2025年9月4日15時54分

「信仰の実践としてのスピリチュアルケア」 オリブ山病院で第3回臨床牧会教育

オリブ山病院(沖縄県那覇市)で6月30日から7月11日まで、第3回臨床牧会教育(CPE)が開催された。2019年に始まってから、3年ごとに開催されており、今年のテーマは「信仰の実践としての医療におけるスピリチュアルケア」。国内外から講師を招いて講義が行われ、参加者は2週間にわたる集中講座で学びを深めた。

日本には現在、約200のキリスト教医療機関が存在し、そのうち約60が入院施設を有する。介護・福祉施設を加えると、その数は数百に上り、それぞれの場でスピリチュアルケアの実践が求められている。

米国では、病気や障がいを抱える人々に対するスピリチュアルケアの重要性が広く認識されており、キリスト教主義に限らず、多くの医療機関にチャプレンが配置されている。公立病院も例外ではなく、チャプレンによるスピリチュアルケアが一般的に受け入れられている。こうした背景から、CPEは米国では、チャプレン養成のための専門教育プログラムとして位置付けられており、神学校の授業や卒業後の実務研修として体系的に提供されている。

今年のCPEは、より多様で広範な学びを提供するため、全人医療教育研究所との共催で開催された。病床伝道や医療宣教に関心を持つ医療従事者や神学生、教職者、チャプレン志望者などが受講した。

講師陣には、クリスチャンの医師、看護師、牧師、病院経営者、チャプレンなど、現場の第一線で働く信仰者たちが名を連ねた。海外からは、韓国のプレスビテリアン・メディカル・センター(イエス病院)で緩和ケア部長を務め、一般外科医、牧師、宣教師でもあるイ・デヨン氏が来日し、逐次通訳を通じて講義を行った。

「信仰の実践としてのスピリチュアルケア」 オリブ山病院で第3回臨床牧会教育
「信仰と医療の統合」をテーマに話すイ・デヨン氏(右)

期間中には、オリブ山病院の創立記念講演会が計3回にわたって行われ、各回約130人が参加した。各講義の参加者は20人前後で、記念講演会の参加者と合わせると、延べ約600人が参加した。

今年のCPEは、特に全ての学びの前提となる、聖書に基づくスピリチュアルケアについて、聖書的・神学的・学問的な整合性や現場での実践から検証した。最近のスピリチュアルケアに関する議論は、聖書の教えや現場の宣教の実際を踏まえず、社会科学的な議論に終始してしまっているという危惧がある。その点を、根拠と論理性に基づいて検証し、学問的に誠実な対応を問う機会を持った。

「信仰の実践としてのスピリチュアルケア」 オリブ山病院で第3回臨床牧会教育
「信仰と癒やし 統合失調症からの癒やしと解放」をテーマに話すダビデ前田氏
「信仰の実践としてのスピリチュアルケア」 オリブ山病院で第3回臨床牧会教育
ダビデ前田氏の長女でプロサックス奏者の前田サラさんによるサックスコンサート

事例報告では、オリブ山病院のチャプレンや相談員、看護師が、どのように全人医療とスピリチュアルケアを実践しているかを報告。一人一人の誠実な実践が、神の恵みにより、人の思いと時を超えて実を結んでいることを分かち合った。

海外にいる母と姉と音信不通で、生活保護を受けつつ、姉の友人に世話をしてもらいながら独居生活をしていた40代の女性は、日常生活が困難になる中、病院職員との関わりから自らの死を意識し始めていった。そして、「人は死んだらどうなるの?」といった率直な質問をチャプレンにぶつけ、対話していく中で、罪と死の解決を見いだしてく。やがて賛美や聖書の話がある病棟内の茶会に参加するようになり、洗礼を希望した。

海外にいる母と姉の詳しい所在は長年分からなかったが、相談員が姉の友人に働きかけ、友人を通して海外の家族に状況を伝えると、数日後に母から病院へ国際電話が入り、母と女性が話すことができるようになった。母からの電話で励ましを受けつつも、部屋で一人涙する女性。看護師とチャプレンは、寄り添いながら女性を支えた。母と姉は急きょの帰国を決め、女性との面会を果たし、家族の和解が実現。女性はその数日後、母と姉が見守る中、天に召されていった。

「信仰の実践としてのスピリチュアルケア」 オリブ山病院で第3回臨床牧会教育
墓石販売会社の社長で牧師でもある立場から話をする糸数盛夫氏

オリブ山病院で勤務2年目の看護師は、以前勤務していた病院で経験した葛藤を分かち合った。

看護師が当時担当していた末期がんの70代の男性は、未告知で手術、抗がん剤治療を受けた後、食事も取れず点滴のみで命をつないでいた。男性は「もうこれ以上は頑張れない。点滴もやめてほしい」と言い、長男の嫁も「義父が苦しむような処置は行わないでほしい。もしもの時も心臓マッサージなどは望まない」と話し、そのことは主治医にも直接伝えていた。

しかし、その2日後、当直医により心肺蘇生が行われた。その病院では、入院患者が心肺停止状態に陥った場合、心肺蘇生を実施すべきとされていたからだった。看護師自身は「患者本人の意思が尊重されていない。これが医療?私の考えが変?」と強い葛藤を抱くようになり、その後3年でバーンアウトしてしまったという。

オリブ山病院創設者の故・田頭政佐(せいさ)は、ホスピス創設の思いを次のように語っている。

「ホスピスケアを受けたほとんどの患者が、救われてから地上を去っている。広い意味では、老人病棟もホスピスケアの対象であり、さらに広く考えれば、この世の全てがホスピスケアの対象。神を除外した単なるヒューマニズムの視点ではなく、また、単に主観的・心理的な慰めではなく、客観的・歴史的な事実としての神の愛、神の救いの御言葉に焦点を合わせてホスピスケアを行っていきたい」

末期がんのため、オリブ山病院の緩和ケア病棟に入院していた30代の女性が救われ、親子3代で洗礼を受けた事例も紹介された。

シングルマザーの女性は、母と姉の支援を受けながら、6歳の娘を育てていた。「調子が良ければ家に帰りたい。娘に料理を作ってあげたい」というのが本人の希望だった。また、チャプレンが女性の部屋を訪ねると、入院してすぐに洗礼も希望した。入院6日目に、以前から関わっていた教会の牧師により、女性と娘、母の3人の洗礼式が病棟内で行われた。集まった人たちが祝福する中、3人は一緒に洗礼を受け、信仰を一つにした。症状のコントロールを行い、家族との良い時間を過ごすことができるよう援助し、女性は約1カ月間入院。娘宛に「〇才のあなたに」と、毎年の誕生日に開く手紙を残して天に召されていった。

「信仰の実践としてのスピリチュアルケア」 オリブ山病院で第3回臨床牧会教育
女性の葬儀後に家族が病棟を訪ねきたときの写真。女性の娘は当時6歳だった。

それから17年がたった今年の春、女性の娘と姉がオリブ山病院を訪ね、当時の医師や看護師らスタッフと、感激と感謝の涙にあふれた再会を果たした。23歳になった娘は看護師となり、今は急性期病院に勤務しているが、やがてホスピスで働きたいという希望も話してくれたという。

「信仰の実践としてのスピリチュアルケア」 オリブ山病院で第3回臨床牧会教育
女性の娘と姉が今年の春、17年ぶりに病棟を訪れてくれたときの写真。23歳になった娘は看護師となり、現在は急性期病院に勤務している。

第3回CPEの各講義(全13講義19セッション)は、開催時と同じくオンライン録画で12月末日まで受講できる。セッション当たり1時間~1時間30分で、受講料は各セッション3千円。申し込みは、オリブ山病院伝道連携室(電話:098・886・1150、内線492・493、メール:[email protected])まで。以下、講義一覧(順不同・敬称略)。

  1. 田頭真一(オリブ山病院理事長)「イエス様のスピリチュアルケア、イエス様のいないスピリチュアルケア」①
  2. 具志堅正都(オリブ山病院チャプレン)、宮里勝子(同精神保健福祉士)「癒やしと伝道の実践」①
  3. 濵本京子(淀川キリスト教病院チャプレン)「医療チームの一員としてのチャプレンの働き」①②
  4. 福田峰子(淀川キリスト教病院前副院長・看護部長)「信仰に基づく看護マネジメントと人材育成」①②
  5. 山中正雄(千葉キリスト教会牧師・精神科医)「精神科医療と信仰―癒やしと救いの実践」①②
  6. イ・デヨン(イエス病院緩和医・牧師・宣教師)「信仰と医療の統合」①②
  7. 渡口めぐみ(オリブ山訪問看護ステーション課長)、呉屋光(同看護副部長)「癒やしと伝道の実践」①
  8. 松本ノリス(アドベンチストメディカルセンター院長)「教会と信仰と病院運営」①
  9. 鍋谷まこと(淀川キリスト教病院統括副院長)「医療のこころ」①②
  10. 中田裕文(神戸アドベンチスト病院・アドベンチストメディカルセンター副院長)「信仰と医療マネジメント、教会との協働」①(音声なし、レジュメのみ千円で配布)
  11. ダビデ前田牧師夫妻(TLEA横須賀教会)「信仰と癒やし―統合失調症からの癒やしと解放」①
  12. 北村愼二(淀川キリスト教病院事務局長)「信仰に基づく経営マネジメント」①②
  13. 糸数盛夫(株式会社みくに社長・バルナバハウス牧師)「うちなーんちゅエンディングノート」①