2025年1月20日14時32分

第27回アジアキリスト教病院協会総会詳報(3)全人医療研究教育所が初の公式セミナー

執筆者 : 田頭真一

アジアキリスト教病院協会(ACHA)の第27回総会が、昨年11月7日~9日の3日間にわたり、沖縄のホテルコレクティブ(那覇市)を主会場にして開催された。テーマは「世界的危機におけるキリスト教病院の役割―経済危機、自然災害、世俗主義」。総会の大会長を務めたオリブ山病院(那覇市)理事長で牧師の田頭真一氏によるレポート(全3回)の第3回。

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閉会礼拝は、新楼病院(台湾)のチャプレンらが担当した。「われらは神に信頼する」をテーマに、危機における信仰の重要性を伝え、出エジプト記14章に記された葦(あし)の海を渡るイスラエルの民の物語を通して、3つの教訓を提示した。

1つ目は、危機は信仰の試練であること。イスラエルの民は度重なる災難に直面したが、その都度、神が介入し救い出された。しかし、彼らは危機のたびに恐れ、神への信頼を失いがちであった。現代の私たちも、危機において信仰が試されることを学ぶことができる。

2つ目は、危機の解決は神の力と愛を示すものであること。モーセの杖により葦の海が裂けた奇跡は、神の力と約束の成就を表す。また、神の愛が常に人々と共にあり、いかなる力もそれを引き離すことができないことの表れでもある。さらに、エジプト人が神に逆らった結果、神の裁きが下る場面も教訓となる。

3つ目は、危機の終わりは信仰の勝利であること。葦の海を渡った後、イスラエルの民は神に賛美と感謝をささげ、神の偉大さを体験した。危機を乗り越えることは、信仰が勝利したことの証しである。このメッセージは、私たちが神に信頼し従うことで、危機が信仰の成長と神の愛を再確認する機会になることを示している。新楼病院も、この信念に基づいて160年の歴史を乗り越えてきたことを強調した。

第27回アジアキリスト教病院協会総会詳報(3)全人医療研究教育所が初の公式セミナー
今総会の開催地である日本から次回総会の開催地である台湾に引き継ぐハンドオーバーセレモニーの様子

閉会礼拝後には、次回総会の開催地である台湾に引き継ぐハンドオーバーセレモニーが行われた。次回の第28回総会は、2026年11月26日から28日まで、台南市の新楼病院で開催される予定である。

3日目は、会場をオリブ山病院に移して開催された。筆者が所長を務める全人医療研究教育所による最初の公式セミナーとして、プレスビテリアン・メディカル・センター(イエス病院、韓国)の医師であるイ・デヨン氏が講演した。

第27回アジアキリスト教病院協会総会詳報(3)全人医療研究教育所が初の公式セミナー
全人医療研究教育所のセミナーで講演するプレスビテリアン・メディカル・センター(イエス病院、韓国)の医師で牧師のイ・デヨン氏

イ氏は医師であると同時に、米コロンビア国際大学で異文化研究の博士号を取得した牧師でもある。イエメンやレバノンといった中東地域で17年間にわたり宣教師として活動し、現在はイエス病院の一般外科医および緩和ケア部長を務め、前回2022年に韓国で開かれた第26回総会では大会長を務めた。

セミナーは総会のテーマと深く関わる内容で、「全人医療における信仰と医学の統合」をテーマに語った。世俗的な全人医療の考えでは、体と心、魂と感情のバランスの取れた状態が最善の健康状態となる。しかし、キリスト教的な全人医療においては、奇跡という神の介入にまず焦点を合わせる。そして、その奇跡は神の国の表れであり、体の本来の在り方への回復という意味がある。体の癒やしと罪の赦(ゆる)しはともに行われ、イエス・キリストの地上の働きを通して神の支配の介入として宣言される。

「シャローム(平和)」という聖書の言葉は大切な概念である。イエス・キリストは、癒やし主なる神との平和をもたらし、癒やしと罪からの救いを同時にもたらす働きをされた。その癒やしとは、民間信仰のような信心深さによる癒やしではなく、祈りを通しての神の支配の介入による癒やしである。

第27回アジアキリスト教病院協会総会詳報(3)全人医療研究教育所が初の公式セミナー
今総会の参加者らによる集合写真

今総会はこれまでの総会と同じく、全てのプログラムが英語で行われる国際会議として開催されたが、日本語の同時通訳も提供され、日本からの参加者も言語の壁を越えて理解を深めることができた。

それぞれの参加国・地域が抱える医療宣教における危機的状況、それを乗り越えるための聖書的視点、さらには現代の世界情勢におけるキリスト教病院の役割について真摯(しんし)に討議された。参加者の国際的な広がりと世界的なテーマにより、アジアのみならず世界におけるキリスト教病院の働きに対して多くの示唆を与える機会となった。

国や文化は異なっても、キリスト者として病める人々に仕えることを使命と信じ、喜びをもって医療を行う姿勢は、参加者全員に共通していた。総会を通して、参加国・地域のキリスト教病院同士が互いに励まし合い、今後の協力の糸口を見いだす貴重な場となった。

世界的な困難が一層深まる中、病める人々への全人的な癒やしを目指して一致して進むことを確認し合い、それぞれが励まされて帰路に着いた。大会長の任を受けた筆者自身も大きな恵みと励ましを受けた。(終わり)

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田頭真一

田頭真一

(たがみ・しんいち)

1958年沖縄生まれ。関西学院大学神学部、聖書宣教会聖書神学舎卒業。米フラー神学校、日本国立保健医療科学院、米バイオラ大学タルボット神学部、米神学大学院基金を通して英オックスフォード大学で学ぶ。大阪、沖縄、米国で牧師を務め、インドネシア、米国の神学校で教える。社会医療法人葦の会理事長、読谷バプテスト伝道所牧師、日本キリスト教病院協会副会長、沖縄聖書神学校教授、米神学大学院基金客員教授。教育学博士、心理学博士、名誉神学博士。著書に『天国で神様に会う前に済ませておくとよい8つのこと』『老金期』『死という人生の贈り物』など多数。