2021年9月19日06時36分

東京神学大学、後援会関係者らが債券とアカハラに関する公開質問状、大学側が回答【全文掲載】

記者 : 井手北斗

東京神学大学

東京神学大学北陸地区後援会の松原和仁さん(富山鹿島町教会長老)ら、日本基督教団の信徒有志が2日、同大の債券やアカデミックハラスメントの問題に関して「正確な事実関係と神様の御心」を尋ねる公開質問状を提出した。これに対し同大は14日、「信仰の事柄を今後も第一に考え、正すべきことがあればこれを正しつつ、神学教育に専心」する旨を回答した。

質問状は、同大学長の芳賀力氏と理事長の近藤勝彦氏に宛てたもので、送り主には松原さんと、石巻山城町教会長老の梶原友広さん、栗平教会長老の雲野士朗さんの計3人が信徒共同代表者として名を連ねた。質問状提出の理由について、松原さんは本紙の取材に、同大元教授の関川泰寛氏(大森めぐみ教会牧師)が5月末に同教団所属の約550教会に送付した資料を挙げた。

松原さんによると、富山鹿島町教会の小堀康彦牧師は同大の出身で、教会として毎年30万円、また信徒らも毎年20万円、同大に対し献金をささげているという。そうした中、同大がリスクの高い債券に投資をして、9千万円の損失を出したとする関川氏の資料が送られてきた。驚愕した松原さんは7月下旬に有志と話し合い、同大に誠実な回答と改善を求めるため、公開の質問状を提出することを提案。松原さんが原案を考え、他の有志の協力を得て内容を練り上げた。

同大はこれまで、債券問題に関しては、「差額」であり「損失」ではないとする説明や、資産運用規程を見直し、これまでの基金部会に代えて、専門識者を加えた「資産運用管理委員会」を新たに設置することなどを明らかにしてきた(関連記事:東京神学大学、資産運用管理委員会を新設へ 債券買い換えの経緯説明も)。

また、アカハラ問題に関しては、特設委員会を設置して調査を実施。特設委員会は、「違法性は認められない」としつつも、被害を訴えた学生の編入学に関する同大の対応や、編入学後の一部教授らの指導に一貫性が欠けていたことを踏まえ、同大のガバナンスについては改善すべき点が複数存在するとする調査報告書をまとめた。これを受け、同大常務理事会は教授会と共に学内の体制を改善することに合意したことを発表している(関連記事:東京神学大学、ハラスメント問題で調査報告を発表)。

松原さんはこの日、富山県から赴き質問状を提出。同大からは、質問の内容はすでに回答済みであると説明を受けたが、牧師や信徒の間ではまだ理解が十分浸透していない面があるとして、これまでの回答と重複したとしても、直接の回答を得たいと要請したという。

以下に、信徒有志が提供した質問状と同大の回答を掲載する。同大によると、この回答は13日に開催された常務理事会の審議を経て出された。

<以下、信徒有志による公開質問状>

東京神学大学学長 芳賀力 殿
東京神学大学理事長 近藤勝彦 殿

公開質問状

信徒共同代表者

1. 松原和仁(富山鹿島町教会長老)
2. 梶原友広(石巻山城町教会長老)
3. 雲野士朗(栗平教会長老)

日頃、東京神学大学のためにご尽力いただき感謝申し上げます。

さて、日本基督教団の諸教会に属し、東京神学大学を祈りと献金によって支援してきた私たちは、2020年7月号、12月号の経済誌「FACTA」、2021年5月 「朝日新聞」及び「週刊朝日」、『宗教問題』33号などの記事を通して、東京神学大学の実態に大きな問題点があることを知らされました。東京神学大学のHP並びに大学報(313号、2021年7月16日付)に学長名で弁明と説明文とが出されましたが、私たちの疑問に十分に答えて下さるものではありませんでした。

そこで、私たちは、正確な事実関係と神様の御心をたずねたく、貴大学に下記の諸点の質問をいたします。

記

《質問1》

私たち信徒は、東京神学大学に神さまへの感謝と御心に適った目的に用いていただきたいという思いから、長らく継続的に献金を捧げてきました。ここ5年間の年度ごとの信徒個人からの献金総額、各教会からの献金総額、学校その他の法人からの献金総額を教えてください。しかし、報道によりますと、その献金で、2016年にSMBC日興証券発行のリスクの大きい仕組債を購入したとのこと。金額は6億円にも上っています。それまでの3号基金は、国債や地方債など、つまり元本の保証された債券の購入によって運用されていましたが、なぜ、突然仕組債の購入をしたのでしょうか。民間企業などにとっては、倒産というリスクを抱える投機的な色彩の強い仕組債購入に見えますが、誰から提案され、どの会議で議論され、購入決定がなされたのでしょうか。また仕組債購入についての適切な説明が教授会や献金者、全国の後援会に対してなされたのでしょうか。なされたのであれば、その証拠となるものを提示していただきたく思います。

《質問2》

SMBC日興証券発行の6億円の仕組債購入後、翌年2017年の売却に伴って多額(9000万円)の損失が発生していたことがこの度明らかになりました。

この件について、東神大を祈り支えてきたわたしたちの教会への説明は一切なかったと記憶していますが、なぜ報告がなされなかったのでしょうか。マスコミに取り上げられてから、HPと学報で説明した理由を聞かせてください。

また、HPにおいて、今回の仕組債売却に伴う損失をあくまで「処分差額」であると主張されているのはなぜでしょうか。その根拠を改めて明示していただきたく思います。学報313号では、「売却損」という表現で、損失を認めているようにも受け取れます。損失を認めるのであれば、なぜ、これまで献金者に説明してこなかったのですか。すでに売却から3年以上たっての説明と公表の理由は何ですか。さらに損失の責任は誰が負うのでしょうか。

《質問3》

2021年7月16日付の大学報では、9千万円の損失を知りつつ売却した理由は、より利率の良い仕組債に乗り換えることが目的であった旨が芳賀力学長より説明されています。しかし、新規に購入されたドイツ銀行発行の仕組債は、格付けは学内の運用規程に合致したとしても、為替レートの変動によって、元本割れも起こるリスクの高い金融商品であることは誰の目にも明らかです。ドイツ銀行発行の仕組債で運用されている金額とその時価を教えてください。諸大学の会計報告では、誰もが債券の時価を知ることができるようになっています。東神大の場合にも、時価の報告が会計書類では不可欠のように思います。なぜ、時価の公表をこれまでしてこなかったのでしょうか。

《質問4》

ドイツ銀行の仕組債の購入によって、利子収入が増加し、既に3年半が経過していると書かれています。しかし、仕組債は、経済の変動によって、利率の変化や元本割れなどの事態が生じることもあります。東神大は、そのリスクをどの程度把握しているのでしょうか。

2020年4月以降の新型コロナウイルスの感染拡大が景気に及ぼす影響なども考慮すると、ドイツ銀行発行の額面6億円の仕組債の時価の下落や利子の減少なども今後予想されます。このようなリスクの説明は、理事会、評議員会、諸教会になされてきたのでしょうか。さらには、リスクの問題を教授会などで共有していたのでしょうか。共有されていないとしたら、誰が時価総額の下落の責任を取るのでしょうか。

それに加え、上記大学報において「100%円償還」、「償還時に額面通りの額が戻ることを見込んでおります」と繰り返し語られていますが、償還日(満期日)は一体いつですか。償還日の時期を明示してください。もし償還日までに払い戻しの必要が生じた場合、途中償還ができる商品なのですか。もし、途中償還を行うとなった場合、「償還差損」はどれくらい発生するのですか。

《質問5》

私たち信徒は、聖書を通して、神様のみ言葉を語ってくださる教職のみなさん方は、キリスト教的な倫理意識のある方として尊敬してきました。ましてや、プロテスタント諸教会の教職養成機関である東京神学大学の先生方は、より高い倫理観と人格をお持ちだと思っていました。残念ながら幻想にすぎなかったのでしょうか。

ところが現在、その東神大の学長と一部の教授に対して、元学生や元教授から複数の訴訟が起こされています。さらに、新たな裁判の準備も進んでいると伺っています。

パワーハラスメント行為、アカデミックハラスメント行為で見落としてはならないのは、被害者が苦しんでいる事実です。献身の志が傷つけられ、神さまの召命、ご計画が妨害されているということです。被害者は、心身ともに疲弊し、傷つき、回復に至らない現実に直面しています。そうしたハラスメント行為に及んだ教師たち、またそれを隠蔽しようとする大学側の責任ある立場の人間に対して、誠実な回答と責任ある対応を求めます。さらに学長と一部の教授に対して複数のハラスメント被害の訴えがなされていることについて、理事会及び教授会はどのような道義的な責任があると思われますか。とりわけ、ハラスメントが原因で、学部で退学した方々への大学としての責任ある対応をお聞かせください。

《質問6》

上記質問1~5の問題点を通して、あらためて、東京神学大学の理念と神様の御心に沿っているか、祈り、考えていただきたいと願います。この世の法的責任だけでなく、宗教者、聖職者として、東京神学大学の今後の改善と再生をどのように考えておられますか。

以上の質問に対する回答を2週間以内にお願いいたします。

<以下、東京神学大学による回答>

信徒共同代表者
松原 和仁 殿
梶原 友広 殿
雲野 士朗 殿

公開質問状に対するご回答

《質問1へのご回答》

ここ5年間の年度ごとの献金総額については、以下の通りです。

aaaaaaaaaaaaaa 2016年度 2017年度 2018年度 2019年度 2020年度
教会 教会賛助金 69,405,814 68,479,497 67,388,685 66,376,838 64,805,725
奨学金(諸団体含む) 4,054,986 5,808,649 5,959,160 5,491,638 9,422,153
キャンパス整備募金(諸団体含む) 0 37,281,496 51,504,587 40,859,258 42,135,055
建物設備献金 10,357 150,195,000 15,000 0 0
教会合計 73,471,157 261,764,642 124,867,432 112,727,734 116,362,933
個人 後援会献金 69,003,682 71,699,027 63,550,261 68,112,815 66,223,555
奨学金 4,484,150 3,575,000 12,603,000 3,034,066 3,873,500
キャンパス整備募金 0 46,234,874 31,158,300 27,847,010 17,410,600
建物設備献金 4,686,000 101,500 93,000 0 10,000
その他 26,562,595 0 0 0 0
個人合計 104,736,427 131,610,401 107,404,561 98,993,891 87,517,655
学校
その他
同窓生賛助金 3,516,210 3,448,271 3,037,240 3,333,131 8,060,942
諸団体賛助金 2,326,872 2,145,811 2,122,607 1,922,571 1,937,672
学校賛助金 6,428,684 6,698,500 6,098,000 6,428,755 6,505,000
学校その他合計 12,271,766 12,292,582 11,257,847 11,684,457 16,503,614

質問中で『しかし、報道によりますと、その献金で、2016年にSMBC日興証券発行のリスクの大きい仕組債を購入したとのこと。』と、上記のご献金で仕組債を購入したと認識されておられるようですが、上記のご献金は各年度における日常的な運営やキャンパス整備計画のために用いられているご献金で、2016年度の仕組債購入のために用いられているご献金ではありません。

運用資産は第3号基本金として保有しており、その原資は上記のご献金とは別に賜っている基金献金です。第3号基本金は、「元本を保持運用し、それによって生じる運用果実を日常的な運営のために供する」ことが目的の基本金です。東京神学大学の財政安定のために1992年度より基金拡充募金が呼びかけられ、資産運用が行われてきた経緯があります。しかしここ数年は、昨今の低金利政策によって利率が低下しているため、積極的な呼び掛けを行っておりません。第3号基本金は、所有するだけでは置いておくだけの資産です。ただ所有するだけではなく、運用し、日常的な財政安定のために供される利息を生み出す責任があります。

2016年度の仕組債購入は、第3号基本金として保有していた国債の売却に伴うものです。この売却では1億2800万円の売却益が生じており、追加で他の資産を購入資金に充てることはしておりません。仕組債を購入したのは、国債の代替債券として証券会社より提案されたためです。国債を売却したのは、キャンパス整備計画のための資金繰りについて、大学としてできる自己努力が検討されていた中、日銀の国債買い増しによって国債の時価評価が急上昇しており、その売却益をキャンパス整備計画へ充当するのが妥当であるという判断が、2016年7月11日の基金部会でなされたためです。

このような債券の売却及び購入については、決算報告に記載した以外は、殊更説明しておりません。

《質問2へのご回答》

2017年度の仕組債売却に伴う損失は「処分差額」です。学校会計では、売却益のことを「売却差額」、売却損のことを「処分差額」と言います。2017年度の取引は、「保有していた債券を購入時の価格よりも安く売却した」ことによる売却損ですので、会計監査で「処分差額」として会計処理を行うよう指導があり、その通りに致しました。それに伴い、『第3号基本金引当特定資産処分差額の発生について』という議題で、2018年3月26日の定期理事会、定期評議員会で事後報告を致しました。

2016年度には国債の売却により1億2800万円の売却益も生じております。2017年度の売却損9000万円のほか、国債売却による利息減を差し引いても3000万円余りの益となっています。この件については、第3号基本金が一般の後援会献金とは別枠の資産であるため、説明致しませんでした。しかしながら、この度文科省への訴えがあったことから、説明文を掲載致しました。

資産の管理については、本学寄附行為第13条にある通り、理事会の審議決定事項であり、従ってその管理責任については、理事会が負うことになります。

《質問3へのご回答》

ドイツ銀行の仕組債で運用されている金額は510,000,000円で、その債券の利息は日常運営に供されており、事業活動収入の約4%(現在1830万円 / 年)を占めております。

債券の時価は、534,210,000円(2021年8月末時点)です。ただし、日常的な時価の上下変動が直ちに大学の損益となるものではありません。学校会計では、年度末の時点で購入時の価格よりも50%以上下落しなければ、評価損として計上することはありません。これは国債でも同様です。本債券で時価の損益が確定されるのは、主に債券の売却・購入時、償還時点です。

また、時価情報は必ず、毎年度の会計書類で記載しております。文部科学省や私学共済に提出される会計書類には、貸借対照表の注記事項の中で、時価情報が明示されています。ホームページで公開されている計算書類は、従来通り私学共済より明示されている公表例のフォームそのままに従ったものを公表しています。簡略化されているフォームであるため、注記事項についてホームページ上では確認することができませんが、大学事務室には、文部科学省や私学共済に提出される会計書類と同様の、外部閲覧用の会計書類が備えられています。希望があれば、大学事務室にて記名の上で、閲覧することができます。

《質問4へのご回答》

ドイツ銀行債券の途中償還は出来ますが、現在のところは検討しておりません。ただし、10年目以降にドイツ銀行がコール償還をかけられる条項が付いています。その場合は100%の円償還で2017年度の売却損9000万円が、売却益となって償還されます。満期は2047年11月27日ですが、途中でコール償還がかかる見込みが高いと証券会社より提案がありました。ドイツ銀行債券は、債券の売却・購入時、満期償還時以外では、債券の損益は確定しません。従って、最も大きなリスクは発行体の倒産であると捉えています。ただしこれは、どの債券でもリスクがあります。

このようなリスクの説明は、2017年11月6日の基金部会で行い、理事長の承認を経て債券の売却、購入を行っています。また、理事会でも報告を行っております。時価総額の下落についても、質問2でご回答しました通り、必要に応じて、理事会が責任を負うことになります。

《質問5へのご回答》

ハラスメント問題について本学は細心の注意を払い、訴える側の人権が保護され、真偽が明らかにされるよう、全力を努めてきました。そのため、元学生の訴えを受け止めてハラスメント調査委員会による調査を行いましたが、調査委員会に知られていない新しい資料の存在が明らかにされ、内部調査を進められなくなりました。しかし、問題をうやむやにせず、外部の第三者委員会に当たるハラスメント問題特設委員会を立ち上げ、中立の立場にある弁護士および複数の補助弁護士の徹底した調査を行ってもらいました。報酬に関しては、最初に契約した通り、調査の実当な労働対価として支払いました。調査結果は、教育上の指導に違法性はないとなりました。なお原告は裁判を起こしておりますが、その第一審では原告の訴えは棄却されました。私どもはただそれに従うほかありません。公開質問状が、正確な事実に基づかず、一方的な決めつけを行っておられることは残念なことです。その他の裁判は、直接ハラスメント問題を訴えているのではなく、名誉毀損をもとに損害賠償を請求するもので、こちらも司直の判断を仰ぐほかありません。

《質問6へのご回答》

私どもの方で裁判に訴えているのではなく、先方がそのような手段を講じているため、それに応じているにすぎず、この点も大変遺憾に思う次第です。私どもは信仰の事柄を今後も第一に考え、正すべきことがあればこれを正しつつ、神学教育に専心していく所存です。

2021年9月14日

〒181−0015
東京都三鷹市大沢3−10−30

学校法人 東京神学大学

理事長 近藤勝彦
学長 芳賀カ