ウクライナで戦争が続く中、国内では、人々の間に精神的な苦しみが広がっている。(※登場人物は仮名となる)
「今、ウクライナでは非常に多くの人々が心の傷に苦しんでいます」と、現地ミニストリーで奉仕するリーダーの一人、ディアナは語る。「戦争が始まってから、多くの人々が、経験したことや目撃したこと、すなわち死、暴力、残虐行為、暴行などに、自分自身の力では対処できずにいます。でも、神が信仰者たちを用いてそうした問題を見つけ、必要な人々に必要な助けを届けておられることに感謝しています」
ディアナは、ウクライナのさまざまな教会と協力し、牧会的ケアのセミナーを提供している。そのセミナーでは、トラウマや依存症に苦しむ人々への支援の重要性が強調されているのだ。
神の御言葉を学ぶことを通して、日曜学校の教師、女性や子どものミニストリーの働き手、そして子ども向け奉仕に携わる教会員たちが、心の傷を癒やし、赦(ゆる)しを与え、人々が自分の人生の目的を見いだせるよう導く。奉仕者はこのセミナーを通して、これらのことに携わる神の器としての役割を学ぶのである。
「セミナーの中で、神が特に深い助けを必要としている人を示されることがよくあります。奉仕者たちは、誰かが助けを必要としていることを見極めるための導きを受け取ります。多くの兄弟姉妹たちが、神が人々の人生を変えるために用いられる器となってきました」
あるセミナーを通して、ディアナはリリヤという少女と出会った。「セミナーの中で、ある女性が孫娘のリリヤを自宅に迎え入れていると話してくれました。彼女はリリヤの様子がおかしいことに気付いていました。リリヤは心を閉ざし、人生のむなしさを口にし、苦しみから逃れるために死ぬことさえ話していました。私はリリヤと話をするため、彼女との面会の機会を設けました」
ディアナはその面会で、リリヤとの信頼関係を築いた。安心と信頼を得たリリヤは、涙ながらに自分の過去を語り始めた。彼女は、別の都市の大学で学生生活を送っていたとき、集団レイプの被害に遭っていたのだ。友人だと思っていた人たちが、リリアに「大人であることを証明してみせろ」と挑発した。そして睡眠薬入りのアルコールを飲ませたのだ。薬の影響で抵抗できなくなったリリヤは、複数の若者に暴行されたのである。
その後、大学内でその出来事が知られるようになると、周囲の人々は彼女をあざ笑い、侮辱し、卑猥なメモを残すなどして彼女をいじめるようになった。リリヤは自分が使い捨てにされたように感じ、自分には価値がなく、将来は売春や薬物に溺れるしかないと信じ込むようになっていた。彼女の人生は悪夢となり、大学の屋上から飛び降りることすら考えた。そして大学を中退し、誰にも告げずに自ら命を絶とうとしていたのだ。
しかしディアナが、全てを赦してくださるイエス・キリストの愛について語ったとき、リリヤは自分の人生が変えられる可能性に目を向け始めた。彼女は、イエスが助け、支え、導き、心の傷を癒やし、罪を赦し、それらを二度と思い出さないお方であることを知った。
「私にとってのイエスとの関係は、自分の全てを打ち明け、イエスを主として受け入れ、神の御言葉を通して慰めを受けることです」とリリヤは語る。「私は生きるすべを学び、全ての疑問への答えを見つけつつあります。イエスは私に、ここでの新しい生活と新たなスタートを与えてくださったのです」
現在リリヤは別の都市で暮らし、別の大学で学業を続けている。彼女は聖書を学び、若いクリスチャンたちの交わりにも加わっている。
ディアナはこう言う。「時々リリヤは、私に電話をかけてきて、近況を話したり、人生のさまざまな悩みについて相談してきたりします。彼女と両親の関係も良くなって、今では良好な家族関係を築いています。神が彼女の人生に共にいてくださっていることに、私は心から感謝しています」
多くの人々が、決して消えない過去の傷やトラウマを抱えている。ある場合には、それによって人生全体が破壊されてしまうこともまれではない。しかし、リリアがそうであったように、その傷をキリストのもとに持っていき、大いなる癒やしと希望を見いだす者もあるのである。
そのためには、人々の必要のサインをキャッチできるキリストの奉仕者たちが、いろいろな所に置かれている必要がある。戦争という非日常が日常化している地域では、特にそうなのだろう。
ウクライナの救いとともに、ディアナのような奉仕に携わる者が多く起こされるように祈っていただきたい。
■ ウクライナの宗教人口
正教 61・2%
プロテスタント 5・8%
カトリック 10・1%
無神論 19・5%
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