2025年6月30日08時32分

ワールドミッションレポート(6月30日):インドネシア 静かに進む魂の変革

執筆者 : 石野博

インドネシア東部、モルッカ諸島のアンボン島では、教会の中で静かな変化が進行している。島では、長らくインドネシア語で聖書が読まれてきたが、それは、理解はできても、人々の心に深く届くものではなかった。しかし近年、ウィクリフ聖書翻訳協会の主導で、島の人々の「心の言語」であるアンボン・マレー語に新約聖書が翻訳され、状況が大きく変わりつつある。

アンボン地域の文化は、個人よりも共同体を重んじる「集団主義的」な傾向が強い。そのため、信仰も個人のものというより、家族や地域全体で共有するものなのである。そのため、翻訳作業もまた共同体全体の取り組みとして進められた。

地元の村人たちが参加し、一つ一つの聖句が自然な言葉遣いで伝わるかどうかを確認していったのだ。ある男性は、アンボン・マレー語でイエスの死について初めて聞いたとき、涙を流したという。「イエスのことは昔から知っていましたが、なぜ彼が死なれたのか、ようやく分かりました。それは私のためだったのです」と彼は語った。

この翻訳プロジェクトは13年以上にわたって進められ、現地の信者たちがあらゆる段階で関わってきた。転機となったのは、地元の牧師たちがアンボン語による礼拝を求め始めたことであった。母語による説教は、会衆にとって信仰をより身近なものとし、聖書の真理を自分たち自身のものとして受け取る助けとなったのである。ある牧師は「アンボン・マレー語で説教してほしいと、人々から強く求められました」と語っている。

翻訳チームの一員であるアンピ氏は言う。「これはもはやウィクリフの翻訳ではありません。私たちの民族のものなのです。そして次の世代のものでもあるのです」。このように、母語で神の言葉に触れる経験は、人々の心を深く動かし、信仰の在り方そのものを静かに、しかし確かに変えているのである。

人々の心により深く届く母語への聖書翻訳が、日夜進められている。翻訳のために、また翻訳された聖書が用いられ、多くの人々の救霊と信仰成長のために用いられるよう祈っていただきたい。

■ インドネシアの宗教人口
イスラム教 80・3%
プロテスタント 10・8%
カトリック 3・1%
儒教 0・9%
仏教 0・4%
ヒンドゥー教 1・3%

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石野博

石野博

(いしの・ひろし)

2001年より、浜松の日系ブラジル人教会で日本人開拓、巡回伝道者として従事。12年より、奥山実牧師のもと宣教師訓練センター(MTC)に従事、23年10月より、浜松グッドニュースカフェMJH牧会者として従事。18年3月より、奥山実牧師監修のもと「世界宣教祈祷課題」の執筆者として奉仕。23年10月より「世界宣教祈祷課題」を「ワールドミッションレポート」として引き継ぎ、執筆を継続している。