今からもう10年前になる2015年2月15日、地中海に面したリビアの砂浜に、オレンジ色の囚人服を着せられた21人の男性が膝をついていた。彼らの唇から漏れる最期の言葉は「主イエス・キリスト」の御名だった。ISIS(イスラム国)によって公開されたこの5分間の処刑動画は、世界に衝撃を与えた。しかし、この映像が伝えきれなかった物語がある――それは、死の恐怖を前にしても、なお神への信仰を貫き通した21人の信仰者たちの証しである。
2014年、内戦で混乱するリビアは、中東からの出稼ぎ労働者にとって危険な場所となっていた。それでも、故郷エジプトの家族を貧困から救うため、多くのコプト系キリスト教徒がシルトやベンガジなどの都市で建設労働に従事していた。彼らは日当10〜15ドル程度の賃金で、家族への仕送りを続けていたのである。
その年の12月、悪夢が始まった。ISISの戦闘員たちは、エジプトへ帰省する途中のコプト系エジプト人7人を拘束した。27歳の石工であったミルダド・マクラム・シヌート、23歳の労働者サミュエル・アルハム・ウィルソン、そして最年少で、わずか18歳のキリーロス・ボスエス・サベル、彼らはいずれも敬虔なキリスト教徒だった。
1週間後、ISISはさらなる襲撃を行った。コプト系キリスト教徒が多く住む集合住宅を急襲し、13人を新たに拘束した。この暴虐によって合計20人のエジプト人コプト教徒が、地下の牢に押し込められることになった。
そこに、運命的な21人目の男が加わる。ガーナ出身のマシュー・アヤリガ、28歳だ。彼は別の襲撃で拘束されていたが、そのまま釈放される予定だった。しかし、ISISが彼を解放しようとしたとき、マシューは驚くべき言葉を口にした。「私も彼らと同じ信仰です。彼らの神は私の神です」
もしマシューが、自分の信仰を告白しなければ、彼はそのまま解放されていたことだろう。しかし、彼は信仰の家族たちに背を向けることができなかったのだ。天の国籍を有する兄弟たちと運命を共にすることを選んだのである。こうして、リビアの地下牢には21人のキリスト教徒が集められることとなった。(続く)
■ リビアの宗教人口
イスラム 97・0%
プロテスタント 0・2%
カトリック 1・2%
正教 1・2%
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