2023年1月23日15時49分

最新のキリスト教迫害国ランキング発表 「この30年で最悪の水準」

迫害/オープンドアーズ/ワールド・ウォッチ・リスト
北朝鮮では5~7万人のキリスト教徒が強制収容所などに収容されていると考えられている。(写真:オープンドアーズ)

国際的なキリスト教迫害監視団体「オープンドアーズ」による最新版の「ワールド・ウォッチ・リスト」が発表され、北朝鮮が再びキリスト教徒に対する世界最悪の迫害国となった。

オープンドアーズは17日、2023年版のワールド・ウォッチ・リスト(英語)を発表した。1993年から毎年発表されているこの報告書は、キリスト教徒が受けている迫害や差別の深刻さに基づいて世界の国々をランク付けし、上位50カ国をまとめたもの。2023年版は、21年10月1日から22年9月30日までのデータに基づいている。

北朝鮮が再び世界最悪に 「反動思想文化排撃法」制定

昨年は、米軍が撤退したことでイスラム主義組織「タリバン」が政権を奪取したアフガニスタンが、初めて1位となった。しかし今年は、前々年まで20年連続で1位だった北朝鮮が再びその座に着いた。

次いで、ソマリア、イエメン、エリトリア、リビア、ナイジェリア、パキスタン、イラン、アフガニスタン、スーダンが、今年のワールド・ウォッチ・リストにおける上位10カ国に入った。

オープンドアーズは、今年の調査結果に関する声明の中で、特に厄介な動きとして、北朝鮮で20年末に制定された「反動思想文化排撃法」を挙げた。

オープンドアーズ米国支部のリサ・ピアース暫定最高責任者(CEO)は、クリスチャンポストのインタビューに応じ、同法について、聖書を含む「あらゆる文献、西洋の影響を受けたものを所有している人を迫害することを正当化するもの」だと説明した。ピアース氏は同法を、北朝鮮が今年のワールド・ウォッチ・リストで1位となった理由の一つとして挙げる一方で、「実際には、教会にとってこれ(北朝鮮の現状)以上残忍な事態になることは難しい」と話した。

オープンドアーズは、脱北者のティモシー・チョー氏のコメントを引用して、キリスト教徒が北朝鮮現地で直面している状況を示した。

チョー氏は、「キリスト教徒は常に政権の攻撃の最前線に立たされています」と述べ、数十年にわたって北朝鮮を力で支配してきた金一族を非難した。「彼らの目的は、国内のキリスト教徒を一掃することです。北朝鮮に存在し得る神は、金一族だけなのです」

タリバン再支配下のアフガニスタン

米軍撤退後、タリバンによる再支配が大きく報じられる中、昨年、世界最悪の迫害国となったアフガニスタンについて、ワールド・ウォッチ・リストの創始者であるワイボ・ニコライ氏は、この1年間で状況は「本当に変わっていません」と述べた。一方、アフガニスタンが今年は9位と、順位を大きく下げたことについて、「多くのことが変化しました」と述べた。

「タリバンは政権を奪取した際、多くのキリスト教徒を殺害しました。そのため、キリスト教徒はもう残っていないのです。他の多くのキリスト教徒も、アフガニスタンから逃げていきました」

また、アフガニスタン国内にとどまることを決めたキリスト教徒も、徹底的に信仰を隠して生活しているという。

タリバンの再支配を受け、アフガニスタンを逃れた「ザビ」と名乗るキリスト教徒は、オープンドアーズに対し、避難先の隣国での状況について次のように説明した。

「私たちの状況は絶望的です。母と私は何とか国境を越えて別の国に入りました。私はこの国を出て安全な場所に行けるように祈っています。私は隠れなければならないでしょうし、さもなくば、アフガニスタンに強制送還されるでしょう。そうなれば、私は殺されるかもしれません」

ワールド・ウォッチ・リスト2023
2023年版のワールド・ウォッチ・リストに基づき、キリスト教徒に対する迫害がひどい50カ国を示した地図。赤色が「極度」、だいだい色が「非常に高度」、黄色が「高度」の迫害を示す。23年版は50カ国全てが「非常に高度」以上の迫害状況となっている。(画像:オープンドアーズのホームページより)

世界の殉教者の9割占めるナイジェリア

今年のワールド・ウォッチ・リストで6位となったナイジェリアでは、この1年間に信仰を理由に5014人のキリスト教徒が殺害され、前年の4650人から350人以上増加した。これは、世界の殉教者総数5621人の89パーセントを占める。一方、前年の世界の殉教者総数は5898人で、信仰を理由に殺害されたキリスト教徒の数は世界的には微減した。

ピアース氏は米国務省に対し、ナイジェリアを信教の自由の侵害において『特に懸念のある国』として再指定するよう求めた。ピアース氏は、現地チームからの情報に基づき、ナイジェリアが2年連続で「特に懸念のある国」から外れたことは「理解しがたい」と主張した。

地域全体を不安定化させる「イスラム国」

今年のワールド・ウォッチ・リストはまた、上位10カ国のうち4カ国を占めたサハラ以南のアフリカ地域が、キリスト教迫害の問題地として浮上していることも明らかにした。ワールド・ウォッチ・リストのリサーチ・マネージング・ディレクターであるフランツ・ベールマン氏は、「この地域全体が破局に向かっています」と語った。

「過激派組織『イスラム国』(IS)とその関連グループの目的は、地域全体を不安定にし、イスラム教のカリフによる支配体制を(最終的にはアフリカ大陸全体で)確立することです。彼らはこれを、長期的に見て手の届く目標だと確信しています。彼らは、非暴力で組織的なイスラム化を目指す他のイスラム主義者の支援を受けています」

「この宗教的動機による粛清の本質を直視していないのは、アフリカ諸国の政府だけでなく、世界中の政府なのです。このことがもたらす代償は、アフリカだけでなく、世界中の人々にとって計り知れないものとなるでしょう」

オープンドアーズによると、世界では3億6千万人以上のキリスト教徒が、信仰に基づく差別や迫害を受けており、これは実に世界のキリスト教徒の7人に1人に相当する。オープンドアーズは、キリスト教徒に対する迫害は「このリストの作成が始まって以来、この30年間で最悪の水準にある」としている。

なお、ヒンズー過激派による迫害が伝えられているインドは11位、10年以上内戦が続くシリアは12位、21年2月に国軍によるクーデターが起こったミャンマーは14位、共産党政権による迫害が伝えられている中国は16位だった。また、18年4月に発生した反政府デモ以来、政府による弾圧がエスカレートし教会もターゲットになっているとして、中米のニカラグアが50位となり、初めてランク入りした。