国際的なキリスト教迫害監視団体「オープンドアーズ」は17日、世界各国におけるキリスト教徒に対する迫害状況をまとめた報告書「ワールド・ウォッチ・リスト」(WWL)の最新版を発表した。それによると、キリスト教徒や教会に対する暴力は世界各地で増加しており、信仰を理由に殺害されたキリスト教徒はこの1年間で5千人近くに上った。
発表されたのはWWLの2024年版(英語)で、2022年10月から23年9月までの1年間を対象に統計をまとめている。それによると、この1年間に信仰を理由に殺害されたキリスト教徒は4998人に上り、平均すると1日に13人が殺害されていることになる。
また、教会やキリスト教施設に対する攻撃は、少なくとも1万4766件が発生。これは前年の7倍で、「教会やキリスト教施設に対する攻撃は23年に急増し、記録されている以上に多くのキリスト教徒が暴力的な攻撃に直面した」としている。
高いレベルの迫害に直面しているキリスト教徒の数は3億6500万人を超え、これは世界のキリスト教徒の7人に1人の割合になる。
米キリスト教メディア「クリスチャンポスト」(英語)の取材に応えたオープンドアーズ米国支部のライアン・ブラウン最高責任者(CEO)は、キリスト教徒に対する暴力が増加している理由の一つとして、加害者が犯行後の処罰を恐れずに行動できる状況があるのではないかと推測した。そのため、国によって事情の違いはあるものの、既存の法律などを通じ、キリスト教徒を保護するよう各国政府に呼びかけた。
その上で、イエス・キリストが、キリスト教徒は信仰のために憎悪や虐待に直面すると繰り返し警告していたことを挙げ、次のように話した。
「皮肉なことですが、キリストの御手による働きが実際に至る所で見られます。敵が悪を意図することは、実際には逆効果なのです。多くの場合、そのような文脈の中で教会は勇気付けられ、強められるのです」
「私たちは、世界中の兄弟姉妹が、高まる暴力に直面し、その犠牲を数えつつ、神の国がそこにあると認識しているのを目にしています。彼らがキリストを追い求めてキリストと関係を築くことは、彼らが耐えている暴力や彼らが苦しんでいる迫害よりも価値があるのです」
迫害国のランキングでは、キリスト教徒が信仰を実践する上で最も困難な国として、北朝鮮が前年に続きワースト1位になった。北朝鮮は、22年は2位だったものの、それ以外は過去20年以上にわたって、世界最悪の迫害国とされている。
北朝鮮では、キリスト教徒は「政治犯として労働収容所に強制送還されるか、その場で殺される」とし、北朝鮮でキリスト教信仰を持つことは、同時に「事実上の死刑宣告」を受けるに等しい状況だという。WWLの北朝鮮に関するファクトシート(英語)には、次のように書かれている。
「礼拝のために会うことはほとんど不可能であり、(礼拝は)極秘のうちに、重大な危険を冒して行わなければならない。23年5月には、祈りと聖書の勉強のために集まった家族5人が逮捕され、キリスト教に関する文献が押収された。彼らは毎週集会を開いていたが、情報提供者により密告され、逮捕された」
オープンドアーズはまた、アフリカのサハラ砂漠以南の国々におけるキリスト教徒に対する暴力を取り上げた。この地域では、26カ国が「高度」の迫害レベルにあり、このうち15カ国は「暴力」による迫害が「極めて高度」とされた。WWLには、次のように記されている。
「迫害の全体的レベルが『高度』以上であったサハラ砂漠以南の26カ国のうち18カ国では、23年9月30日までに、少なくとも4606人のキリスト教徒が信仰を理由に殺害された。残りの8カ国では、殺害の記録はなかった」
このうち最も多くの人が犠牲になったのは、世界6位の迫害国とされたナイジェリアで、サハラ砂漠以南の国々における死者の9割に相当する4118人が命を奪われた。オープンドアーズは、この地域では紛争が続いているため、実際の死者はより多い可能性が高く、信頼できる統計を得ることは困難だとしている。
ナイジェリアでは、「ボコ・ハラム」や「イスラム国西アフリカ州」(ISWAP)といったイスラム過激派グループや、イスラム教徒が主体の遊牧民「フラニ族」の過激派などが、国内のキリスト教徒を標的に攻撃を行っている。
中国は19位だったが、教会に対する攻撃件数では上位10カ国にランクインした。中国では1万もの教会が閉鎖されたり、攻撃されたりしているとされ、WWLには次のように記されている。
「閉鎖された教会数が圧倒的に多いのは、中国のいわゆる『家の教会』だ。中国の文脈におけるこの用語は、しばしば誤解を招いてきた。『家の教会』は当初、礼拝のために集まった小規模で未登録の家庭的グループとして始まったが、その多くはホテル施設や賃貸オフィスのフロアなど公共の場所で集会を開き、大きく成長した」
「これらの教会には毎週何百人、何千人ものキリスト教徒が参加していた。しかしその自由は、新型コロナウイルスのための当局による措置が利用されたこともあり、今は終わってしまった。『家の教会』は現在、原点に戻り、あまり目立たない無数の家庭的グループとして分かれており、その多くは限られた教会指導者や資源しか持っていない」
ブラウン氏は、米政府が迫害されているキリスト教徒を保護する一つの方法として、国際社会で地位を望む国々に対し、信教の自由の保護を拡大するよう奨励することを挙げた。
「中国は経済大国になりましたが、信教の自由はそれに伴っていません。私は、それらを結び付けるような政策、つまり、貿易パートナーになることを望む国々に基本的人権の保障を促す政策が、確かに必要だと考えています」
その上でブラウン氏は、政治的働きかけ以上に重要なのは祈りの力だと述べ、米国内の教会に対し、同胞である世界中のキリスト教徒たちを支えるよう呼びかけた。
「教会には、祈りによって兄弟姉妹を支えるための大きな機会があると思います。自分たちは忘れられていない、自分たちは一人ではない、祈りによって自分たちを支えてくれる兄弟姉妹が世界中にいると知るだけで、世界各地の人々がどれほど励まされているかを聞き、私は謙虚にさせられ、また驚かされ続けています」
WWL(2024年版)に掲載された迫害国上位50カ国は下記の通り。
1. 北朝鮮 2. ソマリア 3. リビア 4. エリトリア 5. イエメン 6. ナイジェリア 7. パキスタン 8. スーダン 9. イラン 10. アフガニスタン 11. インド 12. シリア 13. サウジアラビア 14. マリ 15. アルジェリア 16. イラク 17. ミャンマー 18. モルディブ 19. 中国 20. ブルキナファソ 21. ラオス 22. キューバ 23. モーリタニア 24. モロッコ 25. ウズベキスタン |
26. バングラデシュ 27. ニジェール 28. 中央アフリカ 29. トルクメニスタン 30. ニカラグア 31. オマーン 32. エチオピア 33. チュニジア 34. コロンビア 35. ベトナム 36. ブータン 37. メキシコ 38. エジプト 39. モザンビーク 40. カタール 41. コンゴ民主共和国 42. インドネシア 43. カメルーン 44. ブルネイ 45. コモロ 46. タジキスタン 47. カザフスタン 48. ヨルダン 49. マレーシア 50. トルコ |