2024年6月17日18時20分

「イスラム国」のモスル占領から10年、今も支援必要とする現地のキリスト教徒

イラク/モスル/Iraq/Mosul
過激派組織「イスラム国」(IS)占領時の傷跡が至る所に残るイラク北部の都市モスルの様子=2021年5月4日

イラク北部の都市モスルは、2014年6月に過激派組織「イスラム国」(IS)に占領されてから10年を迎えた。ISはその後、17年7月までの3年余りにわたって、このイラク第2の都市を支配し、住民らを恐怖に陥れた。キリスト教徒が多く住むニネベ平原など、周辺地域も掌握され、多くの人が犠牲となるとともに、避難を強いられた。

モスルの南東約80キロに位置するクルド人自治区の主都アルビルのバシャール・ワルダ大司教(カルデア典礼カトリック教会)によると、ISの残虐行為に直面し、同自治区に逃れてきたキリスト教徒は1万3千世帯を超える。モスルの大部分はこの3年余りの間に、ISと奪還を目指すイラク軍との激しい戦闘によって廃墟と化した。しかし、ISによる占領から10年がたった今、国際的な支援によって住宅の再建が可能になったことにより、避難していたキリスト教徒のうち約9千世帯がニネベ平原に戻ることができたという。

ワルダ大司教はカトリック慈善団体「エイド・トゥー・ザ・チャーチ・イン・ニード」(ACN、英語)に対し、ニネベ平原では、教会が再び信者で満たされつつあり、多くの子どもたちが初聖体にあずかる準備をしていると語った。

「悲しく恐ろしい記憶は全ての信者に今でもありますが、少なくとも(キリスト教徒の家庭は)住宅を建て始めており、未来に向けた希望を持ち始めています」

こうした進展がある一方で、経済的な困難のため、イラクを去ったり、去ることを考えたりしているキリスト教徒も多くいるという。特に若者は「寄付ではなく、仕事を求めています」とワルダ大司教は話す。

また、現地のキリスト教徒にとって、ISによる迫害は今、主要な心配事ではないものの、「少数派であることのプレッシャーは現実のもの」だという。

「信者たちが忍耐して辛抱強くあることを願っています」。ワルダ大司教はそう述べつつ、長年にわたってキリスト教の伝統が受け継がれてきたこの歴史的な地で、「信仰の炎をともし続ける」ため、現地のキリスト教徒はあらゆる支援を必要としていると強調する。その上で、国際社会がイラクのキリスト教徒を忘れることなく、世界の指導者たちがイラクの政治家たちに働きかけることを求めた。

ニネベ平原のキリスト教コミュニティーに再建の兆しが見える一方、米迫害監視団体「国際キリスト教コンサーン」(ICC、英語)によると、モスルはより厳しい状況にある。かつては何十万人ものキリスト教徒が住んでいたが、現在は50世帯程度しか住んでいないという。

それでもICCの職員は、モスルの再建にはキリスト教徒の存在が必要だと話す。

「モスルは、この街の再建を助け、ニネベ地域周辺の平和を求めるキリスト教徒を非常に必要としています」

また、現在のモスルはキリスト教徒にとって、かつてないほどの自由で安全な環境にあるとし、次のように話した。

「モスルは新たな出発の準備が整っています。キリスト教徒は、この20年余りの間には考えられなかった、大きな自由と安心感をもって出発できる機会を得ています」