト教徒が、忠実な証しを立てることで大きな影響力を発揮できるという、マンスール氏の信念を反映している。

「私たちのコミュニティーの存在感を示すもの」――アラブ系福音派にとっての歴史的瞬間

マンスール氏がWEAの総主事に選出されたというニュースは、ナザレをはじめ広くから温かい祝福を受けた。

「人々は非常に興奮し、誇りに思ってくれています。何百、いや何千ものメッセージが届きました。福音派だけでなく、他の分野の友人や知人からもです。長い間連絡を取っていなかった人々からも、お祝いの言葉がありました」

イスラエルのアラブ系福音派コミュニティーにおいて、今回の選出は象徴的な重みを持つ。何十年もの間、アラブ系福音派は少数派であり、国家からも、より大きなキリスト教の他教派からも、疎外されてきた。そのため、マンスール氏が世界的な指導者に選ばれたことは、歴史的な出来事だと受け止められている。

「これは私だけの話ではないのです。私たちのコミュニティーに存在感を与えること、私たちが世界的な福音派ファミリーの一員であることを示すことなのです」

2つの世界の間で生きる――イスラエル人でありパレスチナ人である特異なアイデンティティー

マンスール氏は、自身のアイデンティティーの複雑さについて率直だ。

「私はイスラエル人であり、同時にパレスチナ人です。イスラエル人とパレスチナ人が争うとき、私はその真ん中にいます」

この現実が、異なる文化や視点を鋭く認識させる。イスラム教徒が多数派のコミュニティーでアラブ系キリスト教徒として生きることで、彼はイスラム教徒たちの懸念に敏感になった。ユダヤ教徒が多数派の国でイスラエル市民として生きることで、世俗的なユダヤ教徒と宗教的なユダヤ教徒双方の視点も理解するようになった。

イスラエルのキリスト教コミュニティー内では、福音派は少数派であり、カトリックやギリシャ正教から疑いの目で見られることが多い。

「それが私に共感力を教えたのです」。マンスール氏は、自身のアイデンティティーが各陣営にとって厄介な存在となり得ることを認めつつも、それが対話促進の特異な立場を自分に与えていると信じている。

「多くの福音派にとって、パレスチナ人のキリスト教徒が国際的に注目を集める役割を担う姿は、目を見開かせるものでしょう。それは、私たちの存在を可視化します。私はそれを喜んでいます。私は、異なる神学の間、そして聖地について全く異なる見解を持つ人々の間の架け橋になりたいと思います」

マンスール氏は、党派的な政治に介入するつもりはないと強調しつつ、自身の存在そのものが理解を広げることを望んでいる。

「一部のキリスト教シオニストにとって、パレスチナ人でありながらキリスト教徒である存在は、彼らは恐らくパレスチナ人がその土地から退去することを願っているのでしょうから、挑戦となります。一方、パレスチナ人にとっても、私がイスラエル人であり福音派であることは、挑戦となります。全ての人にとって全てでありたいとは思いませんが、全ての人にとって無意味な存在にもなりたくはありません」

マンスール氏はそう言い、分断を越えて人々を結び付けるキリストのような精神を体現することが、自身の目標だと付け加えた。そして、イエスの八福の教えと、平和をつくる者となるようにとの呼びかけを引用し、こう続けた。

「私の立場なら、人々が互いに話し合い、相手の必要を理解し、全ての人間が神の似姿として造られた存在だと気付く手助けができるかもしれません。たとえ理解が難しくても、たとえ相手が敵と見なされても、他者の中の神の似姿を損なってはならないのです」

マンスール氏は、聖地の平和と、ガザ地区における戦争の終結を祈り続けていると語った。

本質的な事柄における一致――世界的な福音派ファミリーへのビジョン

マンスール氏は自身の背景が、世界の教会と福音派が生きる極めて複雑な社会における架け橋としての役割を果たす力にもなると信じている。彼は、イスラエルについて次のように語った。

「私たちには非常にリベラルな人々もいれば、非常に保守的な人々もおり、その中間もいます。私はそれら全ての人々の間で生きてきました。恐らくそれが、より理解を深め、敏感になる助けになっているのでしょう」

マンスール氏がWEAに伝えたいメッセージがあるとすれば、それは信仰の本質における一致と、それ以外のあらゆる事柄における寛容な受容だ。

「私たちはキリストの神性、聖書の権威、救いの福音を共に分かち合っています。これらが本質です。他の問題では、互いの多様性を受け入れねばなりません。些細な問題が、信仰そのもののレベルにまで引き上げられることが多過ぎます」

福音から注意をそらす可能性のある論争の例には、イスラエルや女性の役割、カルバン主義に関する神学論争などを挙げた。

「イエスは互いに愛し合い、福音を宣(の)べ伝えるよう私たちを招きました。そこに焦点を当てるべきなのです」

また、福音派は個人の回心だけでなく、共同体の変革も強調しなければならないと語った。

「私たちは人々をイエスに導くよう召されています。しかし同時に、結婚、ビジネス、人々の相互関係などにおいて、イエスが社会を変えられることも示さねばなりません。聖霊を通じて、より良い方向への変革がもたらされるのです」

「世界の教会が、これらの問題でより強い声を上げることを願います。分裂するためではなく、イエスがより良い道をもたらす証しとなるために」

WEAについてのビジョンを問われると、まずは傾聴の姿勢から始めたいと語った。

「あらかじめ用意したビジョンはありません。まず、理事会、地域・国、スタッフの声に耳を傾ける必要があります。そうして初めて、神が私たちに求めていることを共に見極められるでしょう」

そして、世界に広がる福音派の多様性を認め、次のように語った。

「この組織は6億人の福音主義者を代表しています。そこには、6億の意見があるでしょう。しかし、核となるものを中心に据え、二次的な問題では多様性を許容すれば、共に前進できると思います」

10月にソウルで開催される総会については、次のように述べた。

「総会を結束して締めくくり、イエスを世界に伝えるというビジョンに結集してほしいと思います。人々がエゴや些細な神学論争を脇に置き、WEAのビジョンの下に結束すれば、それは主の御心に適い、世界への祝福となるでしょう」

一方で、それが容易ではないことも認めた。

「『団結せよ』と言うのは簡単ですが、私たちを分断する問題を解決するのは難しいと思います。それでも私たちは、聖書の人間です。些細なことは脇に置き、最も重要なこと――イエスの福音――を主たるものとして保つことができれば、祝福されることでしょう」

マンスール氏は、自身のアプローチの核心を次のようにまとめた。

「私は、キリストのように振る舞い、人々を一つにしようと努めます。イエスは平和の君であり、私たちに平和をつくる者となるよう求めました。それが私の使命です」