2024年8月8日08時48分

ワールドミッションレポート(8月8日):シリア イスラム教徒のタクシードライバー、キリスト教徒を乗せて人生の新たな道を案内される(4)

執筆者 : 石野博

2週間後、タレックは家族の待つ新しい家へと旅立った。タレックとケビンの2人にとって別れはつらく、別れの時には涙がとめどもなく流れた。「僕はいつまでもイエスに従うよ」とタレックは彼らに告げ、「ケビン、僕は君を本当に愛している! あの日、君たちをタクシーに乗せたのは神の計らいだったんだ。そして今、僕はイエスを愛している! イエス様を愛しているんだ!」と言って別れを告げた。(第1回から読む)

内戦で全てを失い、無法地帯と化したシリアから命からがら逃れて、家族と離れ離れになり、高度な技術職から落ちぶれてタクシードライバーとして働かざるを得なくなったタレックだったが、「恵みの主」は多くの場合、そのような人生の谷間におられる。そしてそれは、タレック自身が言ったように「神の計らいだった」ということなのだ。

転落人生の狭間で、多くを失い転がり落ちたタレックは、そのような境遇を通してキリストに見つけられ、キリストを見いだしたのだ。使徒パウロが語ったあの言葉、「それどころか、私の主であるキリスト・イエスを知っていることのすばらしさのゆえに、いっさいのことを損と思っています。私はキリストのためにすべてのものを捨てて、それらをちりあくたと思っています」(ピリピ3:8)は、まさに自分自身の言葉のようにタレックの心に響いたことだろう。

2011年3月のアラブの春に端を発する民衆運動と、それを強硬に押さえ込もうとするアサド政権との摩擦から生じたシリア内戦以降、千数百万人のシリア人が国内外に難民として逃れた。内戦以前のシリア人の多くは、聖書には見向きもしなかったが、実はタレックのように、この内戦によって逃れた人たちが続々と聖書を手に取り、主イエスを信じているのだ。悲劇の背後に、喜びと希望の種を蒔(ま)いてくださる主をあがめよう。

国内は惨憺(さんたん)たる状況のシリアだが、悪い政権が退けられ、国に平和が戻るように祈ろう。また国が真に平和のうちに立つために、心のうちに福音の種が蒔かれたタレックのような、キリストにあるシリア人たちが用いられ、国が神の言葉によって再興されるよう祈ろうではないか。

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■ シリアの宗教人口 ※内戦前統計
イスラム 90%
プロテスタント 0・2%
カトリック 3・1%
正教系 3・0%

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石野博

石野博

(いしの・ひろし)

2001年より、浜松の日系ブラジル人教会で日本人開拓、巡回伝道者として従事。12年より、奥山実牧師のもと宣教師訓練センター(MTC)に従事、23年10月より、浜松グッドニュースカフェMJH牧会者として従事。18年3月より、奥山実牧師監修のもと「世界宣教祈祷課題」の執筆者として奉仕。23年10月より「世界宣教祈祷課題」を「ワールドミッションレポート」として引き継ぎ、執筆を継続している。