
米政府の資金削減や韓国政府の方針により、北朝鮮向けのラジオ放送が、この3カ月間に80%近く減少した。キリスト教迫害監視団体は、これらの放送が同国の人々にとって外国のニュースを知る貴重な情報源であったとし、また、同国のキリスト教徒にとっても打撃になるとして懸念を示している。
米シンクタンクが運営する北朝鮮分析サイト「38ノース」(英語)によると、同国向けのラジオ放送は、5月以降の3カ月間で80%近く減少した。同国向けに放送を行っていた全てのラジオ局の放送時間を合計すると、以前は1日当たり415時間だったが、89時間に激減したという。
38ノースは、放送を停止した放送局として、米政府系の「ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」、韓国国家情報院(NIS)が運営していたとみられる「人民の声」「希望のこだま」「Kニュース」「自由コリア放送」を挙げている。
米国の2局が放送を停止したのは、ドナルド・トランプ政権が米国グローバルメディア局(USAGM)の資金を大幅に削減したことによる。韓国の4局は、6月の大統領選で誕生した李在明(イ・ジェミョン)政権の方針によるとみられている。
これらの放送は、長年南北関係における懸案事項となっており、北朝鮮は反体制的な宣伝だとして反発していた。
韓国政府は、ラジオ放送だけでなく、拡声器による放送も停止するなどして、より融和的な対北政策を進めている。また、国境を越えてビラ入りの風船を飛ばす活動家の取り締まりも強化している。6月には、米や1ドル紙幣、聖書などを入れたボトルを海に流して北朝鮮に届けようとしたとして、米国人6人が逮捕される事件も発生している。
キリスト教迫害監視団体「オープンドアーズ」は、放送の停止によって、キリスト教メディアが、この「孤立した国」に情報を届けることが困難になると懸念を示している。オープン・ドアーズ英国支部の北朝鮮担当スポークスパーソンであるティモシー・チョー氏は、次のように述べている。
「これらの放送を聞いていた正確な人数は不明ですが、数十万人、あるいは数百万人に上る可能性があります。北朝鮮の元エリートの脱北者と話すと、これらの情報源から得たニュースがどれほど重要だったかが分かります。彼らは、外の世界で何が起こっているかをこれらの放送から学んでいたのです」
「放送の停止は、とりわけ北朝鮮のキリスト教徒の兄弟姉妹にとって大きな打撃となります。これらの放送は、人々が信仰に導かれるためのリソースであり、最新の外部ニュースを得るための頼りでした。(放送は同国の)人々に、自分たちは忘れられていないと実感できるような希望を、数多く与えてきたのです」
北朝鮮はキリスト教徒に対する迫害が世界で最も厳しい国とされているが、現在も約4万人の信者が存在すると推定されている。