2018年12月27日14時02分

信仰が試されている米国のゴスペル音楽界 ドニー・マクラーキンが1週間にわたるリバイバル集会

執筆者 : 打木希瑶子

信仰が試されている米国のゴスペル音楽界 ドニー・マクラーキンが1週間にわたるリバイバル集会
「A Week of Revival」で語るドニー・マクラーキン

有名ゴスペルアーティストで牧師のドニー・マクラーキンが11月25日~12月1日の1週間にわたり、ニューヨーク州の自身の教会で「A Week of Revival」という集会を開催した。Revival(リバイバル)という単語は辞書を引くと「復活」と出るが、キリスト教では「信仰復興」を意味する言葉だ。教会生活や信仰が形式化し、まるで神と関係がないように生きてしまっているクリスチャンたちが、再び信仰に立ち返ることを意味する。

現代の米国は昔と違い、夫婦が働く共働きが当たり前。ニューヨーク市のような家賃の高い地域では核家族が多く、夫婦だけの子育てが一般的だ。こうした生活環境の変化は信仰生活にも大きな変化をもたらしている。2017年に米国で行われた世論調査によると、毎週教会に通っている人は23パーセント。わりと通っていると答えた11パーセントと合わせても3割程度だ。まったく行かないと答えた人も27パーセントおり、毎週日曜日は家族で教会に通うという風景は見られなくなってきた。

その影響は、ゴスペル音楽業界にも及んでいる。私が関わっている全米最大級のゴスペル音楽イベントの一つ「マクドナルド・ゴスペルフェスト」も、毎年コンテスト部門のオーディション参加人数が減少している。また数々の有名ゴスペルアーティストを輩出した「サンデー・ベスト」というテレビのオーディション番組も2015年に終了した。子どもの頃から教会で音楽に触れて育ったという米国人が減少し、ゴスペル音楽に興味を持つ若い人たちも減ってきている。そうなると、これまでゴスペルアーティストとしてレコード会社と契約し、プロの音楽家として生活をしてきた人たちの仕事も減ってくる。

こうした財政事情からか、米国の有名ゴスペルアーティストの中には、これまでタブーとされていたイベントにも出演する人たちが出てくるようになってきた。米クリスチャンポストは、11月12日にニューヨークで統一協会の集会が行われ、ヨランダ・アダムスやヘゼカイア・ウォーカー、イスラエル・ホートンなど、米国を代表するゴスペルアーティストたちが出演したと報じている。記事には「イエスを失敗した人物だと言っている統一協会のPR活動に、なぜ彼らが参加したのか。問い合わせても回答はない」と書かれていた。

集会が開催された場所は、ニューヨーク州のロングアイランド地区。ドニー・マクラーキンの教会から車で15分程度の場所だ。実は2017年に統一協会がニューヨーク市で同様の集会を開いた際、ヘゼカイア・ウォーカーやヨランダ・アダムスは出演したものの、同じくオファーを受けたドニー・マクラーキンは「私はジーザスから離れることはない」と出演を断っている。それが関係したのか否かは分からないが、彼の教会とこれだけ近くで大きな集会を開くのは何か意図があるのではないかと疑ってしまう。

信仰が試されている米国のゴスペル音楽界 ドニー・マクラーキンが1週間にわたるリバイバル集会
「A Week of Revival」のポスター。男性よりも女性のゲストスピーカーの方が多いところがニューヨークらしい。

そんなネガティブな私の思いを吹き飛ばすような集会が、この「A Week of Revival」だった。12月1日は、この集会を祝うためのコンサートが行われるということだったため、通常の集会最終日となる11月30日に取材に伺った。

ゲストスピーカーは日替わりで、この日はマービン・ワイナンズが登場した。マービン・ワイナンズといえば、ゴスペル音楽のシンガー、ソングライター、プロデューサーとして有名であり、グラミー賞なども獲得している一流アーティスト。1989年にデトロイトで教会を設立し、牧師としても活動している。

信仰が試されている米国のゴスペル音楽界 ドニー・マクラーキンが1週間にわたるリバイバル集会
集会のオープニングでスピーチする若い教会メンバー

集会の初めには教会のクワイアが登場し、30分ほど参加者と共に賛美。驚いたのはリードボーカルの2人が若かったこと。次世代のワーシップリーダーをしっかりと育てていることを実感した。

そして、音楽ゲストも若かった!「The Group Fire」という17〜23歳の男声カルテットが登場した。若い音楽家による昔ながらのカルテット・サウンドに、参加者(特に50代以上)は大歓声を上げていた。

信仰が試されている米国のゴスペル音楽界 ドニー・マクラーキンが1週間にわたるリバイバル集会
音楽ゲストの「The Group Fire」

最後にマービン・ワイナンズがメッセージを伝えた。

「いろいろなクリスチャンリーダーが世の中に登場している。しかし、それらがすべて正しいリーダーたちとは限らない。聖書の勉強や祈りに時間を使わないリーダーたちもいる。イエスの教えについて語らないリーダーたちもいる。もっともらしいことを語りながら、まったく聖書の教えから離れた行動を取っているリーダーたちもいる。そんなリーダーたちについていってはならない」

そして「今夜、この集会に集まった人たちは幸せだ。なぜなら、素晴らしいリーダーがここにいるからだ」とドニー・マクラーキンを称えると、参加者は拍手し、歓声を上げ、1週間にわたり毎晩集会を開いた教会リーダーを称えた。

信仰が試されている米国のゴスペル音楽界 ドニー・マクラーキンが1週間にわたるリバイバル集会
ゲストスピーカーのマービン・ワイナンズ。ドニー・マクラーキンを一流の音楽家、また牧師として導いた恩師でもある。

それに応えるかのようにドニー・マクラーキンは最後に次のように語って、4時間近くにわたった熱い集会を締めくくった。

「みんな仕事があり、家の用事もある中、1週間毎晩、私に付き合って集会を開催してくれた。ミュージシャンもシンガーもクワイアも、毎日自分たちの仕事が終わり次第、すぐに教会に駆け付けてくれた。映像係、音響係、照明係、誘導係、セキュリティー、車の送迎係も! 本当にみんな毎日ありがとう。おかげで素晴らしいリバイバル集会ができた。私たちのリーダーはジーザス! その信念を変えてはならない」

そのドニー・マクラーキンは集会後の12月中旬、何と大きな交通事故に遭ってしまった。写真を見たが、車はぐちゃぐちゃ。しかし奇跡的に助かり、かすり傷程度で済んだという。事故から数日後にあった日曜礼拝も通常通りに行われた。また、ドニー・マクラーキンの妹で、オレンジゴスペルの全国ツアーのため、私と一緒に今秋、来日してくれたアンドレアさんによると、病院で処置を受けてから、集会開催前から行っていた宣教ツアーのため再びアフリカに行き、帰国してからその週の日曜礼拝に行ったのだとか。信じられない行動力に驚かされる。

ドニー・マクラーキンは21日にはファンに向けて、SNSを通してこのようにコメントを出している。

「病院に搬送されたときの写真はジョークでSNSに載せたんだよ。『神様は、こんな風に私たちを守ってくれてるんだよ!』という意味でね!(笑)今回の事故は『私たちは、この下界のくだらないことにエネルギーを注いでいる時間はないんだよ』っていう天からのメッセージだったと思う。私たちは自分たちをもっと高いところに置くべきなんだよ。私は、それを伝えなくちゃいけなくて、今回の事故から守られたんだと思うよ!」

そして、コメントの冒頭でヨランダ・アダムスやヘゼカイア・ウォーカーらの名前を挙げ「私のために祈ってくれてありがとう」と伝えた。

信仰が試されている米国のゴスペル音楽界 ドニー・マクラーキンが1週間にわたるリバイバル集会
教会のクワイアをリードする若い女性ボーカリスト

今、米国のゴスペルアーティストたちを含め、私たちクリスチャンは皆、信仰が試されているのだと思う。来るべき日のためのカウントダウンが始まっているのかもしれない。カルトのPR集会に出演したアーティストたちを批判することは簡単だ。しかし、私たちも日々の誘惑に絶対に負けていないと言えるだろうか。「生活のため」と言って、自分の信念から離れてしまったことはないだろうか。

私たちは人を裁いてはならない(マタイ7:1~5)。人を非難するエネルギーを、信仰に立ち返るためのエネルギーに変えるべきではないだろうか。

ゴスペルアーティストを含め、すべてのクリスチャンたちのために祈り、イエスにまだ出会っていないノンクリスチャンたちのために祈り、そして自分自身も誘惑に負けないように祈る。

日米の話だけではない。今、全世界のクリスチャンにリバイバルが必要なのではないかなと今回の取材を通して感じた。

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打木希瑶子

打木希瑶子

(うちき・きょうこ)

米ニューヨーク在住のゴスペル音楽プロデューサー。米国のスピリチュアル音楽レーベル「Pure Soul Music」の代表も務め、グラミー賞会員として、毎年、作品エントリーを続けている。また、アジア人として初めて全米最大級のゴスペルコンテスト「マクドナルド・ゴスペルフェスト」の審査員に選ばれた。日本の「オレンジゴスペル」の企画者であり、ゴスペル音楽を使って子ども虐待防止を呼び掛ける「オレンジリボン運動」の啓発にも協力している。ニューヨーク・ハーレムのベテル・ゴスペル・アセンブリー教会で日本語ミニストリーを担当。2016年秋からは、毎週水曜日午後10時(日本時間)にオンラインのバイブルクラス「国際人としての常識 “聖書” を学ぼう」を開催している。コロナ禍を機に、ニューヨークのアライアンス大学(旧ナイアック大学)で学士号(心理学)取得。現在はバージニア州のリバティー大学に大学院生として在籍。専攻は神学(キリスト教弁証学)。講演(オンライン可)・執筆・コンサルテーションなどの依頼、その他の問い合わせは、ニューヨーク・ハレルヤ・カンパニーの公式サイトから。