死刑が確定した後も長年にわたって無実を訴え続けてきたカトリック信徒の袴田巌(はかまだ・いわお)さん(88)の再審で、静岡地裁が26日に無罪を言い渡したことを受け、日本カトリック司教協議会会長の菊地功大司教は同日、判決を歓迎するとともに、死刑制度の再考を呼びかける談話を発表した。
袴田巌さん、再審で無罪判決 「5点の衣類」など3つの証拠を捜査機関の捏造と認定>>
談話では、袴田さんが冤罪(えんざい)による死刑という「著しい不正義」に直面してきたとし、再審で無罪判決が出たことを「心から歓迎し、神に感謝したい」と表明。長年にわたって袴田さんを支えてきた家族や支援者には、心から敬意を表するとした。
その上で、死刑制度の是非について、人間の尊厳を守る立場から改めて声を上げたいとして、カトリック教会の考えを示した。
カトリック教会では、神の似姿として創造された人間の命は一つの例外もなく尊重されなければならず、たとえどんな重罪を犯しても、イエス・キリストの福音によって、その人格の尊厳は失われないと信じていると説明。現在では、死刑は許容することのできない「人格の不可侵性と尊厳への攻撃」であるとし、全世界で死刑廃止に取り組んでいると述べた。
また、冤罪であっても、死刑によって一度命が奪われれば、その命を取り戻すことは不可能だと指摘。「袴田さんの再審無罪という判決を機に、今一度、日本の社会に死刑制度の是非を考えることを呼びかけたい」とした。
袴田さんは、1966年に静岡県で発生した一家4人が殺害された事件で容疑者として逮捕され、無罪を主張したものの、80年に最高裁で死刑が確定。翌81年から、裁判のやり直しである再審を請求し続けてきた。2014年、静岡地裁が再審開始と死刑の執行停止を決定。逮捕から48年ぶりに釈放された。しかし、検察が即時拮抗。一時、再審開始が取り消されるなどしたが、昨年3月になって再審開始が認められていた。
獄中で教誨師の故・志村辰弥神父から洗礼を受け、カトリック信徒に。獄中で書きつづった潔白の訴えと再審を願う祈り、家族への思いなどが支援団体によってまとめられ、『主よ、いつまでですか』として出版されている。