2025年6月9日17時13分

ワールドミッションレポート(6月9日):カンボジア ポル・ポトの迫害を乗り越えた西チャム族のために祈ろう

執筆者 : 石野博

西チャム族は、17世紀から仏教徒多数派のカンボジアに居住するイスラム教徒の少数民族であり、独自のチャム語と文化を維持してきた。伝統的に漁業や農業に従事してきたが、1970年代のポル・ポト政権下では極度の迫害にさらされ、人口の3分の1以上が虐殺されたとされる。

言語の使用は禁止され、豚肉を無理やり食べさせられ、村ごと壊滅させられるなど、文化と信仰の抹殺が試みられた歴史を持つ。現在では、カンボジア国内に約60万人のチャム人が暮らしていると推定される。

その中には、スンニ派を中心としつつも、金曜礼拝のみを行う「カン・イマーム・サン派」と呼ばれる独自の宗派も存在しており、彼らは伝統的なチャム文字を使い、独自の宗教儀礼を守っている。こうした中で、キリスト教信仰に触れるチャム人も少しずつ現れている。

メイさんは、そのチャム人の一人である。80代の彼女は、子や孫、ひ孫たちと共に、カンボジアの小さな村で暮らしている。ある日、チャム語で録音された新約聖書を収めた小型オーディオプレーヤーが贈られたことをきっかけに、福音に対する関心が芽生えたのだ。その後、定期的に村を訪れる2人のクリスチャンと共に、聖書物語を音声で聞きながら学ぶようになった。

ある夜、彼女は夢の中で、イエスが人々を裁いておられる光景をはっきりと見た。その体験を通して彼女は、イエスこそが「道であり、真理であり、命である」という確信に導かれたのである。

今日、メイさんは家族や友人に出会うたび、喜んで自らの信仰を語っている。2人の娘と2人のひ孫娘が、彼女や訪問者たちと共に祈り、食事をし、聖書の物語を学ぶようになり、その集まりは誰でも自由に参加できる開かれたものとなっている。時にはその夫たちも輪に加わる。最近では約10人が洗礼を受け、小さなチャム人の信仰共同体が着実に育っている。

チャム語や文化の継承が難しくなっている中で、このような家庭単位での信仰の広がりは、単なる宗教の話にとどまらず、彼らの言語と文化の再発見、共同体の再構築にもつながっている。かつて民族の存続すら危ぶまれたチャム人の中に、今こうして静かに芽生えつつある新たな希望の形は、注目に値することだろう。彼らチャム族が、キリストの福音にあって、なお豊かに救いの恵みにあずかるよう祈っていただきたい。

■ カンボジアの宗教人口
プロテスタント 1・7%
カトリック 0・2%
仏教 83・3%
イスラム 2・3%

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石野博

石野博

(いしの・ひろし)

2001年より、浜松の日系ブラジル人教会で日本人開拓、巡回伝道者として従事。12年より、奥山実牧師のもと宣教師訓練センター(MTC)に従事、23年10月より、浜松グッドニュースカフェMJH牧会者として従事。18年3月より、奥山実牧師監修のもと「世界宣教祈祷課題」の執筆者として奉仕。23年10月より「世界宣教祈祷課題」を「ワールドミッションレポート」として引き継ぎ、執筆を継続している。