2022年11月3日21時21分

新・景教のたどった道(78)付録4:景教碑の書体と漢字について2 川口一彦

コラムニスト : 川口一彦

景教碑は、楷書体と行書体の混成で書かれています。書いた人物は呂秀巖です。優れた書体でまとめていることに大変驚きます。その景教碑と、その時代の最も優れた『九成宮醴泉銘』の書とを比較しました。

新・景教のたどった道(78)付録4:景教碑の書体と漢字について2 川口一彦
新・景教のたどった道(78)付録4:景教碑の書体と漢字について2 川口一彦

両書体を比較すると、「九」の書には鋭さと力強さがあり、「景」の書には柔らかさとおおらかさが見えます。両作者の性格や時代背景も反映していますが、景の筆者である呂秀巖が神の愛と義と聖に生かされていたことを反映しているかのようです。

最後に気になっていたのが、景教の「景」の出典についてです。

新・景教のたどった道(78)付録4:景教碑の書体と漢字について2 川口一彦

景教徒たちは745年に皇帝の命で大秦景教と改称するようになり、発見された唐代の墨書などは「大秦景教」に統一されています。景教碑が建つ前までの景については幾体かの書体がありましたが、景教の「景」はどこにも見当たりません。

そこで私が考えたのは、皇帝の許可を得て新たに造った文字ではないかということです。文字の意味は、上が口で神の言葉を、下が京で大きいという意味から、大きな神の言葉であるイエスの教えが中国に伝わった碑となります。

下に掲載した張少悌による屈元寿墓誌は、唐代750年のものです。この書風を見ると、景教碑と似ていることが分かります。呂秀巖と張少悌との間に交流があったかは皆目分かりませんが、王羲之の書を学んだとの評価があり、今後の研究材料として掲載しました。左の景は、右の墓誌から抜粋したもので、現在は西安碑林博物館所蔵です。

新・景教のたどった道(78)付録4:景教碑の書体と漢字について2 川口一彦

唐代の字書の「干禄字書」を作成したのは、役人で書家の顔真卿です。彼はこれを作って碑に刻み、親戚の顔元孫が著しました。この字書には景教の「景」が見当たりません。通とは世俗の意味、正は正式に使われていた文字。当時の唐代では、景教碑の景は大秦景教徒だけが使用し、特別に作成した字と言えます。発見された唐代の景教関連の遺書には全て4文字の「大秦景教」と書かれ、単に2文字で「景教」と書いたものは見当たらないからです。

新・景教のたどった道(78)付録4:景教碑の書体と漢字について2 川口一彦

まとめ

唐代の書法家たちの作品を見てきましたが、その多くは政治家や軍人、文化人で、書に優れていました。彼らの作品が世に注目を集めることができたのは、王羲之の書をこよなく愛して蒐集した太宗文皇帝の、文化政策をもって世を治めるという政治的働きかけがあってのこと。それらの書作品がわが国にも伝来して人の心を豊かにし、人を育て、書も育ててきました。書は人(心)であり、当然メッセージが込められています。

景教も、太宗文皇帝に受け入れられ、国際化の中で大きく発展しました。呂秀巖書の景教碑は、その背景から生まれました。碑文は漢字とシリア文字によって構成された唯一のキリスト教碑で、隣人愛にあふれた流麗で優れた楷・行書体は人の心を魅了して豊かにし、今日にも生きています。同時代の楷書作品と比べても劣ることなく、手本の中の一つであることを覚え、推奨したいと思います。

※文中の黒背景の中の白文字は拓本から取り込み、黒文字書は川口が書きました。

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※ 参考文献
『景教—東回りの古代キリスト教・景教とその波及—』(改訂新装版、イーグレープ、2014年)
『景教碑の風景』(シリーズ「ふるさと春日井学」3、三恵社、2022年2月)
『九成宮醴泉銘 欧陽詢』(高橋蒼石監修、天来書院、2016年)

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川口一彦

川口一彦

(かわぐち・かずひこ)

1951年、三重県松阪市生まれ。愛知福音キリスト教会宣教牧師、基督教教育学博士。聖書宣教、仏教とキリスト教の違い、景教に関するセミナーなどを開催。日本景教研究会(2009年設立)代表、国際景教研究会・日本代表を務める。季刊誌「景教」を発行、国際景教学術大会を毎年開催している。2014年11月3日には、大秦景教流行中国碑を教会前に建設。最近は、聖句書展や拓本展も開催している。

著書に 『景教—東回りの古代キリスト教・景教とその波及—』(改訂新装版、2014年)、『仏教からクリスチャンへ―新装改訂版―』『一から始める筆ペン練習帳』(共にイーグレープ発行)、『漢字と聖書と福音』『景教のたどった道』(韓国語版)ほかがある。

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