2025年8月27日10時57分

ワールドミッションレポート(8月27日):リビア 砂浜に響く殉教者たちの祈り(2)

執筆者 : 石野博

最初の数週間、21人はまだ希望を抱いていた。ISISは彼らを比較的丁寧に扱い、きれいな食事と水を提供したのだ。戦闘員たちは金銭と引き換えに改宗を勧め、「アッラーの慈悲に立ち返れ」と語りかけた。「家族のことを考えろ。妻や子どもたちがお前たちの帰りを待っているだろ」と情に訴えることもあった。(第1回から読む)

しかし、21人は一様にこれを拒否した。彼らの心には、幼い頃から教会で学んだ賛美歌と祈りの言葉が響いていたのだ。

やがてISISの態度は変わった。説得が失敗に終わると、「頑固な異教徒ども」への拷問が始まったのである。21人は海辺に連行され、重い濡れた砂袋を運ばされた。長時間の厳しい強制労働を強いられ、倒れると容赦ない殴打が加えられた。夜になっても地面は常に水で濡らされ、睡眠を取ることも許されなかった。

21人の霊的リーダーの役割を担ったルーカス・ナガティは、仲間たちを励まして「われわれは主に選ばれたんだ。この試練には意味がある」と語りかけた。若いキリーロスは「母が教えてくれた祈りを忘れない」と語った。

「改宗すれば楽になる」「家族に会えるぞ」。拷問の合間にも、ISISは改宗を迫り続けた。しかし、拷問が激しくなるほど、21人の結束は強くなり、信仰は深まっていった。極限の状況の中でひたすら神を求めたのだ。

古代から受け継がれるコプト教会の祈り「キリエ・エレイソン(主よ、憐[あわ]れみたまえ)」を、アラビア語で「ヤ・ラッブ・イルハムニー」と唱え続けた。彼らのうめき声とともに、古代教会の祈りの言葉が地下牢の暗闇の中にずっと響いていたのである。

ISISの戦闘員たちはいら立ちを募らせる一方で、説明のつかない恐怖も感じ始めていた。拷問を受けていた21人のキリスト教徒たちに、不思議な出来事が起こり始めたのだ。

ある夜、21人は一斉に祈りをささげた。「キリエ・エレイソン(主よ、憐れみたまえ)」の厳かな古代賛美が、牢獄の壁に響き渡った。その瞬間、異変が起こった。大地が地震のように激しく揺れ始めたのである。

ISISの看守たちは恐怖で震え上がった。この地域は、ほとんど地震が起きない地域だったのだ。しかも、キリスト教徒たちが一斉に祈った瞬間に地面が揺れ始めたのを目の前で見せられては、否が応でも神的な何かを感じないわけにはいかなかった。

囚人たちは平然としていたが、看守たちは「アッラーの怒りか、それとも・・・」とつぶやき、血の気を失ったお互いの顔を見合わせたのである。(続く)

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■ リビアの宗教人口
イスラム 97・0%
プロテスタント 0・2%
カトリック 1・2%
正教 1・2%

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石野博

石野博

(いしの・ひろし)

2001年より、浜松の日系ブラジル人教会で日本人開拓、巡回伝道者として従事。12年より、奥山実牧師のもと宣教師訓練センター(MTC)に従事、23年10月より、浜松グッドニュースカフェMJH牧会者として従事。18年3月より、奥山実牧師監修のもと「世界宣教祈祷課題」の執筆者として奉仕。23年10月より「世界宣教祈祷課題」を「ワールドミッションレポート」として引き継ぎ、執筆を継続している。